第9話 ケンカ上等ならガチンコなんだわ
ゼータローに聞かれたのは、能力戦の話だった。
昼間の主催者様の熱弁は、どうやら三分の一も伝わっていないようだった。ざまあねえや。
しかし授業や他の能力者よりも、そこが気になるってな。そういう意味じゃ、主催者様の熱意は十二分には伝わってんのかもしれん。
まず最初に、ざっくりと格闘技みたいなものだって言った。普通の競技と違うのは、能力の使用が可能なのと、防護壁のお陰で怪我の心配が御無用である。
「ぼうごへき……?」
だよな。普通の人間ならば、聞き馴染みなんて無え筈だわ。
「防護壁ってのは、主催者様の蓬田英二の能力だ」
能力戦の主催者様な蓬田英二の能力は、対象に防護壁っつう膜みたいな何かを張る能力だ。
まるでオーラか何かのように、対象の全身を包み込む。防護壁が張られた状態ならば、ある程度の衝撃ならば防いでくれる。
しかしダメージの蓄積か、あるいは一撃で骨折並みの衝撃ならば、簡単に破壊されてしまう。能力戦は、これを利用した競技だ。
「互いに防護壁を張った状態からスタートし、先に割れた方が負け。何か質問は? 無いならテキストの564頁オープン」
「あるある。ありまくり! ってかテキスト厚すぎ、辞書かな⁉」
どうやらオレが思ってる以上に、能力戦に興味しんしんのようだな。闘うの苦手そうな身なりしてんのに、意外とムッツリなのかもしれん。
「一応、今日見たんだけど。能力だけで闘ってる訳じゃないの?」
返事の代わりに、オレは頷いた。本日の試合は、能力者バーサス無能力者というエキセントリックなものだった。
能力戦なんて名前になっちゃいるが、能力が使えるだけの肉弾戦だ。例えば身体を強化する能力を使おうが、戦闘方法は拳なんだ。
「だから無能力でも、ケンカ上等ならガチンコなんだわ」
「あ、あの黒髪の人が例の……」
どうやら無能力者の存在は、入学前に聞かされてたようで。黒髪である理由も、理解しているようだった。大変優秀な生徒なんだろな、教師は楽出来そうだ。
「防護壁って無能力者でも張れるの?」
「っつか、もともと主催者様。蓬田英二は、無能力者の為に生み出したらしい」
「生み出し……え?」
寝耳に水っつう面で、ゼータローは目を丸くした。
能力というものは、勝手に開花するだけじゃない。自分で生み出すってのも、可能っちゃ可能。
そもそも、この学園の目的が能力開発である。突然目覚めた能力を研究したり工夫したり、なんやかんやして人さまの役立つようにするのが、学園の理想とする能力の使い方だ。
主催者様、蓬田英二の能力は、もともと治癒だ。自分の能力の使い方の幅を広げる為に、なんか色々やったんだろな。実験とか。その結果、防護壁という能力も手に入れた。
「つまり、ここは能力さえ有れば良しとしない。更に自分なりの、やりよーってのを見つける為の場所なんだとさ」
いったい今までの説明のどこに感動したのか不明だが、ゼータローが目をキラキラさせているのに気が付いた。
「凄い……。そんな人たちが居るなんて」
ああ、マジか。コイツ、さては真面目な奴だな。オレの苦手とする人種に近いかもしれん。
学園としてはバンバン能力を凄くしろ、とか言ってるがな。まだオレら高校生だぞ。何もせんでも大学部に行けるんだから、研究とか実験とかさ、それからでいいだろう。
自由にやれるのが今だけなんだから、そんな高尚な考えなんて持たなくてもいいんじゃねえか。
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