第23話 雑音男


 二日連続の能力戦出場になるが、思ったより疲れは残ってないな。だが三日連続は、流石に勘弁な。


 曾田司一郎はナンバーツーの称号、竪琴の紋章を保持していた。しかし少し前に、大友悠っつう馬鹿に取られた。


 そこから竪琴を取り返すのかって思ってたら、今は別の奴と組んで獅子の紋章保持者となってる。


 既に獅子の紋章を持ってるのに、何故いまだに竪琴について固執してるのか意味不明だ。


 試合直前。廊下で入念に身体をほぐしていると、桜色の髪の男が目についた。曾田司一郎と一緒に獅子の紋章を所持している、遠藤稔二っつう雑音男だった。


 前まではオレと同じく不参加者だったのに、今となっては紋章保持者だもんな。


 音を出すだけの能力で、ここまで昇りつめた男だ。個人的にあまり好きな種類の人間では無いが、何故か向こうから話掛けてきた。


「ようエフク、司一郎は強いから覚悟しとけ」


「……おーう」


 自分でも思った以上に、ヤル気の無い返事だって思った。何故か、桜色の雑音男は苦笑いを浮かべていた。


「単独だから紋章争奪戦じゃないからな、お前も相方出来たらいつでも挑んでこいよ」


 なんて爽やかな笑顔を浮かべたもんだから、どう反応していいか困る。


 こっちとしては悪態をつきたいくらいだが、別に互いに因縁なんてもんは無い。ここで妙な態度を見せたら、単に嫌な奴なだけだ。


 面倒なので、少しばかり話の方向性を変えるかな。


「……あの居眠り野郎は何で、未だに竪琴にこだわってんだ?」


 居眠り野郎とは、授業中睡眠常習犯の曾田司一郎だ。


 相方なだけあって、あっちも直ぐに分かったようだ。オレの台詞を耳にした雑音男は、急に火が灯ったような瞳を浮かべた。


「それは……あいつも竪琴を諦めてないからだ」


 二人で組んで取る獅子の紋章は、共闘戦の称号。一人で取る竪琴や百合紋章は、単独戦の称号だ。つまり、完全に別枠の扱いになっているらしい。


 すわなち獅子を保持しておりながら、竪琴や百合を同時に取るのは、許されているらしい。竪琴と百合は、同時保持出来ないのにな。


 ある意味、主催者様も無理だろうから許可しているんだろ。共闘戦と単独戦。どっちでも行けるなら、やってみなさい。って感じなのかもな。


 現に今まで誰も成し遂げてない偉業だからこそ、誰も不可能だって思ってるんだろ。


 だから禁止してないだけの話なのに、曾田司一郎は出来るって信じてしまってんのか。物静かな癖に、妙に野心のある男なんだな。


「ちなみにオレは、百合と獅子の両タイトルの保持者を目指してる」


 ブルータスお前もか。しかも何だよ、その大それた目標は。


 まだ曾田司一郎は過去に竪琴を持ってたから分かるが、百合って一年A組ナンバーワンの称号だぞ。


 しかも現保持者は、遠距離武器の使い手だしな。そんな相手を雑音だけで倒すって、もしかしてコイツも馬鹿なのか。


 妙な絵空事を耳にしてたら、頭まで痛くなってきた気がする。


 このまま妄言に付き合ってたら、試合に集中出来なくなりそだな。雑音野郎をそのままにして、オレは中庭へと入場した。


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