第2話 ①

 2012年。私はすべてを失った。


 家族が無残な姿で死んでいたのだ。その姿を今も鮮明に覚えている。


 二階の床には愛すべき家族の血が浸っている。体が裂かれ、ちぎられた、その姿はあまりにも痛々しい。


 最初はただただ嗅覚に来る受け付けない匂いと日本社会とは思えない程の無残な死体に私の心の中にある戸惑い事吐き出されたものだ。しかし、あの地獄絵図は私にとって最後だったのかも知れない。


 あの時の匂いと家族の最後の姿は私にとって恐ろしくもとても大切なのだ。


 だって家族だから。そしてその家族を決して忘れず心の中に居続けるから。


 けれど、その家族であり唯一の肉親である透が私の前から消えた。


 私が最後に透を見たのはあの人達が見せてくれた映像だけだ。今思うとアレはどこで取ったのだろうか?


 透の最後の姿は服の袖を抑えながら必死に走っていた。


 それだけではあるが私には透が苦しかったのが分かる。きっと透もあの地獄絵図を見たに違いない。


私は黒い服を着たあの人達に透の居場所と家族に何があったのかを聞いたが一切答えてくれなかった。


 ただ、あの人達は死んだ家族の修復費を引き換えに、事故処理の協力と事故に関する全ての黙秘を迫ってきた。なんせ、私の頭に銃口を向けられては断る事もできない。


 事故処理と言ったところで私がしたのはちゃんとした葬式と世間と親戚に対して真実がバレないように口裏を合わせる事だろう。


 その後、世間的に家族の死は空き巣による殺人となった。犯人は確定していないがあれが人間にできるものでは到底無いだろう。アレが人間の意思でやれたのなら人間って本当に獣なのだろう。


 そして、私はあの人達の命令で精神疾患を患っている事にされ病院に入院することになった。 私が何を喋っても絵空事にするためだろう。家族を失って精神のイカれた女の喋る事なんて大抵真摯に受け入れてくれるはずが無い。少なくとも真犯人を追うほどの発言力は無い。




 事故後、精神疾患で入院した私は親戚達の話を聞いて退院後に親戚の家で過ごす事になるはずだった。


 私が精神疾患である事を良い事に私に聞こえるようなところで親戚同士の押し付け合いをしていた。それと私たちの住む家のお金を払いたくないとかで家を売り払う話もあった。


 だから、私は嫌だった。誰かの家族にされることも。お互いに嫌々家族ごっこをしないといけないのも。ましてや家を失う事も。


 だから私は借金をすることにした。


 幸い、精神疾患であることを利用して暴力の限りを尽くした。まるで銃口を突きつけたあの人達みたいで気に入らないが、おかげで話を聞いて貰えた。幸い、学力もそこそこあったので借金返済の見込みはそこそこありそうだとの事でお金を貸してくれた。学力ってこういうときには便利だなと思ってしまう。


 それに、私が暴力的で精神疾患持ちだと知って更に面倒くさいと思ったのだろう。彼らにとって金を貸すだけで目の前から障害が消えるなら安いモノだろう。


 誰も家に危険人物は置きたくないのだから当然である。


 私の家族のように死者を出したくないだろうから。



 そして私はこの街で一人暮らしをすることになった。


 一人暮らしを始めてようやく透を探す時間ができたが、しばらくあの人達の監視下に置かれていたせいでまともに探す事ができなかった。


 当時の私は受験前の中学三年生。当然、まだまだ子供である私に透を見つける事はできなかった。どうやらあの人達もまだ探しているらしく、おかげで私は希望が持てた。生死が判明していない分希望が持てる。


 だから、諦めるわけに行かなかった。受験が終わっても私は毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩、家族との再会を胸に透を探していた。


 しかし、現実は残酷だ。


 私はたった一人の弟を見つけ出すこともできない情けない姉だったのだ。


 しかし、そんなワケにはいかない。


 だって私ははやゆう。透の『姉』だから。


 そして同時に透にとっての唯一の家族。


 姉で、家の家族の柱である私が透を見てあげないといけない。


 だから、私はあの忘れられない絶望と供に、透のためにもっと姉にならないといけない。


 そうならないと透が戻ってこない気もした。だから私は何としても透のために姉になる。


 だから、お願い。透。帰ってきて……

 

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