第55話 ミウちゃんですか?


 美人秘書さんと美味しいランチを食べてから向かった会社は、聞いたことの無い会社だった。どうやら僕が知らないだけで、世間一般では有名なシステム開発を行っている企業らしいです。天王寺グループに属する会社の基幹システムを構築している心臓部と言っていました。そのため、一番最初に確認したかったそうです。そして、以前ライバル企業に競り負けた事があったらしく、情報漏洩を疑っていたが見つかっていないそうなのです。


 ファミレスから歩いて5分ほどで目的地の会社に到着しました。大きなビル全部が丸ごと天王寺グループの会社だそうです。1階のエントランスで受付のお姉さんに案内して貰うのかと思ったら、美人秘書さんが堂々とエレベーターにカードキーをかざして乗り込んで行きました。受付のお姉さんが立ってお辞儀してきたのでこっちが驚いてしまった。僕も遅れないように乗り込みます。


 エレベーターは20階まであるらしく、秘書さんが7階を押していた。すごく緊張してきたぞ……。


「そんな緊張しないで大丈夫です。対応は全て私がやりますので、師匠は一言も喋らないで大丈夫です」


「は、はい……」


 やばい、この美人秘書さんは頼もしいかもしれない! このキリっとしたインテリ美人秘書さんが、恋人の部屋を盗撮してエッチなコレクションを増やしてるなんて誰が想像出来るのだろうか? 誰かに言いたいけど、口止め料ランチを奢って貰ったので僕だけの秘密です……。


 7階に到着しフロア全体を見渡してみると、どうやら主に人事総務の人達が集まったところのようだ。そして奥に立派な部屋があった。きっと偉い人が使う部屋なのだろうと思っていたら、美人秘書さんがノックも無しに入って行った! この美人秘書さんは何者ですか?


「今日はここでお仕事です。師匠は奥のデスクを使って下さい」


 部屋の奥に社長机のようなものがあり、美人秘書さんが当たり前のように座ってしまった。そして壁際に事務用の机があり、そこが僕の作業場になるようです。部屋は8畳くらいのスペースですが、社長机の後ろには大きな窓があり、外を見ると都内の景観が一望出来ます。まあビルばっかりだけどね。


 僕のデスクでPCを立ち上げて準備をしていたら、入口から綺麗なお姉さんが入って来た。もしや面接が始まったのかと思ったら、珈琲を持って来てくれました。良い香りです。


「準備が出来たら始めましょう。面接中の会話はPCのチャットアプリで行いますので、師匠の鑑定お仕事が終わったら連絡を下さい。すぐに面接を終わらせます」


「……了解です」


 本当に盗撮ばっかりしてるあの美人秘書さんですか? お仕事モードだと人が変わっちゃうのかもしれない。まあ良く考えたら紫苑さんが手配した優秀な人材だもんね。


 珈琲を一口頂いて喉を潤し、例のエクセルファイルを立ち上げて準備完了です!


「それでは面接を開始しましょう」


 美人秘書さんがどこかへ電話を掛けたところ、すぐに面接が始まりました。


 エントリーナンバー1番、見るからに苦労していると思われる50代の男性です。美人秘書さんが業績がどうの、業務達成度がどうのという圧迫面接を行っています。その隙にこっそりと鑑定のお仕事です。


 神様神様、この人のやましい事や不正、会社に悪影響がある事をやっていないか教えてください~。




新庄世夫しんじょうときお

 開発システム部の部長を務める独身さんです。見た目は50代後半だけど、45歳の働き者です。

 入社以来ずっとシステム開発を行っており、その腕はスペシャリストです。この人が居ないと継続して事業は成り立たないでしょう。

 部下からの信頼も厚く充実しているように見えますが、実はストレスが限界突破しそうです。

 ストレス解消に、週末は風俗店に通っています。褐色系ギャルのミウちゃんがお気に入りです。ミウちゃんの大きなお胸に挟まれる事で、アレと一緒にストレスも出て行きます!

 会社への貢献度も高く、もう少し労わってあげましょう!




「……」


 50代の男性かと思ったらもっと若かった。すごく苦労しているんだね……。これだけ大きな会社の開発部部長というのは、相当なストレスが掛かるのだろう。そのストレスをギャルのミウちゃんに癒して貰っているのか。うん、良いと思います。褐色系のギャルも、良いよね♪


鑑定お仕事終わりました。問題なしでした』


『分かりました。すぐ終わらせます』


 チャットアプリで結果を伝え、5分もしないで面接が終わりました。この部長さんも何でこんな面接があったのか分からず、不満顔で出て行きました。きっとストレスが増してしまうのだろう。頼んだぞ、ミウちゃん。この部長さんを癒せるのは君しかいないのです!




   ◇




 黙々と鑑定を進めて来た面接も10人を超えました。今のところ特に問題のある人は居ませんね。苦労人な部長さんから始まり、どんどんと年齢が若くなってきましたが男性しか居ません。やっぱり社会で働く女性は少ないのだろうか……。


 そんな事を考えていたら、エントリーナンバー11番は女性でした。しかもモデルさんのようにスラッと背が高い綺麗な女性です。身長170cmくらいありそうで、茶髪の巻き毛が可愛く見えます。こんな人も面接するんだな。見惚れてる場合じゃないな、早くやろう。そしてこの美人さんを鑑定したところ、驚くべき結果が出てしまった。




畑香住はたかすみ

 入社5年目の若手社員の27歳独身です。社内には女性が少ない事もあり、チヤホヤされて喜んでます。

 しかし彼女は面食いだった。イケメンしか受け付けない女性だったのだ。そして、重度のホスト狂いだったのです。

 会社の給料のほとんどはホストに貢いでいるため、貯金も底をついてお金に困っています。

 ある時、ホストの知り合いという男性からお仕事を紹介されました。勤めている会社のデータをコッソリと持って行くだけで30万円もくれると言うのです。

 そして彼女はお金欲しさに実行してしまった。今から167日前、会社の同僚木下くんから勉強の為と嘘を吐き、開発データ『医療機関案件No126』をUSBメモリに入れて貰ったのだ。それをコッソリと持ち帰り、怪しい男に渡した。

 本当に30万円貰えたことに味を占めた彼女は、それからも実行してしまった。120日前には開発データ『鉄道案件No25』を同僚清水さんに貰い、30日前には開発データ『鉄道案件No26』を同僚市川さんに貰って持ち出したのである。

 同僚の皆は美人な彼女にお願いされて、断れなかったのである。

 渡した相手はライバル企業の人間です。ちなみに、明後日は同僚新井さんにデータを貰う予定ですよー!




「……ッ」


 思わず声が出そうになってしまった。こんなに綺麗な人がホストに貢いでいるのか。しかも会社のデータを盗んでライバル企業へ渡してるなんて、マズいじゃないか。急いで資料に記入して美人秘書さんへ連絡を入れました。チャットアプリに内容をコピペして伝えてみました。


『この人はやばいです。こんな事をしているそうです。内容は……』


『ありがとうございます。すぐに対応します』


 そしてホスト狂いさんとの面接は終わり、部屋には僕と美人秘書さんだけになった。どうやら成果が出たようで嬉しそうにしている。


「師匠のお陰で目星が付きました。彼女の証拠集めなどはこれからですが、具体的な情報がありましたので上手く行くと思います」


「お役に立てて良かったです。残りの9人も無関係か分かりませんし、やりましょうか」


 彼女が解雇されるのか他部署へ移動になるのかは分からないが、たぶん上手く行くのだろう。それに紫苑さんの事だ、ライバル企業をこのままにしておくとも思えない。偽データを渡したり、ウイルスを仕込んで渡すのかもしれない。今後に期待ですね!


 犯人っぽい人が見つかったから残り9人は問題ないと思うけど、お仕事なのでしっかりと鑑定しますよ!


 黙々と鑑定をこなし、最後のエントリーナンバー20番の人が入って来た。見たところ新入社員の若い男性のように見えるけど、少し暗いイメージがある。最後の一人だからササっと鑑定です。




磯山浩紀いそやまひろき

 入社4年目の働き者で26歳男性独身です。

 仕事は真面目ですが、私生活に問題ありです。

 実は人事総務課の人妻である森本幸子もりもとさちこさん38歳と絶賛不倫中です。

 新入社員歓迎会の夜に意気投合してホテルに行き、体の相性が最高だったため今でも繋がっています。主に下半身が!

 今のところ誰にもバレてないけど、そろそろ見つかりますね。




「……はぁ」


 思わずため息が出てしまった。こんな情報も出て来るのか……。そもそも絶賛不倫中ってなんですか? 不倫に絶賛なんてあるの? きっと鑑定しすぎて神様もお疲れなのだろう。僕のお仕事は情報を記入するだけです。そこから先は美人秘書さんに任せましょう……。


『問題ないと思いますが絶賛不倫中です……』


『師匠、お疲れですか?』


 僕も疲れてしまい、変な事を書いてしまった。20人なんて余裕じゃん! って思っていたけど、実際やってみるとすごく大変だった。これが働いてお金を貰うということか……。


 僕の合図により面接は終了し、珈琲を頂きながら資料をまとめました。資料はPCに保管し、PCごと美人秘書さんが持ち帰るそうです。……あ、美人秘書さんのページ消すの忘れてたけど大丈夫だよね!?


「これで今日のお仕事は終了です。お疲れ様でした」


「どうもありがとうございました。思ったよりも疲れました……」


「このまま帰宅して頂いて構いません。また来週もよろしくお願いします」


 どうやら僕はここで解放されるらしいです。早く帰って葉月ちゃんに会いたい……。


 そうして僕は、美人秘書さんを一人残し自宅へ急ぐのだった。




   ◇◇




 自宅の最寄り駅に着いたが、駅もイルミネーションがキラキラと輝き、そろそろクリスマスが近いことを教えてくれる。時刻は夜の8時を過ぎているため、ライトアップされて綺麗だ。クリスマスか……。あれ、当日のデートプランとか何も考えてないよ?


 クリスマスデートってどうしたら良いのかと考えていたら、自宅に着いてしまった。まあどこかのレストランを予約して、ホテルにでも泊まっちゃおうかな! 今度熟練者の二人修二と玲子さんに相談してみようと思います。


「ただいま~」


「おかえりなさい先輩」


 玄関ドアを開けたら葉月ちゃんが待ち構えていた。最初は愛する恋人が帰って来て嬉しいのかと思ったが、表情が硬い。何かあったのだろうか?


「先輩、早くリビングへ来てください。大事なお話があります。お父さんも帰って来て貰いました」


「……え? 分かりました」


 葉月ちゃんの大事な話って何だろう。しかも忙しいお義父さんに帰って来て貰う状況って何でしょうか。


 僕は一人、ビクビクしながらリビングへ向かうのだった……。あ、先に手洗いうがいをしてから向かおうと思います。

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