第2話 まず始めに、各役員を倒す必要がある。
学園島は能力者を育てる施設のある場所である。
普通の人間では逆立ちしても手に入らない、特殊な能力を持った子供を日本全国から集め、人の役に立てるような人間に育てる島である。ここに居る者は子供達だけでなく、教師や研究者も能力を持っている。
教育機関は小学部から大学部まであり、スミレ達が通っているのは高等部である。
学園島高等部は、ただいま生徒会役員を決める生徒会能力戦の真っ只中であった。
普通の学校とは違い、生徒会役員は選挙で決めるものではない。何故なら、特殊な能力を持った子供達は、時に力を悪用する場合もあるせいだ。
そんな生徒達をまとめる立場に立つ者は、誰よりも戦闘に長けた人間でないと勤まらない。
そこで生み出されたのは、分身を使った生徒会能力戦である。
本人同士で闘わせるのは些か危険だという声もあり、名乗りを上げたのは一人の教師だった。彼は対象の分身を作り出す能力を持ち、その大きさも自由自在。
分身でも能力は使えるので、これで怪我無く闘えるだろう。彼の案は承認され、以降まるで一つの催事のように生徒会役員を決める生徒会能力戦が行われてきた。
まず始めに、各役員を倒す必要がある。
本日、米田グンゼが生徒会長を倒して、生徒会長候補になったように、まずは自分の希望する役職に就いている生徒を倒す。
そこからは候補の争奪戦だ。
例えば生徒会長候補を倒した者が、次の生徒会長候補になる。
一度候補になったとしても、負ければ立場は奪われる。
なので候補者は、生徒会分身能力戦期間が終わるまで、その場を守らなければいけないのだ。
生徒会の役職は四つ。生徒会長、副会長、書記と会計。理由は不明だが書記と会計は、二人で組んで挑むものとなっている。
試合は一日一回、期間は一か月。最後に候補になっていた者が生徒会役員として、正式に採用される。
「さて、どうするスミレ。グーンが会長候補になっちったぞ」
モエギが丸い目を細めて、温め直した珈琲を口にした。グーンとは先ほど生徒会長候補になった米田グンゼで、モエギは特に仲良くない相手を二つ名で呼ぶ種類の人間だった。
「グンゼか……強敵だな」
様々な能力者の通う学園島の頂点、生徒会は誰でも憧れる役職で。スミレも例外ではなかった。生徒会長には憧れるものの、自分の能力で闘えるかが不安であった。
「副会長でもいいっちゃいいけれど……」
「駄目だ。副会長は俺、会長はお前がなるべきだ」
ここのところ、やたらとモエギが口にしてくる言葉だった。
彼曰くスミレは生徒会長に向いていて、それを補佐するのが自分だと主張してくる。
一番仲が良いってだけで、こうも推してくるのだから。スミレとしては嬉しくもあるが、少し困惑してくる。
「僕の能力知ってるでしょ? 戦闘向きとは思えないし……」
「闘えるかはさておき、お前には人をまとめあげる素質がある」
そう言われた所で、スミレ本人には覚えなんて無かった。
ただ少し人より違う能力を持っただけの普通の高校生。それがスミレ自身の、己に対する評価である。
「いや……闘えないと駄目でしょ」
何年の歴史があるのかはスミレも知らないが、今の今まで能力者が事件を起こさなかったのは、生徒会という強力な監視者が居たお陰だ。
生徒達にとって抑止力となるべき立場であるからこそ、闘いで強さを証明しないといけない。
悪さをすると、生徒会に締め上げられる。
役員はそれくらいの存在でないと、この能力者だらけの学園では勤まらないのである。
「明日、俺が副会長に挑む! 勝ったらスミレ、お前グーンに挑戦しろ」
役員候補になるには、まず現役員を倒す必要がある。副会長と言えば、現時点で学園の二番手だ。
モエギの能力が戦闘に役立つものなのは、スミレとて知っている。
簡単に手に入る立場では無いとはいえ、可能性はゼロではない。
スミレは友の勝利を心から願っているので、ここは頷くしか無かった。
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