第6話 曾田司一郎
まさか試合中に奇跡が起こり、まさかの能力開花で御座いましょうか。
詳しい状況が気になったオレ達は、急いで一階へと駆け降りた。
道中、硝子の割れるような大きな音が鳴り響いた。どっちかの防護壁が割れ、試合の蹴りがついた証拠だ。
最後の階段を降りて職員室前から、中庭が見える窓へとかじりつく。主催者様に渡されたんだろう、大友悠が竪琴の紋章を掲げてる姿があった。
「おやおやおや……ドロップスのお三方」
オレらに声を掛けてきたのは、曾田司一郎っつう元竪琴の紋章保持者だった。
過去にコイツも大友悠っつう馬鹿に敗北を喫し、竪琴の紋章を取られてしまってる。
なんで特等席じゃなく、一階で見てたのかは謎だ。そもそもコイツ自身が、謎を具現化したみてえな人間。
「曾田氏、試合は一体どうなったんで?」
「……ご覧の通りですが?」
ロックの問いに、あっけらかんと曾田司一郎は答えた。
「御覧してねえんだ」
シブイバシの台詞にオレも頷いた。オレらがマトモに御覧してるって思ったら、それは甚だな筋違いだってな。
「途中までは観てた。だが目つぶし喰らった馬鹿が普通に動いていた。……能力開花か?」
シブイバシの問いに曾田司一郎は、表情筋一つ変えずに中庭を指差した。
大友悠が相も変わらず馬鹿面を引っ提げ、馬鹿みたいに竪琴の紋章を掲げていた。首に出る紋様が蹄鉄なのは、きっと馬鹿のバなんだろな。
「……ご覧の通りですが?」
こいつはアレか、一定の返答しか出来ない村人か。御覧しても意味が分からんから、貴様に聞いてるってんだボケナスが。
「髪の色の変化無し、という事でしょうな」
ロックの台詞を耳にして、曾田司一郎はうんうん頷いた。
こいつはアレか、一日に話せる上限が決まってる種類の能力者か。そんな奴いねえわ。ロック居なきゃ、まるで意味分かんなかったぞ。
「じゃあ何で、馬鹿の奴。目つぶしされても普通だったんだよ」
シブイバシの台詞耳にして、少し考えるような仕草を取った後。曾田司一郎っつうイケメンは、思いついたかのように手を叩いた。
「……野生の勘?」
そうかそうか、野生の勘か。所詮オレらは雪崩式ドロップス、能力戦の輪から転げ落ちた半端者だ。
詳しい話をしても、どうせ試合に出ないからな。確かにマトモに相手をする必要なんて無いよな。
まだシブイバシとロックは食いついてるが、これ以上は互いが時間の無駄だろう。どうでも良くなったし、帰って風呂にでも入るとしよ。
二人を置いて昇降口に向かったが、水分補強したくて自販機の方に寄り道を決めた。恐らく苛々が頭に血を昇らせてな、熱を発して水分を奪ったんだろな。
これは誰にも明かしてないが、オレの能力には副産物のようなもんがある。
基本的には、失せものを見ける能力でしか無いが。いま自分が必要としてるものに対して、無意識に向けるような兆候もある。
この時のオレは、それが学園特産物である爆弾コーラだと思ってた。
だが見方を変えれば、対象は違ってたかもしれねっつうな。
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