第5話 学園唯一の無能力者


 放課後。中庭が見える地点に、俺ら三人は取り合えず来てみた。


 東西南の位置にある校舎のせいで、ほぼ四角い競技場と化している中庭だ。囲われているから、幾つも観戦箇所がある。


 一番見晴らし良い位置は、二階の渡り廊下だがな。おおよその参加者が、見学に集まる特等席と化しているぞ。


 そして何故か、他の奴らは一年A組の生徒には窓際を譲る。っつう謎の風潮まで、出来てしまっているな。試合に出ない我々としちゃあ、公衆便所より居心地の悪い場所だ。


 我ら雪崩式ドロップスは特別なんか無ければ、三階の音楽室の辺りを陣取る。


 吹奏楽部のせいで、参戦中の奴らの声はマトモに聴こえないがな。どうせロクでもない挑発まみれの会話だし、馬の耳に入れる必要は無いっつう。


 出場者は二名。学園唯一の無能力者でありながら、竪琴の紋章を保持してる大友悠っつう馬鹿。そんな馬鹿ならば余裕で勝てるって踏んだんだろ、三兄弟の末っ子との試合だった。


 この学園は能力者が通う施設でありながら、一般入試の願書も受け付けてる。


 ただし凄え頭が良いか、身体能力が化け物でなきゃ、書類審査で弾かれる。いま中庭で踊るように戦う馬鹿は、言うまでもなく後者だっつう。


 能力戦ってものは、個々の能力を駆使して戦う競技なんだわ。だが、この馬鹿は自分の身体能力だけで、ナンバーツーの座である竪琴の紋章を保持してる。


 凄え頭が良いか、運動神経が化け物染みてる時点で、何かの能力を秘めてる可能性はある。


 今は無能力の馬鹿でも、いずれオレを凌駕する能力を手に入れるだろな。


 いや、きっと今戦えている時点で、もうオレを凌いでいるかもしれねえ。


 中庭を見れば無能力者の馬鹿が、相手の能力で目つぶしを喰らっていた。見るからに窮地な状況なのにも関わらずな、不敵な笑みを零す大友悠っつう馬鹿が居るぞ。


 何も能力を持たずに、素手ゴロだけで戦っているのにな。あからさまな非常事態でも、おくびにも出さねえもんだから大したもんだ。


 さて、どう動くのだろうか。なんて大友悠の動向を見るが、おそらく時間稼ぎでもすんのだろ。しかし、そんなオレの予想は、大友悠だけに遥かに上回る。


 目が潰れてるのを良いことに、相手が大ぶりの蹴りを入れる。ピンポイントに頭を狙って放たれた足は、見事に大友悠の脳天直撃。とは、ならんかった。


 なんと大友悠は、自分の頭に放たれた蹴りを受け止めていた。


 どうせ、まぐれだろう。なんて周りも思ってただろうし、恐らく対戦相手も思ってたに違いない。


 次に地面を一歩踏みしめて、真っ向からの顔面へと正拳突き。


 しかし今度は防ぐのではなく、頭をよじって回避。したと思った瞬間、大友悠は相手の額に頭突きを喰らわせやがった。


 三階のオレらでも分かるくらい、明らかな目つぶしを喰らったというのにな。なんと大友悠っつう馬鹿は、まるで目が見えてるみたいに動いていた。


 オレの方が目を疑ったわ。隣を見ればシブイバシもロックも、唖然とした面構えになってた。


「……心眼ですか?」


「アニメとかに出てくる……アレか?」


 二人の台詞に、オレは固唾を飲んぢまった。まさか大友悠の隠れた能力が、心の目とかナントカなのか。学年最下位の脳味噌で、そんな芸当出来んのかよ。


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