第27話 ヒキコモ


「貸し? 何言ってんだよ、お前」


 寮に戻ったオレは、まず同居人に要らん仕事を押し付けたのを詫びた。するとシブイバシは、よく分からん返答をしてきたのだ。


「お前だって火曜に俺の代わりに、ゼータローと掃除してくれただろうが」


「そりゃ、お前が気絶してたから……」


「今日のお前は気絶に加えて、SPもゼロだろ。ゼータローだって、何も思っちゃいないさ」


 シブイバシはゲーム好きなので、精神力値をSPと略す。精神力ポイントなのか。


 そんな話をした翌日だ。


 土曜日の朝、教室に入ってきたゼータローに詫びの言葉を入れた。シブイバシの宣言通り、ゼータローは何も気にしちゃいなかった。


 むしろ今まで友達と、一緒に何かをするとか。そんな経験が無かったせいか、割と楽しかったらしい。


 なんて良い奴なんだよ。面倒ごとを楽しく思えるなんて、一種の才能だろ。


「いや……僕、もともと引きこもりだったから」


 マジかよ、ってオレは耳を疑った。まるでオレが知っているかのように話しているが、完全に初耳だぞ。


 聞けば三年近く家から出なかったのに、何の前触れもなく急に能力が開花してしまったのだとさ。


 しかも開花した日に、家に連絡が来たらしい。オレの時も似たような感じだったが、恐らく機関に能力開花を一瞬で察知できる能力者が居るのだろう。


「ほぼほぼ追い出されるように、入学が決まったけど……ま、結果オーライ?」


 ぎこちない笑みのゼータローだが、引きつっているっつうよりも笑い慣れてない感じだな。確かに考えてみると、今までマトモに人と接してなかったんだってのは分かる。


「ただゼータローが、ヒキコモだったっつっても。オレはダチを妙な目で、見たりしねえから心配すんな!」


 今まで隠していたのは、奇異の目で見られるのが怖かったせいなんだろな。


 のっけから聞かされてたら解んなかったが、今はゼータローが良い奴だってのは知ってるからな。暴露してくれたってだけでも、オレらを信頼してくれた証拠だろ。


「いやフク……、俺は知ってたぞ」


「私も、存じておりました」


 シブイバシとロックの台詞に、オレは耳を疑った。


 え、なに。こいつらが知ってたのに、オレだけが知らなかったのかよ。


 つうと、なんだ。オレより先に、ロックやシブイバシを信頼したのか。


「どんだけオレ……時間掛かってんだよ」


「いや……僕一回言ったからね。それも月曜日に……」


 え、嘘だろ。聞いてないぞ。


「いつ? え? マジで⁉」


「フクくんは、たまに人の話を聞きませんからね」


 ロックの辛辣な意見に、オレは慌てて首を左右に振った。しかしシブイバシも同様の意見を述べたから、ゼータローに余計な印象を与えてしまったのだった。


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