第12話 普通の人間は、すぐに伸ばせない
分身には痛みが発生しないのだから、大丈夫ではないか。
クチナシの案が却下されたのは、分身であろうと骨折はするからだ。もちろん本体の腕まで折れる訳ではないが、残存耐久値は間違いなく減る。その上、折れた手は使えなくなる。
先ほどの結果では骨折まで行かなかったのは、スミレが能力の速度を絞っていた結果だ。手加減で勝てるような試合では無いだろうから、どこまで絞れば大丈夫かに心血を注ぐ必要は無い。
始めは良案に思えたが、見事に諸刃の剣だった。腕でこうなるのだから、蹴りでも同じ結果になるだろう。
格闘技のように手を覆うものを用意する案もあったが、会場に道具は持ちこめない。何か能力で生み出したものならば有りだが、そんな都合の良い力はスミレには無い。
次にクチナシから出てきた案は、髪の毛を使うものだった。
身体の一部が早く動かせるならば、髪の毛を飛ばせるのではないか。
しかし、それも失敗に終わった。スミレの身体から離れた瞬間、一本の髪の毛はひらりと床に落ちて終わった。
仮に成功となったとしても、多用すれば近い将来ハゲになる危険性もあった。それこそ、諸刃の剣である。
「爪とか言うなよ。お前と違って普通の人間は、すぐに伸ばせないんだ」
モエギの一言にビクリとなったクチナシを見るに、同じような話をするつもりだったのだろう。事前に案を封じたのは、万が一スミレが実験をするのを防ぐために違いない。
「オレは爪伸ばせるけど、飛ばせないからな……出来たら最強ネイルブロスになったのにな!」
妙な企みを吐露されたスミレは苦笑いをし、モエギは溜息をついた。
「お前、スミレの身体をオモチャにする為に来たのかよ」
「い、いや、オレだってな! 真面目に考えてるつもりだ!」
再び口論を始めたので、スミレが何とか二人を宥めた。元はと言えば協力を頼んだのはスミレ自身なので、クチナシに迷惑を掛けているような気がしたのだ。
「ごめん、クチナ師匠。僕のせいで……」
「別にスミレが謝ることじゃない」
「オレだって、お前を応援してない訳じゃないんだぞ」
モエギとクチナシが交互に言ったから、スミレは何かを感じ取った。この二人は、決して相性が悪い訳ではない。何かしら切っ掛けがあれば、凄い仲良くなれるのではないか。
しかし、その何かが思いつかないスミレは、再び口論を始めた二人を静めるしか出来なかった。
この時の行動を、先でスミレは後悔する羽目になる。何をしてでも二人を仲良くさせていれば、モエギもクチナシも傷つかずには済んだのだろう。
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