第13話

「遠い未来・・・?」

橘一季は首をひねった。未来は未来であって、近いも遠いもないと彼女は思った。未来は未来なのだ。一季は自分の考えていることが分からなくなってきた。頭がふわっとしてきて、気持ち良かった。眠そうで眠くなかった。でも、このまま立っているのが億劫になり始めて来た。

「ねえ・・・」

と一季はしつこく話そうとする。

「あなたの言っていることがよく聞こえないんだけど・・・」

言葉が最後まで続かない。その内、鼻をついていた匂いが強くなってきた。気持ちはいいんだけど、今度はなぜかまた段々と眠くなって来た。目が変な感じだったので擦ったが、老人の顔がぼやけて来た。

「私は目的の時代に着き、しかも望んだ場所に辿り着いたようです。でも、私が乗って来た時間移行船は何処かに消えてしまったようです。まあ、仕方がないか・・・そう思うようにします。戻れなくてもいいんですから。私の会いたいと思っていた人に会えたんですから。それより、あなた、大丈夫ですか?」

一季は立っていることに耐えられなくなって、しゃがみ込んでしまった。そして、ついに眠り込んでしまった。

一季はそれ以後のことは全く覚えていない。ただ、その匂いだけが鼻の奥に染み込んでしまった。

どれだけかして、一季は目を覚ました。彼女には時間の感覚が戻っていない。

「何処?」

と叫び、周りを見回した。見覚えのある光景だった。もう一度、今度は心の中で、何処?と考えた。一瞬戸惑ったが、今いる場所が自分の部屋なのに気付いた。しかも、パジャマを着ていた。何時、家に帰って来たんだろう?

一季は頭を二三回ぶるぶると強く振った。頭の中の芯がじんと痛いだけで、何も思い出せない。でも、家に帰って来て、パジャマを着て、寝たのは確かな事実のようだった。でも、彼女の感覚では、それさえもぼやけていて、まるで時間が何時間か飛んでしまったような感覚があった。

(どうしたんだろう?)

一季は目をつぶった。頭の中は、ぼやけたままだった。ただ、鼻に、あの匂いだけが鋭く突いて来た。


二三日、そんな日が続いた。入学式の日を迎え、橘一季はいつもの時間に電車が北楠駅に着くと、気に入っているドアの場所から乗った。少しは昂っていいはずなのに、全然そんなことはなく、はっきりしない目覚めの朝だった。乗ってすぐ、彼女の鼻をあの匂いがついて来た。

 「まただ・・・」

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