第7話 爆弾コーラ


 爆弾コーラっつうのは、学園大学部清涼飲料水研究会が試作した清涼飲料水だ。


 爆弾みたいに強い炭酸が売りのコーラで、振ってなくても開ければドカン。暑さも寒さも関係無く、いつだって誰の干渉も入れずに爆発する。


 なんで、まずフタを捻ったら取らずに、二酸化炭素だけ逃がす。


 二酸化炭素の音が消えても、まだ油断は禁物だ。更に少し捻ると、再び二酸化炭素の抜ける音がする。


 それ以上は動かさずに、再び二酸化炭素を逃がす。これを五回くらい繰り返して、ようやくマトモに飲める。


 市販では不可能なくらい炭酸の強さを持つ、学園最強のコーラなんだわ。味は滅茶苦茶うまい。


 恐らくなんだが、自販機から落ちてきた衝撃のせいなんじゃね。普通に置いてあんなら、普通に開けられる筈なんだろ。


 だが爆弾コーラは飽く迄も、大学部の生徒が有志で作ったもんだからな。学園内だろうと、売店に置いてない。自販機でしか買えないのに、自販機だと油断の出来ない代物になる。難儀なもんだ。


 高等部内で唯一爆弾コーラの置いてある自販機に行くと、見慣れないイケメンが機体の前で困った面を浮かべてた。制服はウチのもんで、ネクタイは一年だ。


 誰かと思えば、転校生の神田勢太郎だった。


 財布を片手にキョロキョロしているサマを見て、即座にオレはビビっときた。多分な、金を入れる場所を探してるんだろ。


 転校初日っつても、学園島に来たのは昨日今日の話じゃない筈だ。となるとアレか。島に来てから一度も、買い物してなかったのか。


 周囲を見るが、誰も居ないので、オレは思わず溜息を吐いた。何が悲しくて、野郎の面倒など見なきゃアカンのさ。まぁ、しゃあ無いか。


「へい、カンダ」


 不意に声を掛けたのが、悪かったんかな。神田勢太郎はビクリと肩を振るわせてから、恐る恐るこっちへと振り返った。


 少し怯えるような目だったから、オレは逆に笑えてきたわ。こんな奴に主催者様は、能力戦の話を持ちかけてきたんかよ。


「オレは同じクラスの西英福。フクでいいぞ」


「え……あ」


 コイツも一日に話せる上限が、決まってる種類の能力者かもしれない。そんな奴いねえわ。


 オレは神田勢太郎の隣に立つと、読み取り機に生徒端末をかざした。なんか自販機が、生き返ったかみたいに光を放ち始めた。


「学園島は基本的に現ナマ使わん」


 右上の爆弾コーラの項目を選ぶと、中からボトルが落ちる音が聴こえた。取り出し口を開けると、無事に爆弾コーラが姿を現した。神田勢太郎の方を見たらさ、妙に尊敬じみた眼差しを向けて来るもんだからな。オレもつい得意気になってしまったっつうな。


「生徒端末って奴が電子マネーになっ……ブッチッハ!」


 意気揚々と解説に入ったはいいがな、相手が爆弾コーラってのを完全に失念してたわ。


 何気なくフタを捻った瞬間、ボトルの中の二酸化炭素と液体が、怒涛の如く顔面に襲い掛かったつうね。


 戦う、アイテム、とくぎ、逃げる。どの選択肢を押すか与えられずに、見事に清涼飲料水も滴るイケメンへと化してしまったわ。


「ぶっ……あはははっ!」


 先ほどの怯えた瞳は、何処に飛んでいったのやら。神田勢太郎が腹を抱えて笑ってたんで、居た堪れない気持ちで一杯になっちまったわ。虎穴があったら、虎子を得るから入りたいわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る