第7話 日曜日


「君は素晴らしい力を持っている。単純だからこそ、いくらでも使い方や手段を選べる能力だ」


 昨日の練習試合終了後、生徒会長の士熊ツユクサの放った台詞が、ずっとスミレの脳内で響いていた。


 能力は、使い方や手段よっては幅が広げられる。生徒会長の台詞を聞いたスミレは、授業で教わった内容が脳裏をかすめた。


 学園島は能力者の通う学校や、施設が用意された場所である。学園に通う生徒は皆、おのおのが能力を研究出来るような環境だ。また教師も能力者であり、授業では義務教育の他に、能力に関連した内容なども教えている。


 まずスミレは、軟化還元という能力を頭に浮かべた。


 軟化還元とは、物の硬度を自由に調節できる能力だ。例えば軟化還元の場合は、鉱物を柔らかくして壊すような目的が主な手段だ。しかし、ときには硬い物を柔らかくして、食べ易くする仕事に用いる場合もある。


 このように己の能力を工夫して、人に役立てるものにするというのが、学園の模範的な能力の用い方である。


「つまり、もっと自分の能力を研究しろって意味だよね」


 生徒会長は、相手の状態を可視出来る能力を持っているが。それだけに留まらず、身体も鍛えて闘えるようにしている。


 学園島の能力者は自衛手段の一つとして、授業で基礎訓練を受けている。しかし、それは全員の話。きっと生徒会長は他の人より、自分の筋力の底上げをしている。


 しかし生徒会長は、身体を鍛えろとは言っていない。それだけにスミレは、頭を使うよう余儀なくされている状況なのだ。


「どうした福引で玉が出なかったような顔して」


 モエギがスミレの前に挽きたての珈琲を置いて、ゆったりと椅子に腰掛けた。食後の一杯は、スミレの分も用意してくれているのだ。


「どんな、か……使い方してる? モエギのゼロ」


 どんな顔だよ、と突っ込みそうになったスミレだが、面倒なので流した。ゼロとは、モエギの威力無効化能力の名称だ。


「ゼロは俺に何も教えちゃくれないさ」


 少し意味不明な発言だったので、スミレなりに噛み砕いて考えてみる。つまり、特に何もしていないのかもしれない。しかし、それも頷ける話だった。なんせ彼の能力は、何もしなくても勝手に働いてくれるものだからだ。


「会長に……能力の使い方や手段を考えた方がいいって」


「クイックリィ・ハイパーのか……」


 モエギは能力にカッコイイ名前を付けるのが得意だが、スミレの迅速能力は少し芳ばしいものだった。しかし特に何も思いつかないスミレは、甘んじて受け入れている。


「今まで僕は移動に使っていたんだけれどね」


「そりゃ、そうだろ。移動の能力なんだから」


「……だよね」


 モエギの台詞に頷くしかなかったのは、スミレも同じような話をされたら、そう答えるしか無かったせいだ。


 迅速能力は瞬間移動ではない、進行方向に障害物があれば衝突してしまうからだ。飽く迄も古武術の縮地のように、速く動くだけの能力なのだ。

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