第33話 レベルアップですか?
僕の体が動かない。夢を見ているのだろうか?
左腕が柔らかい物に包まれている。気持ちが良い……。
僕の部屋で嗅いだことの無い、不思議な香りがする。何だろうこれは?
ふと目を開けると、いつもと同じ僕の部屋の天井があった。
窓から微かに差し込む光が部屋を照らす。
ふと横を見れば、幸せそうに寝息を立てる天使がいた。
そうだ、僕は葉月ちゃんと結ばれたのだ。昨日の事は鮮明に思い出せるけど、言語化出来ない。でも、すごく幸せだった。
僕の中で葉月ちゃんが好きだという気持ちが、限界突破してしまったのだろう。大好きな子の笑顔を守りたい、ずっと一緒に居たいという気持ちが、今まで以上に強く思えるようになった。
「んぅ……」
しばらく可愛い彼女の寝顔を眺めていたら、寝ぼけ眼の彼女と視線が重なった。
「おはよう葉月ちゃん」
「……せんぱぃ? ちゅーしてくださぃ」
この可愛い子は寝ぼけているのだろうか。いつも目覚ましボイスで起こして貰っているし、今日は僕がキスで起こしてあげよう。
ちょっと窮屈だけど、頑張って顔を横に向け葉月ちゃんの小さなお口にキスをした。まさにおはようの挨拶のキスだ。
「……先輩、夢じゃないんですね。私たち、一つになれましたね」
「うん、夢じゃないよ。葉月ちゃんの可愛い姿もしっかりと覚えてるよ。体は大丈夫?」
葉月ちゃんが可愛すぎてエロ過ぎて、何度も暴走しそうになった。でも、修二の話を聞いていたからか、暴走せずに優しくする事が出来たと思う。
「ふふ……まだちょっと違和感がありますけど、幸せです」
「……」
満面の笑みを浮かべる葉月ちゃんを見て、僕も幸せな気持ちになった。初めてだったけど、うまく出来たのかもしれない。嬉しくて、またキスをしてしまった。
「先輩、今何時ですか?」
この部屋には時計がないので、スマホで時間を確認する。スマホの液晶画面を見ると11時10分を示していた。
「もう11時を過ぎてるね……」
僕たちはどれくらい愛し合っていたのだろうか。時間を忘れて愛し合っていたようだ。
「じゃあシャワー浴びてご飯食べに行きましょうか」
葉月ちゃんがベッドから起き上がり、生まれたままの姿を見せた。天使かと思った。そして、僕の下半身が元気になってしまったのでした。
「ふふ、先輩も一緒に行きますよ。
「……うん」
僕は葉月ちゃんに手を引かれ、狭いバスルームへと入って行ったのであった。
◇
駅の周辺にあるファミリーレストランへ着いたのは、午後の2時を過ぎていた。結局あの後も二人の気持ちが昂ってしまい、止まらなくなってしまった。
そしてまたシャワーを浴び、二人で部屋の掃除をした。昨晩の生々しさを目の当たりにして、ちょっと興奮してしまったのは内緒である。
「さすがにお腹が空きましたね。先輩は何を食べますか?」
昨晩、葉月ちゃんのお母さん特性のビーフシチューを食べてから何も口にしていなかった。なのでボリュームのあるものが食べたいと思った。
「このハンバーグセットにしようかな。チーズ乗ってやつ」
「いいですね。じゃあ私は和風ハンバーグにします。後で交換しましょうね」
葉月ちゃんは大根おろしとポン酢が掛かったさっぱりとした和風ハンバーグです。そっちも食べたいと思ったから楽しみだ。
注文が完了し料理が来るまでの間に、僕はドリンクバーで珈琲を、葉月ちゃんにはコーラを取りに行く。何やら葉月ちゃんはスマホを一生懸命にシュシュシュッとフリック入力している。誰かとチャットをしているようだ。
ちなみに、葉月ちゃんはメイド服じゃありません。メイド服は汚れてしまっているので、僕の部屋で洗濯中です。なので、ブラウスにロングスカートという何時ものオシャレ装備です。ボストンバッグに入れて持って来ていたようです。
テーブルに戻って来たけど、まだ葉月ちゃんはシュシュシュッとフリック入力している。
「親後さんから連絡来てた? 大丈夫?」
僕は珈琲を飲みながら、軽い気持ちで聞いてみた。
「いま玲子お姉さまに近況報告をしているんです。さっきはシオンちゃんと連絡を取ってました。みんな上手く行ったのか気になっているようで、報告してます」
「ゴホッゴホッ……そんな事を連絡しているのか……」
突然過ぎて、珈琲が変なところに入ってしまった。やっぱり女子の事はイマイチ分からないね。世の女性達はそんな生々しい会話をしているのだろうか。玲子さんだけでなく紫苑さんにまで筒抜けとか、すごく恥ずかしいです。
「安心して下さい。気持ち良くて最高の初体験でしたって言ってますので」
「……うん。ありがとう」
葉月ちゃんは全く恥ずかしそうにせず、聞いてるこっちが顔を赤くしてしまった。でも葉月ちゃんの口から最高の初体験でしたって言葉が聞けて、嬉しかった。
しばらくすると料理が運ばれ、二人で交換しながら楽しんだ。やっぱり好きな人と食べる料理は美味しいね。
今日の夕飯とかどうしようと考えていたら、葉月ちゃんから提案があった。
「そうだ先輩、今日の夕飯を一緒に食べませんか? この前の賭けの報酬です」
「……うん、全然大丈夫だよ。どこか行きたいお店とかあるの?」
「ふふ……とっておきの場所があるんです。お楽しみですよ♪」
どこだろう。後でお金を降ろしてこようかな。
「じゃあ先輩、お昼食べ終わったら一度家に戻りますので、夜の7時に駅前に集合でいいですか?」
「うん、大丈夫」
「その時は、申し訳ないですけど先輩の家にあるバッグとか持って来て下さい」
それくらい全然大丈夫だ。僕は首を縦に振って答えた。夜の7時まで時間があるし、部屋の片付けとかやろうかな。
そして食べ終わった後、ファミレスで葉月ちゃんと別れて別行動になった。
◇◇
ポロアパートに着いたが、まだ昨晩の匂いが残っていた。寒いけど窓を開けて換気をして掃除機を掛ける。
洗濯は終わっていたので、全部乾燥機にかけておこう。
思い返してみれば、幸せな時間だった。こんな時間がずっと続けばいいなって、心から思った。
そうだ、童貞も卒業した事だし、自分を鑑定してみようかな? ちょっとだけ昨日のことが脳裏にチラついたが、気にせず鑑定だ!
【
東京の国立大学に通う2年生。
ある晴れた土曜日、彼は恋人が来るのを待っていた。
これからこの小さなボロアパートで、初めて彼女と結ばれるのだ。
しばらくした後、彼の部屋に天使が現れた。今まで見た彼女とは違う、艶やかな色気を纏った彼女だ。
色気のあるメイド服を着た彼女からは、『他のメイドは殺せ』という雰囲気を感じる。きっと彼女は、メイドに対して何か思うところがあるのだろう。
狭い密室でイチャイチャする二人。
緊張する彼を優しく導き、暴走しないようにコントロールする彼女、雰囲気は最高だ。
色々と我慢の限界を迎えそうになった彼だが、グッと堪えて彼女から女性の全てを教わった。彼女の体を使って、じっくりと具体的に。
興奮が抑えきれなくなった彼が暴走しそうになったが、彼女は優しく諭し、今度は男性の体を調べ始めた。
彼の迸る情熱を、彼女は手や口、胸を使って優しく受け止めた。
少し落ち着きを取り戻した彼は、彼女とのスキンシップを楽しんだ。
普段絶対に出来ない事を、彼女にしてもらったのだ。スカートの中に顔を突っ込んだりね。
美味しく夕飯を食べ、二人でイチャイチャしながらお風呂に入り、そして遂に一つになった。
時間を掛けてたくさんイチャイチャしたのが良かったのだろう。初めてなのにすんなりと重なることが出来た。
二人は見つめ合い、唇を重ね、抱き合いながら一晩を過ごした。
きっと彼女も幸せを感じていただろう。
童貞卒業、おめでとうございます~!!
※今日の運勢※
幸せを感じる日です。そして、責任を持って彼女を幸せにしてあげましょう!!
めっちゃ長い。やっぱりレベルアップしている気がする……。あと神様から童貞卒業を祝福されてしまった。
運勢も当たってるね。僕はすごく幸せを感じているし、葉月ちゃんを幸せにしてあげたいと思っています。
よし、気合を入れて掃除して葉月ちゃんと美味しい夕食を食べに行こう!
乾燥機の終わった音が鳴り、葉月ちゃんの物を畳んでバッグに詰める。昨日履いていたセクシーな下着とか、すごく興奮するね!
大量に余った避妊具とかは、とりあえず僕の部屋に仕舞っておこうと思います……。
待ち合わせの時間にはちょっと早いけど、待たせる訳にもいかないし、そろそろ出発しようかな。
葉月ちゃんはどんなレストランを選んだのだろうか。すごく楽しみだ。
◇◇◇
時刻は18時45分、駅前のロータリーに到着したが、葉月ちゃんの姿は見つからない。とりあえずチャットアプリで到着した事を伝えたところ、すぐに着くと連絡があった。
もう11月も終わり、12月になってしまう。12月と言えばクリスマスだ。恋人に贈るクリスマスプレゼントは何を贈ったら良いのだろう、一向に決まらない。そろそろ未来の僕に任せるなんて事を言っていられなくなってきたぞ。真剣に考えなければ……。
指輪やネックレスなどのアクセサリーが良いのだろうかと悩んでいたら、葉月ちゃんが到着した。
「おまたせしました、先輩」
「全然待ってないから大丈夫だよ」
ありきたりな恋人同士の会話が、ちょっと嬉しい。自然と腕を組み、葉月ちゃんにリードされながら歩き出す。
これからどんな場所へ行くのだろう、すごくワクワクする。
「ここから近いのかな?」
「ふふ……そんな遠くありませんよ。でもまだ内緒です」
てっきり駅に行って電車に乗るのかと思っていたら、駅とは逆方向へ歩いて行った。なるほど、この街にも隠れた名店があるんだな。そりゃ大都会東京だもんね。僕の知らないお店なんて、いっぱいあるよね。
見慣れた道を歩きしばらくすると、葉月ちゃんのマンションが見えて来た。もしかして忘れ物でもしたのだろうか? あ、分かったぞ。このボストンバッグを置きに行くのか。
「ここって葉月ちゃんのお家だよね……?」
「ふふふ、荷物とか邪魔ですもんね」
やっぱりそうだ。さすがにメイド服持って高級レストランに行くには不恰好だよね。今日の服装は大丈夫だろうか、修二の勇者装備だから大丈夫と信じよう……。
1階のロビーで荷物を渡して待っていようかと思ったら、そのまま葉月ちゃんにエレベーターの中に連れ込まれてしまった。腕を組まれているため、逃げられなかったのである。
「ぼ、僕も行くの?」
「そうですよー。大丈夫です、安心して下さい」
な、何を安心すれば良いんだろうか。エレベーターが止まった瞬間、腕を組む葉月ちゃんの力が増した気がした。絶対に逃がさないぞという強い意志を感じる。まさかこれは……。
一歩一歩足が進むにつれて僕の心拍数も上がっていく。そして、とある玄関ドアの前に止まった瞬間、僕は確信してしまった。
……葉月ちゃんが地獄の門を開けてしまったのだ。
「ただいま~! 先輩連れて来たよ~」
その声を聞いて、やっぱりハメられたと思った。確かに葉月ちゃんは夕食を一緒に食べようと言ったけれど、外食とは一言も言っていなかったのを思い出した……。
僕はこれから、どうなってしまうのだろうか……?
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