第8話 それとも小生にゴザルか。


 清涼飲料水も滴るイケメンのままじゃ仕方ないんで、オレは清涼飲料水も滴るイケメンのまま神田勢太郎を風呂に誘った。


 学園島高等部男子寮。部屋にシャワーはあるが、大浴場っつうもんも備えてる。おかえりアナタ、風呂にするか飯にするか、それとも小生にゴザルか。


 風呂と飯の二択のうち、殆どの学生は飯を選ぶ。そんな時間だから大衆浴場は、貸し切りっつてもヤブサカじゃない。


 清涼飲料水も滴るイケメンは、まず滴る清涼飲料水を洗い流す。


 綺麗になった清涼飲料水も滴るイケメンは、清涼飲料水が滴っていた非イケメンへと姿を変えた。


 もしかしたら清涼飲料水を洗い流しちまったせいで、イケメンじゃ無くなっちまったのか。


 しかし清涼飲料水が滴るイケメンよりも、清涼飲料水が滴って無い非イケメンの方がモテるような気がする。


 オレがそうであるように、神田勢太郎の他の毛も髪と同じ色だった。オレ達は能力開花で髪色が変化するが、地毛になるからヒゲや鼻毛も同じ色になっちまう。


 中にはそれを見られるのが嫌な奴も居るので、自室のシャワーで済ます話も良く聞く。


 みんな変な色なんだから、別にどうでもいいと思うがな。五十歩百歩、キノコタケノコの背え比べ。


「僕は神田勢太郎。えっと……」


「えっとじゃねえし、さっき言ったろ」


「ご……ごめん。コーラのインパクトが凄くて」


 清涼飲料水も滴るイケメンがイケメンすぎたせいで、名前も吹っ飛ぶ程だったのか。なら仕方ないな、オレはも一度名乗りを上げた。


「オレはハイチャ・イナ。通称、ミシェルと言われている」


「うん、よろしく。ミシェル」


 神田勢太郎が右手をひらひらさせたので、オレは親指を立てて水没した。


 馬鹿な、コイツは冗談が通じぬっつうのか。このままだと、ずっとミシェルって呼ばれ続けるぞ。


 なんて思ったが、本名よりもミシェルの方がカッコイイような気もするし、別にいっか。気を取り直して、水面から顔を出した。


「ゼータローは何て呼ばれたい?」


「え、いいよ。ゼータローで……」


 妙な二つ名を付けられたくないんだろな、神田勢太郎は慌てるように首を左右に振った。


「ツートンか……ゲキマブだな」


「いいよ、ゼータローで……。ゲキマブって何⁉」


 必死に考えたオレの案は、風呂場に響いた大声で却下された。やはりオレは馬鹿と違って大友悠ではないので、二つ名付けの潜在能力は皆無みたいだな。


「っていうかツートンって、髪色のこと? それを言ったらミシェルもツートンじゃない?」


 ゼータローがオレの髪の毛を指差して、なかなか鋭い突っ込みを入れた。早速ミシェルっつう二つ名を使ってくれたので、何故か身体が温まったような気がしたっつう。いい湯だな。


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