第10話 ゾンビじゃねえわ!


「チョイスが渋いな!」


 教えを乞う以上は、お礼は大事。そんなスミレが用意したのは、すあま、羊羹、かりんとう、タイヤキと見事な和菓子の品揃えだった。


「ご、ごめん。ケーキとかクッキーとかの方が良かった?」


 クチナシの意見を耳にして、スミレは困惑の表情を浮かべた。いつもモエギが美味しそうに食べてくれるせいか、和菓子が嫌いな日本人は居ないと思っていたのだ。


「スミレの好意をムゲにすんなら、喰わないでいいぞ」


「いや喰うよ、嫌いじゃねえし!」


 モエギの台詞に喰い掛かるように、クチナシはタイヤキを口に運んだ。何となく意地で食べていたような顔が、いつの間にか綻んでいた。それを見たスミレは少し微笑み、モエギは鼻で笑った。


「旨いか? 旨いだろう、スミレのじいちゃん家、和菓子屋なんだぞ」


「マジかよ、それ早く言えよ」


 友達の実家で作ったものならば、彼も食べる前から難癖はつけなかっただろう。後出しで知らされた情報を耳にして、改めてタイヤキを頬鳴るクチナシだった。満足そうな顔を見て、スミレは安堵の表情を浮かべた。


「で、スミレ。なんでコイツが俺らの部屋に?」


 珈琲を淹れながら、モエギは同居人にクチナシを連れてきた理由を尋ねた。彼からすれば秘密特訓に出た筈の相棒が、何故か同級生を連れて帰ってきた状況である。


「クチナ師匠すごいから、何か僕の能力にヒント貰えないかと思って……」


「この爪野郎に?」


「誰が爪野郎だ。このアンデッド!」


 モエギに妙な二つ名をつけられた仕返しに、クチナシも言い返した。どうやら彼は、モエギの能力を勘違いしているようだった。


「ゾンビじゃねえわ!」


 モエギは不死身でも無ければ、毒も効くし病気にもなる。あらゆる衝撃や威力が無と化すというだけで、色々な意味で勘違いされる能力なのだ。


「モエギ……今のはどうかと思う」


 先に売り言葉を放ったのはモエギなので、スミレは彼に非難の目を向けた。決してスミレは、クチナシをコケにするつもりで連れてきた訳ではないのだ。


「……ああ、すまんな。悪かったよ」


「しっかりしろよ、次期副カイチョーさんよ」


 それを指摘されてしまえば、モエギは返す言葉も見つからなくなってしまった。先日のモエギの試合も全生徒の端末に配信されていて、誰もが次期副会長だと知られてしまっている。


 彼の今の言動は、どう見ても次期役員候補として、品の無さすぎるものである。更に言えば、今の副会長が清廉潔白で品行方正な方だ。


 これからモエギも、望まずとも比較される場面が増えてくるだろう。自分のやり方を主張するには、まだ早すぎる段階である。

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