第13話 もぉーーーーの凄く相性の悪い相手


 月曜日、昼休み。


 この日も食後に生徒会室にお邪魔したスミレとモエギは、昨日の出来事を包み隠さずに生徒会長と副会長に伝えた。義務では無いが、話せば何か良案を貰えるかと思ったのだ。


「本当に君たちは楽しそうだね」


 副会長、稗島シヅカが屈託の無い笑みを浮かべた。自分の失態を吐露されたモエギは、いたたまれないのか背中を向けて珈琲の準備をしていた。


「しかし、身体の一部に能力を使うか。稗島もそうだが、中々容易に出来ることではないな」


 生徒会長がスミレの持ってきた羊羹をつまみ、感想のような助言を呟いた。


 副会長、稗島シヅカの能力は身体を霧にするものである。全身を霧にする芸当も勿論可能であるが、一部だけの方が体力は使わない。その代わり集中力を使う為、慣れなければ逆に精神力が減ってしまうらしい。


「でも、わたしの霧と違って、スミレくんは生身でしょう?」


 副会長の台詞に、スミレは頷いた。迅速能力で移動している間、スミレは無敵状態である訳がない。速度を出して何かに当たれば、勢いの分だけ衝撃は大きい。霧と化している間だけ無敵な能力と比較しても、あまり参考にはならなさそうだ。


「……あれ、モエギ」


 モエギの腰に下げている生徒端末が、光り輝いているのにスミレが気が付いた。その声に腰に目を向けたモエギが、驚愕の表情で生徒端末を手に取った。


「挑戦状……?」


 座っているスミレからは、立っているモエギの端末の画面は見えない。台詞から察するに今モエギの端末には、挑戦状という文字が記載されているようだった。


「おっ、来たね来たね。相手は?」


「……え、もしかして試合の申し込みですか?」


「ご名答」


 人差し指を立て、副会長が満面の笑みで頷いた。


 現生徒会役員候補に生徒会能力戦を申し込むには、生徒端末で挑戦状を送らないといけない。これが受理された時点で、今の生徒会役員全員へと通達が行く。そして生徒会が、試合の場を設けるのだ。


「ちなみに拒否も出来る」


 副会長の説明によると項目には受理と拒否があり、挑戦を受けない選択肢も用意されているらしい。モエギに画面を見せて貰うと、スミレも項目を確認出来た。


「ちなみに……拒否し続けることも出来るが、逃げ続けて生徒会役員になった者は居ない」


 生徒会長の台詞に、納得したように頷くモエギとスミレ。確かに闘いから逃げ続けた者が、この能力者だらけの学園で、生徒達の代表になんてなれる訳がない。


 意を決したように、受理の項目を押したモエギ。すると生徒会長、ならびに副会長の生徒端末も鮮やかに光り輝いた。


「わお、強敵だね」


 自分の端末を見た副会長が、嬉しそうな声をあげた。勢いで押してしまったモエギなので、相手が誰だか確認していなかった様子だ。


「だ、誰です?」


「僕の弟」


 副会長の台詞に驚いた二人は、顔を合わせてモエギの端末に目を向けた。挑戦者名の欄を見ると、稗島ザクロという記載があった。モエギもスミレも、口をポカリと開けた。


「そっか、違うクラスだから知らなかったんだね」


 スミレとモエギは二年B組で、挑戦者の稗島ザクロは二年A組らしい。教室が違うのであれば、互いの能力は分からない。しかし挑戦者は間違いなく先日のモエギの試合を見ているであろうから、一方的に能力が知られてしまっている状態だ。


「教えて頂くなんて……無理ですよね?」


 モエギの問いに、副会長は微笑みながら頷いた。


 生徒会は自分の知らない生徒の揉め事に、介入する場面だってある。その場合、能力は一方的に知られている状況だ。それでも有事の際にはコトを収めないといけないのが、生徒会役員の仕事である。


「一つヒント、教えてあげる。ザクロの能力はモエギくんにとって、もぉーーーーの凄く相性の悪い相手だよ」


 副会長の台詞を耳にしたモエギと、スミレまで顔を青くした。


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