第十話 『犠牲の魔女』②
「答えろ、『拘束の魔女』……ユクはどこにいる」
「『拘束の魔女』なら魔界に帰っていったわ! その後のことは知らない!」
「嘘を吐くな、彼は魔界に帰ってこなかった!」
「あ、あ……」
チェルッソの魔力反応を
「では質問を変えよう、『救済の魔女』はどこだ?」
「知らない!」
「そうか。子ども相手になのは気が引けるが……これは魔界の存続に関わる」
そう言って、ミィナの前に立つ長髪の男はレイピアを取り出し、彼女の細い首元にあてがった。ミィナはそれでも
「その武器を下ろせ、『救済の魔女』のことなら私が知っている」
箒から飛び降りて男の後ろに立ち、銃のような形にした手を頭に突き付ける。すると、男はゆっくりとこちらを向いた。
その男は綺麗な顔立ちで、
「なるほど、では聞かせてもらおう」
「『救済の魔女』はエルカビダの境界にいるようだ。私はまだ会ったことがないが、教会には白い髪の魔女もいた。彼女が番をしているようだ」
「白い髪の魔女……シヴァニか。ではユクもあいつに……」
彼には何かあの少女に思い当たる節があるようだ。かなり動揺していて、その表情からは怒りも感じられた。
「すまない、君たちには怖い思いをさせてしまった。私はライウェ、魔女騎士団の者だ」
そう言って彼はレイピアをミィナの首元から下ろした。緩く
「あたしが守ってあげれなくてごめんなさいッス~!」
「大丈夫だよ、サナエ。その気持ちだけでじゅーぶん!」
「サファイアさんもありがとうございますッス~! サファイアさんがいなかったら、危なかったッス」
彼は私の名を知った途端に、声色を変える。
「サファイア?」
ドクン、と心臓が大きく脈打った。
この先に何が起こるか予測してしまい、頭が真っ白になっていく。
彼は魔女騎士団の者、当然私を知っていたんだ。それに、魔女騎士団の者は正義感が強い者が多い。
―過去を捨てて生きていくことはできない。
そんな言葉が頭を
うるさい、うるさい。
私は罪を償うために頑張っていたんだ。
あれから、今の瞬間までずっと。
やめてくれ。
前方から振られたレイピアの刃を
「昔とあまりに姿が違っていたから分からなかった。……間違いない」
「サ、サファイアさんに何するんスか⁉」
「そうだよ! サファイアは」
「君たちは下がっていてくれ」
ライウェと名乗る男は先程とは逆に、ミィナとサナエを庇うように立っている。あまりの真剣な
「そ、それ以上は、言うな、やめろ! 頼む、二人には聞かせないでくれ!」
制止する私を無視して、ライウェは私の罪を告げた。
「サファイアは魔力を欲したために、親友の魔女を『犠牲』にした殺人犯だ」
思いもよらないライウェの言葉に、後ろにいる二人は言葉を失っている。ライウェはそんな二人に丁寧に説明した。
「サファイアの能力は、自分と深く関わった魔女の命を奪うことで、自分に魔力を取り込むことができる。君たちは彼女に命を狙われていたんだ」
「嘘、ッスよね、サファイアさん……?」
「嘘じゃ、ない……わたしも新聞で見たことがあるの。本当に同一人物だとは思えないけど、膨大な魔力を持つ理由も、能力を隠していた理由もハッキリするもん。サファイアは……」
「『犠牲の魔女』」
ああ。
その名で呼ばれたのはいつ以来だったか。
私から大切なものを奪っていった、憎むべき能力。
全てが崩れていく感覚に襲われた。サナエの視線には恐怖が、ミィナの視線には強い敵意が感じられる。胸が張り裂けそうなほど痛む。
当たり前だ。きっと彼女達は私が「能力を使うために」一緒にいたのだと思っている。そして、私にはそうではないことを証明する術はない。
気力を失い、その場に座り込む。ミィナもサナエも私を許してはくれないのだろう。
そんなこと分かっている、罪の重さなんて自分が一番分かっているんだ。
「私はお前を捕らえてからエルカビダに行くとしよう」
レイピアが私に向けられる。それが振り下ろされると、キィンと耳を劈く
「ごふっ……」
風は、私の腹部に鋭く突き刺さる。
いや、これはただの風じゃない。きっと彼の『能力』により、斬撃と化した魔力弾……
「命中したな。私の『高音』だ、鋭く的確にお前の腹を切り裂いた」
見ると、腹部から血が流れていた。鋭い痛みが走り、口から血が出る。
痛い。
苦しい。
―どうして、私がこんな目に遭うの?
その言葉が頭の中に浮かんだ途端、私の頭は真っ黒な感情で埋め尽くされる。
「私はあの子を失うまで……十八年もの月日を真っ当に生きた。でも私はその間もずっと
どうして私がこんな目に?
どうして大切な親友を殺さなければならなかった?
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