番外編 第8話 ママさん視点ですよー


 私には、3人の子供がいる。幸せな事に、みんな元気に育ってくれた。これもきっと、愛する旦那様薫さんが持つ不思議な力のお陰なのだろう。


 薫さんには、人や物を鑑定する特別な能力があった。そして人物を鑑定すると、その日の運勢が占えるのだ。良い運勢の事もあれば、最悪の事を回避する運勢を教えてくれる事もあり、非常に有り難い能力だった。


 薫さんが言うには、占いの神様が私たちを見守っていてくれているらしい。本当なのかと疑問に思った事はあるけど、今日まで幸せに暮らせて来れたのも、占いの神様のお導きがあったからだろう。




 私が初めて出産した長女の美姫ちゃんは、本当に私の子なのだろうかと思ってしまうくらいの美人に成長してしまった。身長は170cmもあり、スラッとしたモデル体型なのに胸が私より大きいのだ。……ぐぬぬ。頭も非常に良く、国立大学に現役で合格してしまった。そんな長女にも欠点があった。それは、重度のブラコンだったのだ。


 物心ついた時に生まれた末っ子の春希くんにべったりだった美姫ちゃんは、春希くんの事を人一倍可愛がっていた。にじり寄ってくる他の女性を排除してしまうくらい独占欲が強かったのだ。この春希くんの一人暮らしが良い方向に行くと信じている。……はぁ、あの子の将来を考えたら胃が痛くなってきました。



 それに比べて長男の雪斗ゆきとくんは安心です。修二さんと玲子お姉さまのところの次女の香澄かすみちゃんとラブラブで、一緒に仲良く海外留学しちゃいました。きっとこのままゴールインしてくれるでしょう。



 そして問題はうちの次男の春希くんです。この子はまさに私の子と言える感じがします。私と同じくらいの頭の出来で、身長も私とほとんど変わりません。私にとっては3人とも可愛い子供たちですが、春希くんは目が離せません。


 そんな春希くんも大学1年生になりました。学力的に行けるところはあんまり多くないって学校の先生と話していたけど、無事に埼玉の私立大学に入学する事が出来ました。調べたところ、薫さんのお兄さんであり楓さんの旦那様である中野日向なかのひなたさんの母校だそうです。


 さすがに東京から通うのは大変という事で薫さんと住まい探しをした時、ここで薫さんの鑑定能力、今日の運勢で指示があったのです。指示には詳細な住所が記載されており、その空き家を購入しなさいと……。何やら運命の出会いが待っているそうです。




 大学の合格が決まってすぐに空き家を購入して手入れを業者に頼み、軽くリフォームも行った。古い日本家屋だったが、リフォームした事で住みやすくなったと思う。


 そして春希くんが一人暮らしを開始した翌日、私が様子を見に行くことになった。さすがに高校を卒業したばかりの息子なので、最初くらいはサポートしてあげないとダメだろうと考えたのです。最初は私がこっちの家に住もうかと思ったが、どうやら薫さんの運勢に、占いの神様から一人暮らしをさせろというお告げがあったそうです。





 玄関チャイムを鳴らしたところ、すぐに息子が出て来た。


「あ、春希くん起きてたんですね。てっきり寝てると思ってました」


「いらっしゃい、母さん。上がってよ」


 玄関を入って驚いた。前回来た時と家の空気が違うのだ。リフォームしたからかと思ったけど、何というか空気が澄んでいるのだ。まるで深い森の中にいるように……。


 客間に案内されて更に驚いた。小さくて可愛い子猫が居たのだから。


「わぁ、猫ちゃん!!」


「うにゃーん」


 思わず抱き上げてモフモフしてしまった。こんな可愛い子猫を触った事が無かったのだ。 


「可愛い! どうしたの? この猫ちゃん」


 リフォームした時には居なかったはずだ。どこからか迷い込んだのだろうか?


「庭の祠に住み着いていたみたいで、母猫も見当たらないから保護してます」


「……祠? でもまあ可哀想だし、うちに連れて帰ろうかな……」


 この家に祠なんてあったでしょうか? 購入時に家の隅々まで見ましたが、祠らしきものは無かったはずです……。


「えっ!?」


「だって、春希くん一人じゃ世話なんて出来ないでしょ? 学校行ってる間とかどうするの?」


「うっ」


 もしかして何も考えずに猫ちゃんを保護していたのだろうか。やっぱりどこか抜けている息子である。


「じ、実は大学の先輩と仲良くなってね、共同でお世話してくれる事になったんだよ。えっと、その人は3年生で、その、あんまり講義が無くって暇してるって言ってた!」


「嘘ですね。春希くんが誤魔化す時、キョロキョロする癖があります。お父さんとそっくりですよ」


「ええぇ!?」


 薫さんと一緒です。やっぱり息子ですね。


「と、東京になんて連れて行ったら、きっと逃げ出して車に轢かれて死んじゃうよ!? この子は僕が育てますー!」


「ふふ……そんなところもお父さんそっくりですね。分かりました、もし助けが必要になったらいつでも連絡してくださいね」


「う、うん」


 安心したようにホッとする息子を見て、1日見なかっただけで随分と成長したなと感じてしまった。この一人暮らしも、きっと神様の思し召しだったのだろう。


 そう考えながら、手に収まる小さな猫ちゃんをモフモフするのだった。ああ……この幸せそうな表情がたまりません。東京でも猫ちゃん飼おうかな?




   ◇




 そして息子と近くのスーパーへ買い出しに行った時、椎名睦月さんという女性に出会った。


 今朝、東京の実家から移動する前に薫さんが私の事を占ってくれたのだ。そして今日の私の運勢は、『近所のスーパーで働いている椎名睦月さんを何が何でも夕食に招待しましょう。必ずです。絶対です。さもなければ、黒川春季は永久に独身ルートに突入しますよ?』という衝撃的な内容だった。


 これを見た時、薫さんと二人で悲鳴を上げてしまった。私の選択次第で、息子が永久に独身になってしまうと言うのだから。薫さんの占いは、言い換えれば神様からの神託なのだ。信じて行動しなければ、絶対に後悔する事になる。何と言っても、過去に2回も人の死を回避しているのだから……。


 ペット用品売り場で仲良くお話する二人をバレないように観察してみた。コッソリと二人の会話を聞いていたが、どうやら二人とも思うところがあるらしく、脈ありな状態なのだろう。これなら夕飯に招待する事はそう難しくないと思った。


 そして春希くんにお肉を探して来るように頼む事で、椎名さんと二人きりになる事が出来たのだった。


「春希くんの母の黒川葉月です。よろしくね椎名さん」


「よ、宜しくお願いします。椎名睦月です」


 椎名さんは私より随分と背の高い綺麗な子です。胸も大きいですが、優しそうな顔立ちが好印象ですね。


「急にごめんなさい。私は明日帰らないと行けなくって、今晩だけでもお食事一緒にお願い出来ませんか?」


 きっと椎名さん疑問に思っているだろう。何故昨日会ったばかりの後輩、しかもそのお母さんと一緒に夕飯を食べる事になるのだろうと。ふふ……観念して貰いましょう。これも全て、占いの神様の思し召しなのです。


「わ、分かりました!」


「ふふ……ありがとうございます。好きな食べ物とか、嫌いな食べ物はありますか?」


「嫌いな物は特にありませんので、何でも食べられます!」


「じゃあ好きなものは?」


「え、えぇ? いや、その……」


「何も遠慮しないで下さい。さあ……」


「……その、お肉が好きです」


「私も好きですよ。いっぱい用意しますので、楽しみにしてて下さいね」


 椎名さんは顔を赤くしてしまったけれど、お肉が嫌いな女性は居ないと思いますよ! よし、これも春希くんの為です。良いお肉を沢山用意しましょう!


 そうして夜の懇親会が決定した事を、まだ春季くんは知らないのだった……。


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