第25話 限界
「良かったな、綺麗な鼻が潰れないで!」
最高の思いやりの言葉と、最大級の笑顔を贈ったんだがな。なんか知らんが、曾田司一郎の瞳に怒気の色が混ざったような気がした。
「うん……良かった。……君が、本気を出すに値するような相手で」
思ったよりも普通の口調で皮肉を言うと、曾田司一郎は能力を発動した。
鼻を抑えながら立っていたイケメンの隣に、全く同じ人間が次元を超えたかのように現れた。
これが曾田司一郎の能力、分身である。
能力戦は武器の持ち込みは出来ないが、能力で作り出したものなら可。つまりイケメンの分身は能力で出来たものなので、参加が可能となってる。
曾田司一郎が大友悠に倒されるまで、竪琴の紋章を保持出来ていた。理由は強かったからっつうよりも、二対一っつう卑怯じみた真似が出来てたせいなんだ。
前にシブイバシが、分身は卑怯だと指摘した時がある。ならば君も分身能力を身に着けるといい、とか抜かしやがった。
あの時のシブイバシの借りを、今日返せたらいいな。出来るかな。とりあえず、やってみっか。
曾田司一郎と闘う際は、相手の腰より下に頭を持ってきたら負ける。
昔、教室のどっかで聞いた話だ。なんでも目の前のイケメンの必殺技は、すごい屈辱的なものらしい。
しかし現在、二対一になった状況で、そんなのに気を付けられるのだろうか。
曾田司一郎と分身が、同時に地面を蹴った。そして同時に振りかぶってきたので、隙を作るために敢えて防御した。
「重い⁉」
先ほどの相手の攻撃を防御で何とか出来ていたのは、曾田司一郎の攻撃力は大友悠と比較すれば軽いからだ。
けれど考えれば分かるだろう、オレよお。二人になってんだから、威力も倍に決まってんだろ。
恐らく、規則としては本体の防護壁を割らないと勝ちにはならないだろ。とはいえ二倍になった今、片方だけを狙うなんて器用な真似はオレには出来っこない。
とにかく今は、避けるのに専念するしかない。
オレは相手の攻撃位置を予測し、二人の曾田司一郎の猛攻を避け続けた。
顔に来る。次は腹か。足払いも出来るのか。
相手が攻撃を止めないから、それを逆手に取ろうと思った。能力ってのは魔法じゃないから、やがて体力の限界が訪れる。
幸いにも、懸念だったオレの能力は、複数相手にも通用した。ならば今は、根気の勝負で行くしかない。本当はサクっと終わらせたかったが、もう気にしている余裕なんて無い。
能力を使う度に、頭が熱くなっていく。
それが熱中している証拠だ、とかオレは楽観視していた。
だから、この時は全く気付いていなかった。
相手に限界があるように、自分にも限界があるのだと。
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