第4話 雪崩式ドロップス
神田勢太郎とやらが転校して、初めての昼休みだ。
案の定、主催者様に目を付けられたようだった。主催者に、加えて支援者まで居るなオイ。食堂のテーブルで転校生を挟んで、能力戦の説明をしている御様子ですわ。
ときにオタクっつう生き物は、自分の好きなもんに関してだけは饒舌になるようで。きっと主催者様も、その口だろう。
銀髪だし、イケメンなのにな、勿体ない。
入学早々だっつうのに、捲し立てていらっしゃる御様子です。ウチのクラスの心証が悪くなりそうだが、まぁどうでもいいか。
「すげえな、あいつ」
パスタを巻きながら面白そうな顔をしたのは、悪友の一人の小林志舞偉だった。
大友悠っつう馬鹿がシブイバシと呼んでいるので、オレも乗っかって同じように呼んでる。
「転校早々、なんというかトラウマものですな」
こっちは悪友のもう一人、小平慈英。通称、ロック。
これも大友悠っつう馬鹿が付けた二つ名だが、これに関しては本人も気に入っている。何でロックかっつうと、能力に関連した二つ名だから。
「助けに行くか?」
とんでもないシブイバシの提案に、オレは首を左右に振った。雪崩式ドロップスが関われば、絶対に主催者様がいい顔をしないからだわ。
雪崩式ドロップスは、オレら三人を蔑称した呼び方である。
別に組んで戦っている訳じゃ無く、むしろ戦っていねえっつうな。
能力戦なんて名前の山があったとして、雪崩のようにドロップアウトした三人を指す蔑称ですな。
ここに居るオレを含めた三人は、一度挑戦してボロ負けして、能力戦参加を諦めた三馬鹿だ。そんな連中が転校生に話しかけてみろ、途端に主催者様の御機嫌の悪化は免れない。
奴らが日向の者ならな、我々は日陰の者である。陽の当たる舞台から逃げた我々は、そこに立つ連中と話す資格すら持ち得ていないんだわ。
「っちょ、ホンマかいな⁉」
食堂に謎の声が響いたが、口調で誰かは丸解りだっつうな。
馬鹿だ、馬鹿。大友悠だ、大友悠。
反応する価値もないって思ったが、どうやらシブイバシもロックも同じみたいだ。周りがガヤガヤと騒ぎ立てるも、オレらは何も気にせず飯を食べ進めていた。
ロックは几帳面な性格なのか、何が何だか知らないが。飯の時は、生徒端末をテーブルの上に置く。
恐らく盗難防止かもしれねえが、ここに居る生徒全員が同じもんを持っているっつうね。その端末が青白く光ったもんだから、少しばかり辟易ったわ。
生徒端末が青白い光を放つ理由は、三分経ったからじゃなくて、能力戦が決定した時なんね。
あーあ、やっぱりな。あの馬鹿が騒いでいたのは、能力戦関連だったか。
ここぞとばかりに、何と後ろのテーブルに居た主催者様が、再び弁舌を振るい始めました。
おそらく転校生に、挑戦状機能の話をしてるんだろな。ここからでは顔が見えないが、ロックもシブイバシも乾いた笑いを浮かべてたからな。何となく察したわ。
「転校生のデバイスって、挑戦状機能入ってんのか?」
思いついたようなオレの問いに、見ての通り頭の良さそうなロックが、頭が良さそうに眼鏡をクイっとしてから答えた。
「というか教師が、端末を渡す前にインストールしてるみたいですな」
「職権乱用かよ」
シブイバシの一言に、オレも同意せざるを得なかったっつうな。
かくいう我々も主催者様に騙されて入れたは良いものの、何故か消去が出来ない機能と化していたっつうな。
一年A組の特権と言えば、聞こえは良いけどな。今となっては、目ざわりでしかない。三分くらいは測れないもんかね。
「フク君。カツ、要ります?」
ロックは頭が良いのに小食で、食券渡す際に米半分と注文してる。逆に冴えた脳味噌が、燃費を抑えてくれているのかもな。
量のある学食だから、いつも友達に分けてくれる。今日に限ってオレに振ったのは、カレーを食べていたせいだろう。有難く頂戴したっつう。
「今日は俺にくんねえの?」
いつも昼を分けて貰っているシブイバシが、何故オレに振ったのか不思議なみたいだっつうな。
シブイバシが食べていたのは、明太子パスタだったからだわ。
合うのか、合ったとしてもやらん。オレはそもそもカツカレーが喰いたかったが、ロックの注文見て敢えてカレーを選んだんだ。
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