第11話 主催者様
火曜日。登校して真っ先に向かったのは、いつもの雪崩式ドロップスの面子のところ。
まずロックが、昨日の大友悠の動きを解説してくれた。大友悠が目つぶしを喰らったのにも関わらず、まるで見えてるみたいに動けてた理由。それは心眼でも何でもなく、単純に相手の足音で判断してたっつうらしい。
いや、単純じゃねえだろうがよ。反吐が出るように、オレは言い放った。
百歩譲って中庭が床なら分かるが、地面だぞ地面。どんな耳をしていれば、土を踏む音で相手の動きが分かんだよ。
運動神経が化け物染みているからこそ、出来る芸当なのかもしれんのか。聴覚って、関係あんのかよ。
「やっぱ……あの無能力者様やべえわ」
オレの台詞に二人も同時に頷いた。何か能力でも使いましたっつう方が、まだ納得のいく話なんだよな。
大友悠っつう無能力者が、どれだけ今まで非常識な闘い方をしてきたのか。非常に思い知らされるもんであるわ。
「そんなに興味あるなら、闘ってみたら?」
急にオレら三人に割り込んできたのは、主催者様こと蓬田英二だった。主催者様だけあって、蓬田英二は不参加の雪崩式ドロップスに参戦を促してくる。
手を変え品を変えやってくるもんだから、こっちも意地っつうもんがある。向こうの万策が尽きるまで、拒否の姿勢は貫くつもりである。
「たまには主催者様が出たらどうだ?」
半笑いのシブイバシが冗談半分で言ったので、オレもロックも失笑した。
蓬田英二の身長は学年最下位で、更に基礎訓練までもが誰よりも劣っている頭脳派だ。女みたいな細腕の奴が、完全肉弾戦の能力戦になんか出れる訳がない。
しかし、どうやら主催者様は冗談っつうもんが通じなかったようだ。
シブイバシの生徒端末が青白く光り、挑戦状の三文字が浮かび上がったぞ。慌てて目の前の男に視線を向けると、蓬田英二が生徒端末をシブイバシに向けていた。
「僕だったら相手になるんだね?」
ロックと一緒にシブイバシの端末を覗き込むと、差出人はもちろん蓬田英二になっていた。
おいおいおい、主催者様みずから挑戦状とかトチ狂ったか。更に始末の悪いことに、青白い光のせいで、教室中の生徒全員がオレ達の方へと注目してしまってる。
「勝ったら好きにしていいけど、負けたら能力戦参戦ね」
「……いや、おちつけよエージ……」
「逃げるの? この僕から?」
なだめようとしたシブイバシなのに、それを挑発するような始末なんだわ。
止めようと手を伸ばしたが、時すでに遅しだった。主催者様の安いやっすい煽りに、見事に乗ってしまったシブイバシ。なんてこった。了承の項目を押してしまっていた。
その瞬間、教室に居た一年A組生徒全員の端末が一斉に光り、試合決定の通知が画面に表示されてしまった。蓬田英二、小林志舞偉。双方合意ゆえ、総合能力戦開催決定。
「はぁぁぁ⁉ なにしとんねん、シブイバシぃ!」
真っ先にシブイバシの元へと駆け寄ったのは、予想通り馬鹿の野郎だ。蓬田英二の幼馴染である無能力者、大友悠っつう馬鹿である。
「なんだよハル、お前には関係ないだろ」
まるでチンピラのように詰め寄ってきたもんだから、シブイバシは突っぱねた。
「つうか、エージ君から出しましたし……挑戦状」
「正気かワレぇ?」
ロックの台詞に驚いたかのように、大友悠は蓬田英二の方を見た。幼馴染の親友に対しても、チンピラみたいな態度なのかアイツは。
「正気だよ」と、蓬田英二は平然とした面構えだ。
いちいち大げさだな、この馬鹿は。お前は蓬田英二の保護者かよ、態度は反社みたいなのにな。
ああ、でもコイツは主催者様と支援者様の三人で、天下無双ってバンドを組んでるからな。怪我でもされたらコトなのか。いや、でも主催者様コイツ治癒能力持ってるしな。
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