第22話 挑戦権はく奪機能


 金曜日である。


 仮に試合で気絶してしまった場合、罰則の掃除は次の日の始業前に終わらせる必要がある。つまり早起きせんと駄目な訳だから、マジで昨日シブイバシ起きて良かったわ。


 昼休み。いつものように雪崩式ドロップスの輪に加わると、シブイバシがまた要らんことを言い出した。


「昨日フク、馬鹿に勝ってんなら、竪琴取れんじゃね?」


 フクとはオレで、馬鹿とは無能力者という大友悠だ。馬鹿は学年ナンバーツーの称号、竪琴の紋章を所持している。昨日のオレの闘いを耳にしたんだろ、シブイバシが安直な提案をしてきた。


「ええ……」


 そしてオレは乗り気じゃなかった。今までは闘う術が無かったから、参加しなかったようなものだが。それを省いても、能力戦自体が割と面倒くさい。


 紋章保持者になんてなってみろ、竪琴を狙う為にわんさか挑戦が飛んでくるのは目に見えてるわ。


「それにオレら能力者がさ、無能力者に本気出すとかさ……」


 確かに昨日は、夢中になっちまったが。冷静に考えれば、持ってる奴が持たざる者にムキになんのは大人気ねえだろ。


「……その無能力者に、負けてんだけど僕は?」


 オレの席の二つ前に座ってっから、会話が聴こえてたんだろな。元竪琴の紋章保持者、曾田司一郎が口を挟んでいた。


 席は五十音順になってて、オレの苗字はニシなのに、ソダの二つ後になる。ちなみにロックの前が馬鹿の席となっているが、大友悠は便所か何かか教室に居なかった。


「なんだよ、珍しく口開いたと思えば……」


 曾田司一郎っつう男は、恐らく一日に話せる上限が決まってる種類の能力者だ。そんな奴いねえわ。いつも自分から、話しかけてくるような奴ではないのに、珍しい日もあるものだ。


「君……竪琴に挑戦するつもり?」


「しねえよ。勝っても面倒くせえだけだ」


「……まるで、やれば勝つような物言いだね」


 何で今日に限って、こんな噛みついてくんだよ面倒くせえ。オレが辟易しそうになってると、またシブイバシの奴が口を挟んできやがった。


「お前こそフクに竪琴を奪られたくないようだな」


 あはははは、マジで何を言ってんだコイツ。俺如きに紋章取られたところでさ、別に奪い返すなんて簡単だろうに。


「まるで、フクの手に渡ると馬鹿より取り返しづらくなるとか」


「いや、んなこと無いだろう」


 オレの考えと真逆な話をしたもんだから、これはツッコミ待ちだと思った。突っ込んだが、曾田司一郎は予想外の反応を見せた。


「……そう思うなら、やってみるかい? ……僕と」


「思ってねえよ!」


 曾田司一郎から、何やら怒りのオーラみたいなのが出てたから、慌てて止めた。なんで曾田司一郎も、こんなムキになってんだ。ってかウチのクラス、煽りの耐性低い奴多すぎだろ。


 そうこうしている内に、曾田司一郎が生徒端末を取り出してた。何やら操作していると思った瞬間、オレの端末が青白く光り輝いた。表示されたのは挑戦状の三文字で、宛先はもちろん曾田司一郎だった。


「お前も真に受けんな居眠り野郎!」


「……逃げるの?」


 逃げるとか逃げないとか、そういう問題ではないだろう。


「何でオレが、いつもシブイバシの煽りに巻き込まれなきゃいけねえ。やるメリットもねえ」


「……メリットねえ」


 少し考えるような仕草を取ってから、曾田司一郎は何か思いついたように手をポンとした。


「勝ったら、僕の挑戦権。はく奪していいよ」


「……はい?」


 曾田司一郎の発言が意味解んないから、オレも聞き返すしか手立ては無かった。なになに、いきなり何を言ってんだ、この居眠り野郎は。


「フク君。挑戦状は、拒否も出来ますが。権利はく奪も可能なのですよ」


 そこから見ての通り頭の良さそうなロックが、頭が良さそうに眼鏡をクイっとして解説に入った。


 我々一年A組生徒全員の端末には、挑戦状機能っつう厄介なものが搭載されてる。


 挑戦状を送れるのは、一人につき一日一回まで。つまり拒否されたら、次の日まで同じ人に挑戦状は出せない。


 しかし、更に挑戦権はく奪機能っつうものまである。これは互いの合意と、主催者の許可が必要である。だが承認されれば、初めから挑戦状を対象に送れなく出来る機能らしい。要は電話の指定着信拒否みたいなもんだろな。


 つまり今日の闘いで勝てば、曾田司一郎からの挑戦は、二度と受けなくて済むっつう話か。


「乗った」


 もう二度と、こんな面倒を回避するにはコレしかない。紋章なんて、どうでもいいや。今後、何か挑戦に巻き込まれたら、これで行こう。


 一人でも多くオレへの挑戦権を奪ってしまえば、いつものような面倒が減っていくに違いないんだわ。


 生徒端末に表示されている了承の項目を選択した。教室全員の端末が光り輝き、教室にざわめきが起こった。


 曾田司一郎、西英福。双方合意ゆえ、総合能力戦開催決定。


 勢いで決めてしまったが、冷静に考えてみれば、勝てる自信なんて微塵も無かったわ。


 なんせ相手は、初代の竪琴の紋章保持者だし。いや、これは負けても利のある試合だな。どうせ曾田司一郎が強いって証明できれば、あっちも二度と噛みついては来ないだろう。


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