第21話 ミシェルって、誰なんだってな。


 試合終了後。負けた方は罰則として、試合会場である中庭の掃除が課される。


 まずオレは、気絶してたシブイバシを起こして、安否を確認。防護壁のお陰で怪我は無いが、痛みや勢いで気を失う場合もあるのだ。


 ゼータローが掃除を手伝ってくれるって言ってくれたんで、念の為にシブイバシは主催者様に診せに行く。主催者様である蓬田英二は、治癒能力の使い手なのだ。


 さて、掃除だ、掃除。


 おおまかに行うのは、中庭の足跡や凹みを消すのと、土や砂で汚れた窓や廊下の掃除。


 学園島の施設の窓は銃で撃っても割れないが、汚れないって訳じゃない。当たり前か。


「ミシェルは身体平気?」


 一緒に土をぐりぐりしながら、ゼータローが声を掛けてきた。そういえば先ほどのアレは、板垣央の攻撃を教えてくれてたんだよな。まずは、そこに感謝した。


「大丈夫だ、問題ない。さっきはサンキュ、枝まったく気づかなかったわ」


「あ、ううん。本当は駄目だったみたい。だけど……つい」


 試合中に第三者が参戦者に助言をするのは、反則行為に値する。


 しかし先ほどの場合は、声掛けが当事者の助言にならなかったし、どっちにしろ負けていた。そもそもミシェルって、誰なんだってな。助言にもなりやしない。


「ミシェル、途中から動き良くなってたの。アレなに?」


「アレは……」


 アレって、なんだろうな。恐らくは、能力の延長線上の能力。って、頭痛くなる言葉だな。


 何て言えばいいのか、開発したとは言い難いし。秘めた潜在能力を何たらかんたら。うむ、オレもよく分からん。


「何か知らんがな、オレも上手く説明できねえ」


「……野生の勘?」


「あの馬鹿と一緒にすんなし」


 なんて喋っているうちに、中庭の地面は片付いてしまった。何でもそうだが、話していると時間が経つのが速くていいよな。だから何事も、友達とやるのが一番だ。さて次は、窓と廊下。


「……ん?」


 見ると思ったより汚れてない、ってかピカピカじゃないか。まるで今拭いたばっかのような、鏡のような窓だった。


「窓と廊下は終わったぞ」


 声を掛けてきたのは、いつの間にか戻ったシブイバシだった。傍らにはロックが居て、雑巾とバケツを持っていた。


「シブイバシ、おまえ平気なのか?」


「ああ、誰だと思ってるんだ俺様を」


「馬鹿の挑発に乗って、板垣に潰された赤髪野郎」


 思い付きをそのまま口に出してしまったせいか、目の前の赤髪男はバツの悪そうな面になった。火曜といい今日といい、挑発に乗って痛い目を見る以外なにも出来てないのだ。


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