第32話 遠藤稔二vs西英福


「うぉ⁉」


 危うく鼻先を掠った蹴りを見て、遠藤稔二が攻撃態勢に入ってるのに気づいた。


 向こうさんが出し惜しみしてない状況だし、マジにならざるを得ないか。ともかく今のオレに出来るのは、時間を稼ぎながらも、ゼータローの合図を待つ。


 目の前の桜髪のイケメンが、オレの腹筋に拳を放った。今のは使うべきだったわ、フェレットアウト。


 入ってから気づくなんて、遅すぎだろオレ。防護壁が割れはしなかったものの、思ったより威力が重い。


 体勢を立て直そうと一歩引くも、体当たりの如く距離を詰められたぞ。


 興味無いだけで、その気になれば竪琴の紋章取れる実力って噂だったが。どうやらマジみたいだ。


 あっつう間に懐に入られちまったから、ここで能力発動。フェレットアウト、次に来る場所はアゴです。アゴって、え。


 思いっきり首を引いたら、目の前に遠藤稔二の整った顔が来た。ああ、成程な。アゴに向けた頭突きだったのか。


 あ、つか今すごい丁度いいな。自分の頭が適した場所にあったから、オレはお返しを試みた。


「う……ぉいしょ!」


 チョーパンっつう名の頭突き返しだ。整った鼻をへし折るが如く、遠藤稔二にデコを入れてやった。向こうの額にやっても良かったが、それだとこっちも痛そうだったんだ。


 よろめいた遠藤稔二は、鼻を抑えながら何歩か後ずさりした。防護壁が無ければ、間違いなく鼻血くらいは出てただろう。


「……なんか能力、使ってるな?」


 こいつは妙に勘の良い部分があって、オレの動きが尋常じゃないのくらいは気づいたようだった。


 フェレットアウトは、傍目で能力の発動が分からない。こっちからバラす義理は無いから、ここは挑発してみっか。


「お前も使ってこいよ。お得意の雑音をな」


 遠藤稔二は黙ったまま、再び拳を構えた。


 こいつは意外と口撃や煽りに対し、そこまで乗るような奴じゃない。だから厄介だし、そこまで好きになれない理由だ。


 曾田司一郎とは違う意味で、何を考えているか分からん。オレはシブイバシやゼータローのように、感情が表に出るような奴と居んのが楽しいんだ。


 地面を蹴って、遠藤稔二が向かって来た。使って来いとは言ったものの、すぐに使うような真似はしないだろな。


 右拳が来た。


 これは能力を使うまでもなく、余裕で避けれる攻撃だ。


 左拳が腹に入った。


 距離の近さで勢いが無いので、腹筋で受けきれる程度だった。


 やり返そうにも隙が無いが、また拳で来るとは思えないな。使ってみるか、フェレットアウト。


 検索結果、みぞおち。また拳なんだろうな、オレは両手で防御態勢に入る。


 来た。


 ってヒザかよ、痛え。


 防いでたから良かったが、今のモロに入ったら、痛みで腹抱えてたかもしれん。そんな体勢を取れば、相手の必殺技の出番を作ってしまうんだぜ。


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