第3話 副会長に、なりにきました!
米田グンゼが生徒会長候補に選ばれた次の日の放課後である。
この学園に通い始めて二年目になる二人だが、スミレが生徒会室に入ったのは初めてだった。
想像していたよりも、普通の教室だった。机、事務椅子、本棚。まるで文化部の部室と変わらないので、スミレは少し拍子抜けた。もっと学園長室のように、大きくて豪華な椅子でもあるのかと。
「キミが、今回わたしに挑戦するモエギくんだね?」
生徒会長と副会長が並んで、スミレとモエギに対峙していた。
生徒会能力戦は昨日のように生徒端末に配信されるが、スミレはどうしても付き添いを希望した。やはり応援するのなら、その場に居たい気持ちが強かった様子だ。
「二年B組、治田萌葱です。副会長に、なりにきました!」
あまりにも面の皮の厚いモエギの発言だったが、生徒会長は黙って頷き、副会長は少し愉快そうに微笑んだ。
生徒会長は時代劇に出てくる俳優のような格好良さだが、対して副会長は歌舞伎役者のように綺麗な人だ。スミレも何度か生徒総会で顔は見ているが、同じ性別と思えないくらい美しい顔立ちだった。
「キミのような気骨のある子は、会長がいいんじゃない?」
「会長は、コイツがなります」
「うでぇ⁉」
急に自分に矛先が向いたものだから、スミレは変な声が出てしまった。
「……だって、会長」
「そうか……米田は強かった。苦戦は強いられるぞ」
「は、はひ……」
折角の会長の助言なのに情けない声しか出なかったので、穴があったら入りたい気持ちのスミレだった。
「何故か知らないけどね、学園島ってイケメンが多いんだ」
副会長の台詞にスミレも思わず頷いた。彼の言う通り、二人の居る二年B組も、芸能事務所と思われるような教室なのだ。
「キミのその可愛い顔、潰すの勿体ないけど。……挑まれたなら仕方ないね」
モエギが乾いた笑いを浮かべたのは、副会長相手に怒鳴る訳にはいかなかったからだろう。モエギは高校生とは思えないくらいの童顔だが、本人は良く思っていないのだ。整った顔をしているのだから、スミレは羨ましく思うくらいである。
「では先生、おねがいします」
模型の乗った机の前に副会長が立つと、生徒会能力戦担当教師が部屋へと入ってきた。話が終わるまで、外で待っていたのかもしれない。そう考えると律儀な先生だ、と思うスミレなのだった。
「よし、治田も用意はいいか」
「はい」
副会長に向かい合うように机の前に立つと、教師がモエギの肩に手を置いた。
分身能力発動。光に覆われたモエギの胸から、小さな分身が姿を現した。
同様に教師は副会長の肩に手を置き、小さな分身を作り出す。
二人は手の平に自分の分身を載せると、模型で出来た会場へと差し出すように手を伸ばす。
撮影機材が無いのに気づいたスミレは、自分の生徒端末を手に取った。理由は不明だが、どこかにそういう能力者でも居るのかもしれない。画面には目の前の会場の様子が、生中継されていた。
『生徒端末をご覧の皆様、お待たせしました。生徒会能力戦の準備が整いました』
告示が響き、モエギの目が真剣になる。鐘が鳴った瞬間、嫌でも試合が始まってしまう。モエギより何故かスミレの方が、緊張しているようにも見える。
『試合開始』
無機質な教師の宣言と共に、大きく鐘が鳴り響いた。当事者でもないのに、スミレが一番震えあがってしまった。
開始と同時に真っ先に駆け出したのは、モエギの分身の方だった。
模型の建物の間を突き進むように、副会長の分身へと向かっていく。
そして先制攻撃、モエギの飛び蹴りが入った。
筈だった。
飛び蹴りは副会長の身体をすり抜け、そのままモエギは模型の建物に突っ込んだ。
何が起こったのか、スミレはすぐに把握した。
副会長の能力は、身体を霧状にするものだった。
それはモエギも知っている筈なのに、真っ向から飛び込んだのは何故だろうか。スミレは友の愚行の理由を考える。
まさか、敢えて使わせたのか。
一つの可能性を見出しはしたものの、それでも筋は通らない。わざと自分を不利にする理由が無いのだ。
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