第22話

「あぁ!あそこに違いない」

 一季はロビーの響き渡る叫び声を上げた。

 「あそこよ、あそこ」

 一季はいったが、自分の声が弘美に聞こえているのか、少し不安があったが、

 「あそこと言ったって、僕には分からないよ。落ち着いてよ。水は僕の膝まで押し寄せて来ているけど、あそこって、何処?」

 という返事が返って来た。聞こえているのだ。彼女は興奮していたが、こうして話している相手が弘美という確信はなかった。でも、嬉しかった。

 一季は弘美の言うように落ち着こうと思った。

  「あそこって、何処、何処なの?」

 一季は自分のいったことがすぐに理解出来なかった。今自分は何を言ったの?

  「落ち着け、一季!」

 一季は自分の気持ちを鼓舞し、励ました。そうだ、ミャーだ。ミャーは間違いなく家の中にいる。

 「ミャー、ミャー・・・」

 一季は目をつぶった。そうすることで、今目に入る光景を消した。ミャーのことだけに集中した。

 「何処!」

 弘美の声が、彼女の体を通り抜けた。

 「二、二階。二階に行って。ミャーは、きっとあそこにいるはずよ。私の部屋!」

 でも、一季にはそこにミャーがいる確信はなかった。

 「わっ!水は、二階まで押し寄せて来ている。分かった。二階だね」

 弘美は慌て振りが、声でよく感じ取れた。

 「二階の君の部屋に行くんだね」

 「そうよ」

 「ミャーがいるとすれば、そこしかないもの」

 しかし、弘美の次の言葉が返って来なかった。

 「どうしたの?」

 一季は心配になって来た。ロビーの入り口に目をやった。自動ドアは閉まっていて、開いた気配がなかった。開く気配もなかった。今までも、これから先もずっと閉まり続けている雰囲気が漂っていた。

 「弘美、答えて!ミャーは見つかったの?」

 ロビーのガラスに打ち付ける雨の音も、風の唸り声も全然変わりなかった。

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