第30話
橘一季はその日記を手にした。その時、彼女は自分の手が震えているのに気付いた。どうして・・・と思ったが、自分でもよく分からなかった。彼女は日記のページをめくろうとした。でも、ちゅうちょして手を止めた。
「どうしたの?日記の中が気になるのなら見ていいんだよ」
弘美ことR13は声を掛けて来た。一季は顔を上げ、彼を見た。そして、一季は頷き、日記のページをめくった。
それから、一季は、しばらく日記を読むことに集中した。
「ここに書かれていることは・・・私・・・どうして、わたしなの?」
一季はR13を見た後、続けて読み続けた。
「あっ・・・」
と一季が声を上げたのは、三十分くらいしてからだった。
「この日記を書いたのは、誰なの?」
一季はR13こと老いた弘美を見つめた。老人はミャーを抱いたまま、頭を撫でている。
「あなたなの?」
「そうだよ」
「でも・・・」
「君の言いたいことは分かっているよ」
と、R13は、口をはさんだ。
「君が理解できないのは、よく分かっている。でも、現実なんだ。ここから、また新しい日記のページが始まるんだよ」
一季は目の前に老人から目を離すことが出来ない。
「どういうこと?」
こう聞くしかなかった。
「この日記は、今日をもって消えてしまうのさ」
老いた弘美はにこりと頬をゆるめた。彼の眼は一季を睨み付けていた。でも、すぐに優しい目に変わった。一季が好きな弘美の目だった。
弘美は手を差し出した。
一季は首をひねり、彼が何をしょうとしているのか理解できなかった。
「私の日記を返してくれないか?」
一季は言われるがままに、日記を弘美に渡した。
すると、弘美は日記の四隅を撫で始めた。何回も撫でていると、日記は弘美の手の中に消えてしまった。
「さあ・・・行こう」
弘美は一季の手を握り、引っ張った。
戸惑う一季に、
「君と私の新しい物語を始めよう」
といい、彼女を抱き寄せた。
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