第17話 馬にでも育てられたか。馬鹿だけに


 決戦が木曜日になったのは、蓬田英二が居ないせいだった。


 防護壁を張れるのは蓬田英二だけなので、基本的に奴の預かり知らぬところで試合は行われない。ってか、出来ない。


 放課後は雪崩式ドロップス、プラスのゼータローの四人での勉強会となった。勉強内容は勿論、天下無双の二人についてだ。


 オレとシブイバシの部屋に集まった四人は、ロックを中心に奴らの闘い方を学習する羽目に。


 シブイバシは乗り気では無かったがな。昨日は相手の能力をマトモに理解しなかったから、負け戦となっちまったんだよ。


「勝つつもりであれば、必要なことかと」


 見ての通り頭の良さそうなロックが、頭が良さそうに眼鏡をクイっとしたからさ。ロックの方が筋が通り過ぎているから、シブイバシも何も言えねえんだろうな。


 まず大友悠は、誰もが知るように無能力者だ。この学園は一般入試も受け付けていて、凄い頭良いか運動神経が化け物染みているかすれば入学出来る。大友悠は、もちろん後者。その代わり、学年最下位の脳味噌を持つ。


「とはいえですな、大友悠氏は鼻が利きます。頭を使えない分、野生的な勘みたいなのが働きますな」


 闘いにおいての行動を全て、頭を使わずに勘のような何かで闘う男らしい。これ漫画だったら主人公並みの能力じゃないか。無能力者の癖に。野性的な勘と持前の運動神経を使って、今まで素手ゴロで能力者達と渡り合ってきたって話になるな。


「おっそろし……」


 話だけ聞けば人間よりも、動物を相手にしてるような感じだな。


「野生の勘って……なんだよ、馬にでも育てられたか。馬鹿だけに」


 シブイバシの台詞にオレ含め全員が笑ったが、馬の子にしては顔がいいんだよな。ムカツクことに。板垣央と蓬田英二が少女漫画の王子様だとすれば、大友悠は少年漫画の主役みたいなイケメンだ。


 つうか、この学園さ。整った顔、多すぎなんだよ。オレ以外が。


 シブイバシも時代劇に出て来そうな顔立ちだし、ロックも医者役の多い俳優みたいだ。ゼータローに関しては、歌って踊れそうなアイドルみたいだ。この面子で合コン行ったら、間違いなくオレが引き立て役だ。


「なので大友悠氏においては、本当に何をするか不明な相手です」


 馬鹿だから何を考えているか分からないって、遠まわしに言ってるようで笑えてくる。今まで奴に挑んだ全員が、馬鹿だからって侮って負けたのかもな。


「次に板垣央氏です」


 ロックは仲良くない相手には、絶対に氏を付けて呼ぶ。だがヒロシ氏って、なんだか新しい動物みたいだな。ヒロシシ。


「彼の能力は、異質の念力とでも言えば良いのでしょうかね……」


「念力って、手を触れずに動かすアレ?」


 ゼータローの台詞に、ロックはうんうん頷いた。今まで一般人だったから、知らない能力に興味あるんだろうな。オレら当事者二人よりも勉強熱心なもんだから、ロックも気を良くして続ける。


「彼の場合は動かすものをですね……好きな速度で飛ばせるんです」


 オレらは何回か目の当たってるから分かるが、実際に見てないゼータローはピンと来ないようだ。


 要は板垣央は物を触れずに浮かす芸当が可能、んで飛ばせる。普通に手で投げるのと違い、好きな速度に出来る。


「……あ、動画見せましょう」


「動画あんのかよ」


 オレもシブイバシと同じツッコミを入れそうになった。自分の生徒端末を握ったロックは、投映機能を起動した。


 端末から浮かんだ動画は、板垣央の試合中の動きだった。幾本も宙に浮かせた小枝を、相手に向けて放っている画だ。


 あのイケメンは基本的に、試合中は落ちている枝を武器として利用する。理由は二つ。一つは武器の持ち込みが禁止、二つ目は石だと殺傷能力が増してしまうらしい。


「つまり基本的に、ハンデ付けて闘っているわけですな」


「チッ」


 嫌味な奴だよな、オレとシブイバシは同時に舌打ちをした。下手したら殺ってしまうから、わざと手を抜いてるんですってか。本気出せば、貴様らなど只の雑魚ですってか。


 イケメンかつ親が開業医らしいから、尚更ムカついて仕方ねえ。シブイバシと目が合ったので、互いに親指を差し出した。


「彼の能力のアドバンテージは、やっぱり遠距離でしょうな」


 この闘いは能力を使いはするものの、肉弾戦が中心なんだがな。能力であれば、何でも使えるってのがミソだ。


 他の能力者が近接戦中心なのに対し、唯一遠くから攻撃できる手段を持ってるんだ。悔しいがナンバーワンである百合の紋章をな、手にするだけあるよな。腹は立つが。


「そこで……シブ君の能力を入れて、運が良ければ……」


 シブイバシが名前の通り渋い顔をしたので、ロックは苦笑いを浮かべた。なんせシブイバシの能力は、誰よりも運任せだから難しい。研究や訓練をすれば何とかなるらしいが、オレも気持ちは分かるから無理強いはしたくない。


「ただ……やっぱり、オレの能力がアレだから……シブイバシが頼りだ」


 シブイバシは運要素の強い能力とはいえ、失せもんを見つけるだけのオレよりかは、遥かに闘えるんだ。明日の戦いは、どうしてもシブイバシに頑張って貰うしか無いんだわ。


 共闘戦の基本的な戦法は、二手に別れるところから始まる。オレが馬鹿を何とかしている間に、どうにかシブイバシには板垣央に一矢報いて貰いてえもんだな。

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