第32話 世界の強制力ですか?


 ドタバタとした週末が終わり、僕は平和な日々を過ごせていた。


 先週は楓さんを助けに千葉まで行き、翌日は東京で飲み会を行い、その翌日にまた千葉でラスボスと面会という、超ハードスケジュールだった。


 さすがに立て続けにビッグイベントがあると、何もない平和な一日の有難みを感じてしまう。


 最近は千葉に居る兄貴から連絡が来ることが増えた。内容はまちまちだが、天王寺家の仕来しきたりを学ぶお勉強が大変というのが2割だった。天王寺家の仕来しきたりの実技試験で失敗してしまうと、楓さんによる厳しい調教おしおきが待っているらしい。


 だがしかし、厳しい調教おしおきの後には楓さんが好きで好きで堪らなくなるらしいのです。どんな厳しい調教おしおきをしているのか、気になります!!


 何故そんな事が分かるのかというと、残りの8割が楓さん大好きっていう惚気話だからである。






 兄貴とは別のルートから仕入れた情報によると、兄貴の天王寺家での一日はこんな感じらしい。


 朝5時に起床し、メイド服に着替える。他のお手伝いさんと一緒に軽い朝食を食べ、ご主人様方が起きて来る前に朝食の準備をする。ちなみに、他のお手伝いさんは私服にエプロンで、メイド服を着るのは兄貴だけだそうです。


 兄貴の場合、楓さんを起こしに行くという特別業務がある。楓さんの部屋に入り、優しく起こしてからキスをして、身の回りの世話をするのだ。


 そこで楓さんに襲われないようにしないとメイド長の恵子さんに怒られてしまうらしいです。一度メイド姿の兄貴に興奮した楓さんに襲われて、朝から大変な事になったそうです。


 ちなみに、恵子さんに妊娠の兆候があったとか。おめでとうございます!


 やっぱり人物鑑定のレベルが上がってるような気がする……。


 そんな感じで朝の支度が終わり朝食を食べてもらい、お見送りをするそうです。いってらっしゃいのキスをしてお見送りですが、楓さんがなかなか離してくれないって言ってました。羨ましい……。


 その後、他のお手伝いさんと一緒にお屋敷のお掃除をしたり、恵子さんに天王寺家の仕来しきたりを教えて貰ったりするらしい。


 そしてお昼ご飯を食べた後から兄貴の自由時間になり、趣味のコスプレ衣装を作ったり、ダラダラして楓さんが帰ってくるのを待っているようです。


 楓さんから帰宅するという連絡を受けたら、すぐに門へ走りお出迎えの準備をします。ここで少しでも遅れると厳しい調教おしおきが待っているそうです……。お出迎えも楓さんの匙加減で簡単に厳しい調教おしおきになるって言ってました。


 それから夕飯まで楓さんとコスプレ撮影会を行ったり、勉強会を行ったりと恋人同士で楽しんでいるそうです。


 そして一緒に夕飯を食べて、一緒にお風呂に入って、イチャイチャして寝るそうです……。


 


 この情報は全て紫苑さんから貰いました。というより、紫苑さんから毎日連絡が来ます。次はいつ遊びに来るのかという催促が恐ろしいです。いや、僕より婿になる修二を呼んであげて下さい。


 まぁ紫苑さんからしたら、僕の鑑定でやって貰いたい事がたくさんあるそうです。このまま行くと、紫苑さんの会社に務める事になるかもしれません……。


 でもまあ、紫苑さんなら悪い事もないだろうし、何より玲子さんお母さんだ。僕や葉月ちゃんに良くしてくれた。それに兄貴を引き取ってくれた恩もある。出来る事ならお手伝いをしよう。






 さて、色々と現実逃避をしていたけど、そろそろ逃げるのをやめようと思う。


 あと数分もすれば、葉月ちゃんがやって来る。つまり今日は土曜日、葉月ちゃん曰く土曜日はエッチの日である。


 この一週間、ずっとソワソワしていた。童貞の僕には荷が重すぎる。内容が内容だけに、修二や玲子さんに聞くのもどうかと思った。


 とりあえずドラッグストアへ行ってティッシュ類や避妊具を買ってみた。ちょっと練習で避妊具を付けて見たけど、違和感が凄かった。


 部屋の掃除を入念に行い、ベッドのシーツを新品に交換したり部屋の換気もしっかりと行った。そしてお風呂やトイレ、洗面所といったありとあらゆる場所をピカピカに磨き上げました。


 これ、もしかしたら過去最高に掃除を頑張ったかもしれない。実家の大掃除だってここまで頑張らなかったもん。


 さっきシャワーも浴びて入念に歯磨きもした。ネットで調べたありとあらゆる事をやったはずだ。もう後は自然に任せるしかないという所まで来てしまった。


 ちなみに、今日の運勢はこんな感じです。




中野薫なかのかおる


※今日の運勢※

 今日は彼女と結ばれる日、一生の思い出を彼女と作ろう♪

 あと、性欲に負けて暴走した場合、彼女が悲しみます。独り善がりはダメだぞ!

 いっぱい優しくしようね♪




 有難いお言葉を頂きました。暴走してはいけない。優しくすることを誓います!!





 よく考えたら部屋でエッチするために女性を待ってるって、デリバリーなヘルスのサービスを利用してるみたいだなって想像していたら、部屋にチャイムの音が響き渡った……。ごめん葉月ちゃん、変な想像してしまいました。


 はやる気持ちを抑え、玄関の扉を開けたら天使が居た。


「こんにちは先輩。遅くなっちゃいました」


 いつもより気合を入れてお化粧をしているのだろうか。艶やかさが際立つ大人なメイクをしている。そして何より、いつも背中に流している綺麗な黒髪は、頭の後ろにバレッタでうまくまとめ上げられており、いつも見えない首回りが魅力的に見えた。


 服装は足元まであるロングコートのため見えないが、僕の彼女はこんなにも可愛いくて美しいのかと放心してしまった。


「……先輩、大丈夫ですか?」


「ご、ごめん葉月ちゃん。いらっしゃい。葉月ちゃんが綺麗すぎて心臓が止まってました」


「もう先輩ったら、そんな褒めてもキスしかしてあげませんよ」


 そして僕は、葉月ちゃんにそっと頭を抱きしめられ、濃厚なキスをされてしまった。いつもより甘い匂いの葉月ちゃんは、可愛くて、綺麗で、何よりも艶やかだった。


 葉月ちゃんが家に入ったことで玄関ドアが閉まる瞬間、道路を歩いていた近所のおばちゃんと目が合ってしまった。きっと真っ昼間からいかがわしいサービスを利用する男と認識されてしまったに違いない……。


「んぅ……先輩、この日をずっと待ってたんですよ。先輩大好きです」


「僕も葉月ちゃんが大好きです」


 そしてまたキスをした。葉月ちゃんとキスをすると、気持ちが繋がる気がした。葉月ちゃんから好きって気持ちが流れ込んでくる。僕も負けないように、好きって伝えるんだ。


「ふふ、時間はたっぷりとありますから、お部屋に入ってもいいですか?」


「ごめん葉月ちゃんが可愛くて止まらなかった。どうぞ上がってください」


 そうだった。まだ玄関でした。すぐに葉月ちゃんを部屋に案内した。案内するほど広い家じゃないから、玄関抜けたらすぐに部屋なんだけどね!!


 葉月ちゃんは少し大きなボストンバッグを持っており、何か荷物を持って来たようだ。


「わぁ、お部屋すごく綺麗にしてるんですね!」


「初めて彼女をお迎えするって事で、気合を入れてお掃除しました」


「ふふ、ありがとうございます先輩」


 そして葉月ちゃんがロングコートを脱いだ瞬間、僕の心臓が本当に止まりかけた。


 メイド服だった。ちょっとエッチなメイド服だった。白と黒を基調としたフリルの多いゴスロリのようなメイド服は、胸元が大きく開いていて葉月ちゃんの大きなお胸が半分見えてしまっている。


 更にミニスカートからスラっと伸びる足には黒いニーソックスが装着されており、ミニスカートとニーソックスの間に見える葉月ちゃんの白い肌が蠱惑的である。あぁ……あの隙間に入り込みたい。


 どれくらいスカートを凝視していたのだろうか。葉月ちゃんから声が掛かるまで、ずっと凝視していた。


「……先輩って、やっぱりエッチなメイドさんが大好きなんですね♡」


「ご、ごめん……」


 やばい、こんな凝視してたら嫌われてしまう。でも今日の葉月ちゃんはいつも以上に魅力的でクラクラしてしまう。


「ふふ……先輩ならいくらでも見て貰っていいですよ? 今日は午前中、先輩に紹介して貰った美容室に行ってきたんです。店長さんが変な人でしたけど、どうですか綺麗になってますか?」


「もちろんだよ! 葉月ちゃんが綺麗すぎて、僕はもうどうにかなっちゃいそうです」


 先日、葉月ちゃんから連絡があり、カリスマ美容師を紹介して欲しいと言われた。店長さんに連絡してみたところ、快く受けてくれた。なので最高に可愛くして欲しいとお願いしておきました。


 さすがカリスマ美容師さん、葉月ちゃんは一見幼くも見え、大人の色気を醸し出す美女に大変身しております。もう葉月ちゃんが最強です。


「今日はお泊りですから、一日中私がご奉仕してあげますね先輩」


「え……? お泊り? 大丈夫なの?」


 どういう事だ? 聞いてる限りだと葉月ちゃんのご両親は厳しいお方に思える。そのご両親がお泊りの許可を出したのか!?


「両親から泊ってこいって送り出されました。月曜日辺りから急に両親の態度がおかしくなって、早く結婚しろって急かされるんですよ。ふふ、何があったんでしょうね?」


「……」


 どういう事だ? 大事な一人娘なのに付き合って1ヶ月で早く結婚しろと急かされるだと!? 葉月ちゃんまだ18歳だよね。そんな急ぐ年齢じゃないだろうし、一体何があったんだ!?


「え、えっと、結婚はまだ待って欲しいかな。ほら、僕も稼ぎがないし、葉月ちゃんを養うなんて到底無理だからさ……」


「でもうちの親が援助してくれるって言ってましたよ? 結婚しちゃいますか?」


 援助してくれるってどういう事だ? 僕の知らぬ間にどんどんと外堀が埋められている気がする。なぜだろう、一瞬紫苑さんの面影が脳裏にチラついた。


「あ、えっと、その、……援助って言われても、急になんていうか……」


「ふふ、今日はこれくらいで許してあげますね。そういう事なので、今日はお泊りです。よろしくおねがいしますね、先輩」


「あ、はい。狭いところですが……」


 どうやらお泊りは確定してしまったようです。こんな狭い部屋でどうやって寝ようかとか、色々と考えてしまう。まあ最悪、僕が床で寝ればいいか。


 葉月ちゃんはボストンバッグをゴソゴソと漁り、大きなタッパーを取り出した。


「これ、うちのお母さん特製のビーフシチューです。パンも買って来たので夕飯に食べましょう」


「わぁ美味しそう。わざわざありがとう葉月ちゃん」


 大きなタッパーにはゴロゴロと大きなお肉が詰まったボリューム満点のビーフシチューが見えます。夕飯になるまで冷蔵庫で保管しておこう。


「あとこれを持ってきました」


「……」


 葉月ちゃんがテーブルの上に、たくさんの避妊具とシーツを無造作に置きました。しかも避妊具は色々なサイズがあった。


 僕は呆然としてしまい、言葉が出て来なかった。


「昨日お母さんと一緒にドラッグストアで買ってきました。先輩のサイズが分からなかったので、全種類買ってきちゃいました! あ、言っておきますけどサイズを気にするような女じゃありませんので私。それにしっかりとしたサイズを選ばないと大変な事になるそうなので、後で一緒にサイズ測定しましょうね」


「……」


 葉月ちゃんはお母さんと一緒に避妊具を買いに行ったのか……。葉月ちゃんの行動力には驚かされっぱなしだ。それより彼女と一緒にアレのサイズ測定とか、エロすぎないか?


 そしてまたゴソゴソと漁り、大量のローションを取り出した


「あとこれです。私も初めてですし、玲子お姉さまに聞いたところ、有った方が良いって聞きました」


「えっ、玲子さんに聞いたの?」


「はい。玲子お姉さまに修二さんとの初体験の時の事を聞きました。何でも修二さんが暴走してしまい、玲子お姉さまは痛いだけだったそうです。例えば……R18制限って感じらしいですよ。先輩は優しくしてくださいね?」


「も、もちろんです!」


 驚愕の事実発覚。親友二人の生々しい初体験レポートを彼女の口から聞いてしまった。修二は暴走してハッスルしてしまったのか……。僕は気を付けよう。


「じゃあ先輩、今日は先輩の大好きなメイドさんになっているので、エッチなイタズラをしてもいいですよ? でもまだ最後までやりませんから、それだけは注意して下さいね。最後までやるのは夕飯を食べてからです。修二さんみたいに暴走しないって約束、守れますか?」


「え、エッチなイタズラ!? は、葉月ちゃんを大事にするって誓います!!」


 メイドさんにエッチなイタズラをしても良いとか、神か!?


「じゃあ先輩、キッチンをお借りしますね。紅茶を入れて来ますので、好きにして下さい。先輩の大好きなスカートだって覗いてもいいんですよ♡」


「エッッッッッッ!!」


 そして葉月ちゃんは立ち上がり、わざとスカートを捲って黒いスケスケの下着を見せつけてキッチンに行ってしまいました。


 僕はこれからどうしたら良いのだろうか? 心臓がドキドキして大変だ。股間も大変だ。でも暴走してはいけない。修二の二の舞になってはならないのだ!!


 コッソリとキッチンに近づき、後ろ姿の葉月ちゃんを眺める。いつもと違う首筋が妙にエロい。


 葉月ちゃんの後ろから優しく抱きしめ、髪に顔をうずめた。あぁ、なんていい匂いなのだろうか。これだけで昇天してしまいそうだ。


「もう、ご主人様が抱き着いてたらお料理が出来ないですよ! あん、ちょっと胸を触るのは困ります~」


 僕は堪らず葉月ちゃんの胸を触ってしまった。ブラがあるけど、この柔らかさは感動だ……。


 しばらくすると、葉月ちゃんからストップが掛かった。さすがにやりすぎてしまったかもしれない。


「だ、ダメですよご主人様、私が我慢出来なくなっちゃいます」


「……くっ」


 ダメだ、僕は修二とは違う、修二とは違うんだ。ここで襲い掛かったら修二になってしまう。修二じゃダメだ……。ふぅ、何とか自制出来た。危ない危ない。


 何とかテーブルに戻り、落ち着くことが出来た。でもここからが本番だった……。


「じゃあご主人様、今日はこれから女の子の体がどうなっているのか、一緒にお勉強して行きましょうね。大丈夫です、私がしっかりと教えてあげますからね♡」


「……」


 ここからの記憶は鮮明に残っているが、言葉にする事が出来ない。何千、何万という言葉で表現しても、消えてしまうのだ。何か世界のR18強制力が働いているとしか思えない。


 僕は一人、快楽の海に沈んでいった。

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