第24話 西英福vs曾田司一郎


 渡り廊下は、昨日と同じくらい人居るぞ。おかしいな。


 天下無双が居たから昨日の多さは分かるが、元竪琴と半分無能力者並のオレの試合だぞ。意味分からん。手を振るなシブイバシ、誰のせいだと思ってる。


 あれ。つか、オレ。今更だが、西からの入場か。挑戦を受けた方か、紋章保持者が東からなんだがな。確かに曾田司一郎が紋章保持者だが、あっちが挑戦してきた方なんだが。


 ま、どうでもいいか。


 桜色に裏が金という、学園島でも珍しい髪色の曾田司一郎。そんな奴の首なんだが、視力検査みたいな紋様が入っている。なんか何処かの球団みたいだな。ウケるんですけど。


 目の前の視力検査のイケメンが、拳を突き出して来たので、オレも何も言わずに出す。拳が合わさった時、試合開始の鐘が鳴った。


 のっけから勝てる相手だ、なんて思っちゃいないけどさ。ある種オレの能力が複数相手に通用するか、いい機会だって思って受けたのもある。これじゃ実験をさせたい教師の思う壺だがな、仕方ない。


 視力検査のイケメンが動かなかったので、まずはこっちから動いてみるか。地面を駆けて助走を着けて、飛び上がって右手を大きく振るった。


 普通に避けられたので、着地の瞬間に振り向きざまに肘を入れてみる。オレの攻撃は曾田司一郎の腹筋の辺りで、見事に相手の拳で防がれていた。


 よし、反撃の好機は作った。能力発動、フェレットアウト。視力検査のイケメンは、どこを狙ってくるのかね。


 検索結果、顔面。


 結果に従い大きく膝を曲げると、曾田司一郎の頭突きが自分の頭の上に見えた。よし、やはりオレの能力は、今日も順調に働いているぞ。良い感じだ。


 姿勢を低くしてしまったので、背中からでんぐり返しで立ち上がる。曾田司一郎は、まだ能力を使う気は無いようだ。


 確かにな。何も実績の無いオレに対して、ハナっから最高速で飛ばす訳が無いか。初めて闘う相手だし、互いに戦法を熟知していない間柄だ。


 しかし大友悠と違って、なかなか動いて来ないのは難点だな。


 オレの能力は、どっちかって言えば受け身の方が都合の良い。ただ曾田司一郎の普段の性格を考えれば、あっちも受け身なんだろうな。


 おそらく、こっちが動かなければ、向こうも延々と動かないような気がした。


 面倒くさいな。オレだって、そもそも好戦的な種類の人間じゃない。曾田司一郎も往々にあるが、オレも面倒が嫌いな人間なのだ。


 面倒が嫌いな割には、あっちは闘いは嫌いでは無いらしい。面倒だから負けるにしても、サクっと終わりたいもんなんだがな。罰則の掃除もあるし。


 じゃあ、ちょっと動くか。


 再びオレは駆け出すと、まず大振りの拳骨をイケメンの顔に向けた。


 隙だらけなので、避けられる。


 ああ、知ってた。オレの狙いは、拳じゃない。


 そこまま勢いで、懐に入るようにイケメンに体当たりする。背丈がオレと十センチ近くあるので、ビクともしない。


 曾田司一郎に突き飛ばされた。弾みで尻もちを着いた時、目の前のイケメンが汚物を見るような面になってた。


 これは聞いた話だが、曾田司一郎っつ奴は男に密着されるのを嫌うらしい。


 いやオレも嫌だが、少しでも近づかれるのが駄目だとか。だから奴は、蹴りを中心に使うと聞いた。


 尻もちを着いたまま、オレは能力で次に狙われる場所を検索した。顔面だった。


 この状態で出来るのは、無様に転がるくらいだった。身体を倒そうとした瞬間、顔面の横に風圧が来た。


 目の前のイケメンが、足を上げている光景が見えた。間違いなく今、オレの顔面を蹴り上げるつもりだった。容赦ねえな。


 すぐに検索をかけると、結果が脳天と判明された。曾田司一郎の足は上がっていて、ここから予想される攻撃手段は一つしか無かった。勘づいたオレは、すぐに両手を頭の上に上げた。


「らぁっ!」


 目論見通り、曾田司一郎のカカトは脳天へと落ちてきた。無我夢中で動かしたにも関わらず、オレは相手の靴を見事に両手で受け止めていた。


 カカト落とし、阻止だ阻止。曾田司一郎の瞳が丸くなったのを見て、相手の驚愕を確認。何が起こったか理解される前に、動かないと反撃は無理だ。


 曾田司一郎の右足を両手で掴んだまま、オレは立ち上がる。


 そして思い切り引っ張った勢いで、相手の整った鼻にオレの頭を叩きこんだ。


 普通ならば鼻血が出てもおかしくは無いだろうが、今は蓬田英二の防護壁のお陰で無事だ。


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