第26話 精神力値一桁
「気づいた?」
目を開いて一番最初に視界に入ったのが、銀髪のイケメンの一人。主催者様こと、蓬田英二の面だった。
白い天井、白い壁。のっそりと身体を起こすと、ここが保健室だってのが分かった。
蓬田英二の他には、板垣央とロックの姿があった。シブイバシとゼータローは。いや、つうか、試合どうなったんだよ。
少しばかり頭を働かせただけなのに、刺さるような痛みが脳に走った。まるで熱い味噌汁を飲んだ喉のように、痛みが走った箇所がズキズキいっていた。
「無理すんな、横になってろ」
珍しく板垣央が、気遣いの言葉を述べたから気色悪かった。しかし、痛みには逆らえないな。従うみたいで気に喰わないが、再び横になるしか無かった。
「フク君、今のキミなんですが……精神力値が一桁ですぞ」
「うえ……マジかよ」
能力ってのは魔法じゃないから、やがて体力の限界が訪れる。
しかし能力使用で使うのは、体力だけではない。能力を使用する度に、精神力ってのが摩耗される。
オレみたく脳味噌に直結する能力は、体力よりも精神力の方が削られてしまう。
あまり知られては居ないが、ロックの眼鏡は特殊なもので、体力や精神力を数値化して見れるものだ。
「って、それ二人の前で言って良かったのか?」
「……まぁ、央氏もエージ君も、人にベラベラ喋るタイプではないでしょう」
そうかもしれないがな。板垣央はともかく、蓬田英二を信用していいのか。
いや、でもロック、蓬田英二を君付けで呼んでるしな。信用はしてるのかもな。
「試合中に精神力切れてダウン。司一郎君の勝利、おしかったね!」
蓬田英二が満面の笑みで言うもんだから、もう皮肉にしか聴こえない。つうか普通に嫌味なんだろうな。
しかし実験とはいえ、週に何人も気絶や保健室送りが出てきているってのに。非難するどころか、真面目に取り組んでいるって感じなんだよな、
学園側も。本当にマトモじゃないよな、生徒も教師も。マトモな奴なら、ここには居ないってか。
「……で、エフク君」
「なんだ?」
「キミ、精神力値が事切れて、ダウンしたんだけれど。そこまで行くってことは……何か新しい能力生み出しているね?」
一瞬だけギクッてなったが、だから何だと気を取り直した。オレの能力は、外から見て使用が分かるものじゃない。
バレて困るもんじゃないが、コイツに言う義理なんて無えと思ったんだ。第一、シブイバシやロックにも、まだ何も言ってねえしな。
自分としても不確定要素が多すぎて、まだ公表なんて出来やしない。
「生み出しているとすれば……なんだ?」
「ううん。僕が嬉しいだけ」
なんか美味しい菓子でも食ったかのように、蓬田英二が満面の笑みを浮かべた。なんだよ、コイツ。意味が分からん。
「別に公表しろなんて言わないけれどね、これを機にもっと励んでくれると嬉しいなぁ」
だが断るぜ、なんて立場的に言えなかった。シブイバシ戦の罰則で、能力戦の参加を義務付けられてるのだった。
単なる口約束ではあるが、それを反故にするほどオレだって腐ってはないんだよ。
「……あ、ロック。シブイバシとゼータローは?」
「中庭の片付けですぞ」
嘘だろう。って起き上がった瞬間に、また頭に痛みが駆け抜けた。
まだ寝ているように横にされたが、二人に要らん仕事を押し付けてしまったのを実感した。これは一つ、二人に貸しが出来てしまったな。
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