第2話 ③
その後、私は彼にワケの分からない程に愚痴をこぼしまくってスッキリした頃には昼の十五時を過ぎていた。
私は彼が急に来たこともあって昼ご飯をまだ食べていない。
だから、私の料理の技量を見て貰うついでに彼に昼ご飯をごちそうすることになった。いや、この時間ならおやつと言うべきか。
時間の事もあって彼にはマーガリンと砂糖を混ぜて塗り、フライパンで焼いたパンとそれに紅茶を一杯。なんか朝ご飯みたいなメニューだが母が作ってくれたこの味を今でも好きである。
彼の食事を用意した後、昨日炊いたご飯と納豆と青ネギを出しつゆで炒めて簡単なチャーハンを作った。これも母さんの定番メニューだ。
調子に乗ってフライパンを焦がしてしまったがチャーハンはダイジョブ。後は、チャーハンに天然水があれば完璧ね。
「それじゃぁ食べましょうか」
「なんだか朝ご飯みたいなメニューですね。それと納豆のチャーハンなんて初めて見るな」
「うるさいそのくらい分かってるわよ。後、納豆チャーハンなんて今どきクックパッドでも載ってる美味しい隠れメニューなのよ」
「へぇ~、今度試してみようかな」
二人は手を合わせ「いただきます」と言い食事を始める。
「あなたもしかして料理とかしてるの?」
「はい、両親は共働きなので家に居るときは自分で作ってます」
「意外。あなた料理とかするのね。見た目通りではあるけど性格がアレだからてっきり不器用かと思ったわ」
「性格がアレって何ですか。酷いな。トオルにも同じ事言われましたよ」
彼と大泣きした事がきっかけになり最初にあったぎこちない感じも完全に無くなった。年上の私が子供の前で恥ずかしいけれど帰ってありがたい状況になった。
「本当、透は知らない間に友達を沢山作ってたのね」
「透は結構いましたけど、この家に透の友達とか来たこと無いんですか?」
「当時、両親が不仲で喧嘩気味だったからウチに呼びたくなかったのかも知れないわ」
彼はコップに入れた紅茶を飲み終えて「そうだったのか」とどこか申し訳無さそうな顔をする。
「俺、トオルのヤツからもそんな話を聞いてなかったので。そうか、昔からずっと苦しんでたのか」
「私だって喧嘩する両親を止めるだけで透にどうやって対処してあげればいいか教えてあげられなかった。だからそんな顔しないで」
そう、私は透に何もしてあげられなかった。だから透は今も一人でどこかに居る。私が頼れないからかな。
「それにしても透のヤツってあなた独特な喋り方をするのね」
「あ、えっと、いやぁ~こんなので女性を喜ばせたなら本望ってヤツですよ」
「いや、別に褒めては無いけど」
何か誤魔化したように感じるけれどもしかしてコミュ障か何かなのかしら。
「あの、勇さんて、透の家の事で何か知っていたりしますか?」
「何かって?」
そう言うと彼はコップの紅茶の残りを一気に飲み干しす。
「単刀直入に聞きますけどトオルの両親が死んだ日に何かがあったのかなって」
「……どうしてそんな事聞くの?」
「知りたいからです」
「知りたい理由って?」
彼は言葉に詰まり目を逸らし黙り込む。
「あの日は私が家に帰ると家族が死んでいたの。近所でも噂になってるから知ってると思うけど家に来た空き巣に殺されたの」
「あの……家族って誰と誰の事を指しているんですか?」
誰と誰ってそれは家族全員に……。
まるで死んだ人間を知っているかのような訊き方。
「あなた透の見たの?」
目を晒した彼は一気に瞳を大きくする。
「そう、透を見たのね」
「……はい」
なるほど。道理で納得できる。突然家に来て透の話をするなんて確かに透を見た人間にしかできない行動ね。だったら丁度いい
「そうねぇ、あなたになら別に話しても良いかも」
「何か知っている事があるんですね」
「但し、このことは誰にも言わないでほしいの。それが約束できないならダメよ」
「勿論です」
「そしてあなたの知る情報を全て教えて」
「分かりました」
――私は食事をしながら彼にあの日家で何が起きたかを私目線で詳細に話した。こんなSF見たいな話を彼はものすごく真剣に聞いてくれた。それどころかまるで事件を深掘りするかのように何度も質問をする。さながら探偵のようだった。
「と、言ったところかしら。あなたもよくこんな話を真顔で聞いてたわね」
「そりゃ、そうですよ。おかげでスッキリしました。やっぱり勇さんもトオルが今も生きている事を知っているんですね」
「えっ?」
「だって妙だと思ったんですよ。家族を失っているにも関わらずこの町で生活してるなんて。もし空き巣が犯人だと思ってるならこんな町で住みませんよ」
「なるほどね。宛てが無かったわけじゃないのね」
「まぁ、この家に人が居るかは正直当てずっぽうですけど。それよりも勇さんに銃を持って脅したと言う人達の話は興味深かったです。トオルを探す他の人たち。確かに事実が隠されてきたわけだ。その、俺に話して大丈夫でしたか?」
「あなたがあの人たちの仲間だなんて思ってないわ」
私が襲われた時に居たのは体の厳つい黒服の男達とオレンジ色のポニーテールの女が一人。こんなに背丈の低い子供は居なかった。
「それじゃ、今度はそっちの話を聞かせて。あなたが何故透を探すのか、透をどこで見たのかを」
そう、ここまで話をしたのはこの子から情報を引き出すため。そしてこの子は透が行方不明になってから透に会っているはず。そうでないとこの家に来ないから。
「俺は透が死んでから、何回かトオルに会った事があるんです」
「その場所は」
「いつも不定期で分からないんですけど俺はこの市内で会ってます」
「それは本当!?」
驚きのあまりに声が裏返ってしまった。私だって市内を探したのに見つけられなかった。
「どうして、あなたは見つけられたの?」
「どうしてって言われても、俺はたまたま会っただけで」
「嘘よ。私だって市内を探したわ。それに黒服の人達だって探している。それなのにあなたが偶然」
それに黒服の人達も探しているのに彼が偶然にも見つけられたなんてとても信じられない。
「俺が見つけたのは事件から数日後なんです。あの後はバイト先の事務所で寝泊まりしてます」
「それは本当!?」
私は思わず声が裏返ってしまった。まさかこの街のどこかでバイトをして過ごしている何て。というか小学生がバイトって一体どこの業者なのよ。
「透は今そのバイト先で過ごしているのね。それでそのバイト先は」
「バイト先は湖岸側にある何でも屋中本というんですけど」
何でも屋? 私がバイトを探していたときもそんな業者見たこともない。そもそもこんな地方で何でも屋って怪しさ丸出しではない。
「ありがとう。場所が分かってるなら早速行かないと」
この子に話して正解だった。コレで透の場所も分かる。
「待って下さい勇さん!!」
「どうしたの? 今から透の所へ向かいに行かないと」
何故彼は止めるの?
「トオルは今誰とも会いたくないって言っているんです!!」
「そうなの。透がそこまで心を弱らせていたのね。だったら尚更私は行かないといけない」
「でも、今はお願いしたいんです」
「どういうことなの?」
私には彼の言っていることが弱く分からなかった。
透と会わせるために私の基に来た彼がどうして私を止めるのか。
「透には時間が必要なんです。それを勇さんの話を聞いて俺には理解できた。
アイツは今でも家族を大切にしてる。そうだからアイツは会えないんです。大切な家族を会うために、踏ん切りを付けるために、今あそこに居るんです。
どうかアイツに時間を下さい!」
時間が欲しい。透には心の整理をするための時間が必要なのだろうか。なるほど。確かにそういうこともあるかも知れない。
だが、どうしてだろうか。それは分かるのに、それを理解、いや、許容することができない。何故か透が一人で居ることが不安な気がした。勿論バイトの人が居るかも知れない。だがそれは別として今の透が一人で居ることで、より辛いことになっているのじゃないか。
私には溜まらなく不安だ。
「ねぇ、それで本当に透は大丈夫なの?」
「えっ」
意表を突かれたのか、間抜けな顔をさらす彼に私は言ってやりたい。
「一人で居るってどんなに悲しいか分かる? 透もきっと一人で居て苦しいじゃ無いの? 一人で両親の死を抱えて、あの子は苦しんじゃ無いの?」
「それは、そうでしょうね。きっと俺はトオルじゃないからその量を知る事はできない」
「そうよ。だから透には」
「でも、今のトオルはお姉さんには会いたく無いハズだ」
彼は表情を変えずさっき同じ事を伝える。
「ねぇ、何でそんな事言うの?」
「トオルが恐れているから」
「私を?」
「…………失うことを」
彼は2拍程開けて言葉を伝える。彼が考え出した言葉は『失う』だった。
私と会うことが透の家族を失う結果になるのか。そこの繋がりがよく分からない。けれど、それは透にとっても私にとっても怖い事なのだろう。
「わかったわ。いいわよ。あなたの言うとおり透に時間が必要なら私は待つわ」
「えっ、いいんですか?」
彼はまた間抜けそうな顔を見せる。
「良いと言ったでしょ。あなたが提案したことじゃない」
「ありがとうございます。でも俺はいつかトオルと一緒にここに来ます。これは絶対約束します」
「そう、ありがとね」
あまりに期待はしていないけれどね。それでも時が来たら会わせて欲しいとは思う。
それから彼には何故か透の好きなものを聞かれたりした、事のなりゆきで毎月に一回料理を教えて貰う事になった。
――あれから時が流れるのも早い事で事件から三年が経つ。
私にもとうとう二度目の受験が訪れ自分の進む道を決める時期が来た。未だに自分の将来には具体性は無い。ただ、家族を守るための将来を私は求めている。そして、最愛の透のためにすべき事が分からずに居た。高校三年生にもなって自分の将来が設計できないようでは不味いだろうか。世間的に大丈夫だと思っていたがいざ決断が迫られると自分の愚かさに気づく。
そんな私ではあるが、2015年の12月、今日は光夜くんと協力して透の誕生日パーティーを開く。
料理の腕も結構上がって少なくとも今日のパーティーにふさわしい物は作れたハズだ。
そして今透を連れてくる予定の光夜君を待って私は飾り付けやら掃除を済ませる。彼は昔「絶対連れてくる」と言ったが果たして果たしてくれるだろうか。無理はしないように言っているからもしかしたらダメかも知れない。けれど別に責めたりはしない。透には会いたいけれど透を無理させるのも可哀想だと思う。
けれど、ここまで準備したから、一緒にいただきますが言いたいな。
ずっと会いたいと思いながら待っているだけの私。そんな時に家のインターホンが鳴った。
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