第33話 五秒前
しかし本当に速いな、こいつの動き。
一つ攻撃してから、次の攻撃までに移る動作が、ゼロって言っていい。
身体の柔軟さを活かしてんのか、連携に隙や間が生まれない。
向こうが攻撃の体勢に入れば、防戦一方って化しちまう。
これで能力使ってないんだから、また恐ろしい。
「能力、使わせてくれよ。お得意の雑音をな」
さっきの仕返しなんだろな、オレの台詞を真似て煽ってきやがった。
いや、これ煽ってんのか。なんか暗に、能力使う余裕無いですよ、って風にも聴こえるんだが。
しかし現状じゃ、向こうに攻めさせると防戦一方だ。試しにオレから行ってみるか。
拳を構え直したオレを見て、遠藤稔二にも意図が伝わったようだ。相手も構えて、こっちの攻撃を待ってた。いくぞ。
「ミシェル!」
なんてこった。ここで合図が来ちまった。遠藤稔二をそのままにし、オレは踵を返して駆け出した。
五秒前。
視界に入るのは膝を着いたゼータローと、宙に浮いている曾田司一郎だった。
泳ぐようにジタバタしてるせいで、少し仰向け気味になってる。このままだと宣言通り、背骨はへし折れないな。いや、こうなったら仕方ない。
四秒前。
曾田司一郎まで後一歩のところで、遠藤稔二に肩を掴まれた。こうなった以上は止まる訳にはいかんので、なんとか振りほどく。
三秒前。
遠藤稔二の手を振りほどいたせいで、足がもつれた。能力発動、フェレットアウト。どうにか転ばないようにするのは、どうしたらいい。
二秒前。
フェレットアウトの教えに従い、オレは敢えて地面に手を着いた。瞬間にして、これからの行動が頭を過ぎった。分かったぞ、そういうこっちゃな。
一秒前。
荷重が前になってる状態で手を地面に着くと、前方への宙返りのような動きになる。普通に跳ぶより勢いが増すので、かえって良かったかもしれん。
終了。
空中で一回転したオレは、見事に曾田司一郎の腹筋へと着地。しかも能力の時間切れと重なったお陰で、重力とオレの両足の荷重が一気に相手へと掛かった。
「わああぁっ⁉」
大きな硝子の割れる音が響いた。足元を見てみると、少し地面にめり込んだ曾田司一郎。首の紋様は綺麗に消えていて、一体目の撃破を確認した。
先週の闘いで分かってたが、コイツは最初から本気を出さない種類の生き物だ。
ゼータロー相手なら舐めてかかるだろ、って推測は大当たり。どうやら分身は居ないみたいだな、出されたら失敗してたわ。
「エフクぁ!」
だから奇襲するなら、黙ってしろと。遠藤稔二の怒号で、オレはフェレットアウトを発動する余裕が出来た。
検索結果、顔面。
頭を上げると相手の拳が目の前にあったが、位置は分かっていたから首だけで回避。
目だけゼータローに向けて合図すると、分かったとばかりに頷いていた。
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