第3話 ①
急な話だが俺は速水家に行く事になった。光夜が突然、速水家の行くと言い出したせいで心の準備もできていない。ただこう言った事はいつもの事なので急に言ったことに関しては良い。
しかし、俺は行くべきでは無いだろう。いくら透の姉が気になるとは言え、家の様子を見るだけとは言え、俺は行くべきでは無かっただろう。光夜もそうだがここ最近の俺も好奇心旺盛、というよりも動かずには居られない質になってしまったのかも知れない。
そんな事を思いウジウジしているとあっという間に速水家のある住宅街まで後数歩となる。
俺が速水家に行くに当たって光夜と約束したことは直接対面はせず様子を見るだけという事。
だって速水透のお姉さんに会うと危険が及ぶかも知れない。それにあの人が今の俺を見て更に苦しんでしまうかも知れない。今の俺は怪物だから。
「ト、トオル、もうすぐ着くな」
「そんなの言われなくても分かってるよ」
いざ目的の場所を目にして何故か光夜の方が緊張している。表情を見て分かるくらいだから相当な物だろう。
俺はぶっちゃけるとそこまで緊張していない。かつての速水透の記憶がトラック一台半くらいの狭い住宅街の出入り口、四角形を囲うように設置された家等を見慣れた物にするのだ。
俺が始めてこの道を通った時も本来ならあるはずがない懐かしさを感じたものだ。他人の記憶を持つとはこう言った歪みみたいものがあるのかも知れない。国語の教科書に出てくる登場人物達を見ているよう圧倒的第三者視点を持たないとウッカリ自分が速水透な気がしてしまう。
俺が速水透なんて本当の速水透に申し訳ない。
ただ、その記憶が本当に他人のモノなのかという事が未だにハッキリしないのがまた面倒でもある。
だから俺は今の俺を生かしている大切な速水透の記憶を借りさせて貰っていると考えることにしている。
「トオル、どうした?」
いつの間にか俺は立ち止まっていて光夜に呼びかけられた事でようやく気づく。
「あぁ、悪い少しボケッとしてた。それとボケッとついでに。
光夜、上を見てみ」
「上に何か?」
光夜は俺の言ったとおり上を見る。
「ほら、見えるか曇って来ただろう」
「本当だ。これはもしかしたら初雪か?」
「天気予報でも言ってたしコレは久々に降るだろうよ」
「トオル、なんか嬉しそうだな」
「そ、そんなワケねぇよ。お前みたいにガキじゃねぇんだよ」
最近嬉しそうにしているとよく「見た目相応」とか思われてそうな気がするのでウッカリ光夜にもキツく言ってしまった。だが、コイツもいつもニコニコしているから何だから本当に子供に思われてそうな気がしてしまう。
「別に良いじゃ無いか。確かに寒くて嫌だけど季節の風物詩だし、何より冬にはこたつ、クリスマス、年末に正月、中々楽しいイベントもあって僕は嫌いじゃ無いよ。何より『冬休み』も嬉しいな」
「最後に冬休みを強調していう辺りお前はまだまだ子供だな」
「万年暇そうにしてるトオルにはこのありがたみが分かりっこない」
「ンだトォ? 俺だって地味な仕事が多いだけでキチンと仕事してんだぞ」
「あれ、でもあそこに依頼する人なんて滅多に見ないけど」
「依頼のほとんどはネットで依頼だ。この前だってゴミ拾いと雑草狩り、ホテルの掃除の手伝いとか俺でも結構仕事してるぜ」
「前半は全部ボランティアで後半は普通のバイトじゃ無いか。というか僕が言うのもなんだけど未成年でできるの?」
「安心しろよ。ウチの社長は何故か顔が利くらしい」
「顔が利くからって未成年を働かせるなよ。節美さん本当いい加減だな」
「まぁ、社長がいい加減なのは今更だし。少なくとも俺と光夜に危害は無いハズだから問題無いだろう」
「危害は無いと言うけどトオルだってあの人の依頼で結構大変なことしているんだろ?」
「まぁな。けど、あんなのより俺の右手の方がよっぽど恐ろしいハズだ」
「そういう感じに比較するものなのかは分からないけど、まぁ、何にしてもトオルが無事ならきっと本当に大丈夫なのか」
「そういうこと。お前に心配されることでも無いの。俺としては勝手に巻き込まれるお前の方が心配だがな」
「俺は探偵気質だからしょうが無いよ」
「何が探偵気質だよ。探偵なら荒事になる前に事件を収めてくれよって感じ」
「無理無理、トオル達の喧嘩だけは着いて来れないからさ」
光夜はこれまで依頼関係で荒事などを目にしているがアレを喧嘩と言うには少々言葉違いだと思う。確かに死者が出てるわけじゃないが普通に刃物使う相手とか相手にするし拳銃も何度かお目にしたことがある。あれは殺し合いと言うべきだろう。
本当、俺もコイツも死なないのが謎だ。俺はともかくただの一般人である光夜が死なないのは謎過ぎる。やはり探偵気質なのだろか。
ついに速水家前まで来てしまった。
流石に家の前までくれば俺でも少し緊張してしまう。速水家に近づく毎に最悪の展開がより鮮明のなっていく。今までとはまた違った緊張に頭が混乱しそうだ。
「ヨ、よっしゃ、トオル、い、行こうぜ」
「だから何でお前が緊張しているんだよ」
俺も人の事を言えないがコイツは俺以上に緊張している。そんな姿を見るとかえってこっちが冷静になれる。
「だってよ。この際言うけど勇さんとお前の再会が上手くいかなかったらどうしようって思ってさ」
「オマ、今更何言ってんだ。さっき「俺が謝る」とか言ってただろうが」
「そうだけど俺だって人間なんだからさぁ」
コイツ、小学生の頃から少し変わったかと思ったが、余裕ぶっこいていざ直面するとビビって弱腰になる調子の良い性格は相変わらずのようだ。
まぁ、コイツの言うとおり目の前にして緊張してしまうのも分かる。当たり前だけれど電気もほとんど消してありかつての賑やかな雰囲気は家の外から見ても感じる事ができない。数年ぶりに見たせいか少しボロくなった印象が覗える。人が住んでいない家は数年でボロくなるという事をどこかで聞いたことがあるがそういうことなのだろうか。
「ン? ちょっと待ってトオル」
光夜が速水家のカーポート下にある車を指す。
て、車が何でこんな所に?
「光夜、あれは透の姉さんが乗ってる車か?」
「勇さんは一応免許取れる歳のハズだけど、こんな見てくれでも分かる高そうな車をあの人に買えるわけがない」
光夜の言うとおり最新の車ではないと思うが見てくれが大事に扱われているおかげか新品のように綺麗でスマートで赤いボディがいかにも速そうに見える。確かに姉さんの借金生活でこんなの買えるわけがない。
「じゃぁ、コレは別の人の車ってことか? 光夜何か聞いてないの?」
「何も聞いてないな。でも勇さんの知り合いなんじゃない? セールスにしては堂々と人の敷地に止めすぎだし」
「これがセールスだったら生意気過ぎて怒鳴るぞ」
姉さんにこんな車に乗るような知り合いがいたのだろうか? 確かに姉さんは社交的ではあるが。まさか……
「光夜、これってもしかして彼氏の車なんじゃね?」
「えぅ!? マジかよ!! 勇さんいつの間に彼氏作ってたのか」
「年齢的のおかしくねぇだろう。昔、近所の同級生が透の姉さんに好意を持っていたとか噂で聞いたことあるし」
「むかしからモテるなんて、コレは決まりだね!」
「何かお前妙にテンション高くないか?」
「だっておめでたい事だろう。互いに愛し合える相手に会えるなんて素晴らしいじゃないか。ヒュー、ロマンチック」
お前、人前でそんな事恥ずかしげもなくよく言えるよな。
「それに比べてトオルはテンション低いじゃん」
「いや、俺は別にいつも通りだって」
いつも通りの俺を見て光夜が口元を緩める。
「トオルもしかして勇さんに彼氏できて嫉妬しているんじゃ?」
「バッカ、ちげぇよ。何で
「まぁまぁ、そうカリカリしないで。分かってるよ。弟として気になるんだろう?」
「だからちげぇよ。そもそも俺と透の姉さんは姉弟じゃねぇよ」
「でも自分で姉弟って言ってたじゃ無いか」
「いや、アレは、言葉の文で……。ハイ、この話はおしまい」
このままでは俺が勘違いされそうなので話を強引に終えた。
「オラオラ、そんなに気になるならサッサと家に入って確かめてこいよオラオラ」
「あぁ、待っててトオル。万が一彼氏だったらどうすんだよ。
ここはまず様子見だ」
確かにコイツの言うとおりだ。というか元々俺は様子見だけから丁度良い。
「でもどこから見るんだよ?」
「こんなこともあろうかと」
光夜が家の正面から見て右側に向かって足を進める。
「ここに何があるんだよ」
「俺の下調べでは掃除の際に居間が見えるここの窓を開けているんだ。もしかしたらここが開いているかも知れない」
しかし窓はピクリとも動かない。それどころかキッチリカーテンも閉めている。
「ダメじゃん」
「…………普通はそうだよね」
まるで無駄な行動だ。
「てか、お前人の家のそんなところを見ているのかよ。俺お前を家に上げるの怖くなってきたんだが」
「ち、違うよ。決して泥棒をするためじゃなくて万が一を考えての下調べなんだ。トオルが様子見だけというかもと思って」
妙に焦っているところがまた怪しく見える。まぁ、コイツの場合は本当にそうなのだろうけれど。
「まぁ、透の姉さんが不用心では無い事を知れて俺は満足だよ。
それよりも俺に考えがあるんだ」
「トオルが? 珍しいね」
「あぁ、コレを持っている俺にしか思いつかない方法をな。光夜、iPad持ってるか?」
「あぁ、一応ね」
「よし、これで後はお前は家に行ってWi-Fiを繋ぐだけだ」
「トオル、もしかして盗聴する気なの?」
「あぁ、勿論。こういう時に携帯を使うんだろう。LINEを教えるから家に入ってネット繋げたらさっそく電話だ」
こうして俺の作戦を始めるべく光夜を家に放つ。
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