第28話 僕、今日の試合見たい


 土曜日なので、授業は午前中に終わった。


 基本的に能力戦は学校のある日は行えるので、今日も試合は行われていたようだった。出場選手を見たが、挑戦者が勝てる要素がゼロだったので、見る気も起きなかった。


 というか、やはり午後が丸々休みな上に、明日も休みなだけあって。昼を済ますと、校内に残る奴は少ない。オレらも、その内の一部だった。


 今日はオレら雪崩式ドロップスに新面子が加わって、初めての休みだ。ゼータローの行きたい場所があれば、希望は何でも聞くつもりだった。


「……え、僕、今日の試合見たい」


「マジかい……」


 能力戦に興味があるなんて、雪崩式ドロップス失格だな。なんて言おうかと思ったが、既に我々は能力戦にしっかりと関わってしまってた。


 仕方ないな、今日はゼータローがしたいってのをする日だからな。


 一年A組特権で渡り廊下に突入すると、数人の見物人の中に銀髪のイケメンと黒髪のイケメンが居た。


 ナンバーワンとナンバーツーの天下無双の二人が、わざわざ出張る程の重要な試合だとは思えない。見つかると面倒だし、別の場所に移動するか。


「お、雪崩式のオフタリさん」


 よりによって馬鹿の方に見つかってしまった。今からでも逃げようと思えば逃げれたが、ゼータローが大友悠の方へと向かってしまった。


「ええと、大友くん」


「ハルでええよ、こっちはヒロ」


 前に一度昼を共にしているので、ゼータローは板垣央を知っている。何を隠そう銀髪のコイツは、能力戦の支援者だ。闘いで得たとはいえ、自分で出資した紋章を保持してるから何とも言えない。


「おい保持者様たち、今日のコレ。貴様らが見に来る程なのか?」


 オレの台詞に板垣央が肩をすくめた。


「おれが保持者だから、とか関係無い……」


「アイツらとアルテイドは因縁の相手やからな」


 ゼータローが困ったような目を向けてきたので、オレは中庭に立つ面子について話した。


 桜色の髪の二人は、オレが昨日戦った曾田司一郎。相方は遠藤稔二。


 金髪は出流原アル、緑で毛先が青色の髪は柳井帝人。こっちは二人合わせてアルテイドっつう、妙な名前のチームだ。


 前に何かしら色々揉めたらしいが、正直オレもあんまし覚えていない。


 開始の鐘が鳴ったので、改めて中庭に目を向ける。


 勝ちが見えている試合だから、逆に時間は掛からないだろう。終わったら雪崩式ドロップス三人で、ゼータローの歓迎会だな。


 先に動いたのは遠藤稔二で、真っ直ぐに柳井帝人へ向かっていった。逃げる緑髪を追う桜髪。


 反対に曾田司一郎と出流原アルは、静かに間合いを詰めていってる。対照的な流れだな。


 緑髪の柳井帝人は雑魚だから、放っておけば蹴りが着くな。問題は出流原アルの方だ。あいつの能力は回転で、ありとあらゆるものの天地を真逆にしちまうもんだ。


 金髪を揺らし、出流原アルが動いた。拳や蹴りを次々と繰り出すも、曾田司一郎は涼しい面で避け続ける。


 金髪の奴は触れるだけで能力が作動出来るから、防御すらも回転の餌食になっちまうんだ。


 曾田司一郎が分身を出したから、反撃に出るようだった。


 分身を交えた攻防は、筋力が比較的に劣る曾田司一郎の補助で活躍する。防御で受けている時は余裕が無いのか、触れても回転まで持っていけないようだな。


 なんて思っていると、曾田司一郎の分身がグルリと回った。いま立っていた場所で百八十度回転したので、間違いなく頭を地面に強打する寸前だろう。


 しかし曾田司一郎の分身は、両手を地面に着いていた。なるほど、これなら脳天直下は免れるな。


 曾田司一郎の分身は命令してんのか、自動なのか分からんが、なかなか冴えた切り口だ。


 なんて関心してたが、出流原アルが分身の両手を足払い。脳天直下までは行かなかったものの、肩の衝撃はなかなか致命的だろう。


「やりよったな」


 我々が分身に注目してたように、出流原アルもそうだったんだろ。


 いつの間にか相手の背後に周りこんでいた当人が、抱き着くように出流原アルの首元を締める腕を回した。


 オレは目を疑った。アイツは誰よりも男に触れたくない性格だ。そんな気質を考えれば、首極めなんて密着度の高い技なんて絶対にやらない筈。


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