第16話 どんなジャンルですか?

『…先輩? 朝ですよ~。起きてくださ~い。早く起きないと遅刻しちゃいますよ~』


 遠くから天使の声が聞こえる。優しい声で、全身が包まれているようだ。ああ、幸せが溢れて来る……。


 Zzzz


 Zzzz




『………………起きてくれないと…………キス……しちゃいますからね……』




「……おねがいします!!!」


 一瞬で目が覚めた。何か勢いで変な事を言ってしまったが、ドキドキしている。耳元にスマホを置いているため、あの甘い声が脳を直接犯してくるのだ。


 葉月ちゃんボイスの目覚ましを使い始めて早2日、無機質なアラームとは違った意味でドキッとさせられます。


 前半の葉月ちゃんボイスは癒し効果がすごくて、そのまま寝てしまう危険なものだ。でも時間差でやってくる後半のキス発言で一気に覚醒しちゃう! ああ、葉月ちゃんに会いたいです。


「はぁ……バイト行く準備するか……」


 今日は午前中バイトに行って、午後から勇者二人に装備洋服スキル知恵を借りる事になっている。明日の魔王葉月ちゃん攻略デートのために!


 それにしても魔王を倒しに行くのに勇者から装備借りて行くって情けないよね。でも許してほしい、根本的にお金が無いのである。


 学費と家賃は親が出してくれているが、その他の生活費は自分で稼いで生活しなければならない。


 喫茶店でのアルバイトの稼ぎでは、正直なところ生活するだけで精一杯で、ましてや勇者装備デート服なんてどう頑張っても買えないのである。


 もし葉月ちゃんと恋人同士になれたとして、デートしたりプレゼントを贈ったり、何かとお金が必要になると思う。


 だってさ、女子高生にデートでお金払ってもらう大学生とか、有り得ないよね?


 はぁ……もっとバイトの時間を増やしてもらうか、それとも親に泣きつくか、いや、親に泣きつくのは無いな。自分で頑張ろう。


 もっと高給な家庭教師でもやれば良かったかな……。でも喫茶店はとてもホワイトな職場だし、そっちを選んでいたら葉月ちゃんと出会えなかっただろう。


 とりあえず今はマスターにシフト増やして貰えるように聞いてみよう!


 さて、今日も占いをやろう。昨日感じたように、感謝を込めて……。


「占いの神様、いつもお導き下さいましてありがとうございます。どうか今日も宜しくお願い致します。あと良かったらお金が稼げるアドバイスをお願いします!」


 そうして僕は、鏡に映った自分を見つめながら神に祈った。




【中野薫】


※今日の運勢※

 良い心掛けです。これからも励みなさい。

 今日のあなたは一切の否定を捨て、すべて相手に委ねなさい。つまり、答えは『はい』だけよ?

 あと、金運上昇にはレベルが足りません。




「ええええぇぇぇ??」


 あるの? レベル?


 神様、今のレベルや次のレベルまでの経験値とか、そう言った情報は無いのでしょうか……?


 レベルが上がるという事は、考えられるのは経験値を貯めるという事だと思う。ゲームとかそうだしね。


 まず経験値とは何か? 経験の値、すなわち、新しい経験をした時に得られる何らかの数値だと思う。


 僕の場合は鑑定能力なので、新しい経験というと、まだ鑑定していない物や人という事だろうか?


 基本的にこの能力は一日5回くらいで頭痛や眩暈がしてくる。それ以上の行使は命に関わる気がする。なので、ほとんどは一日に自分と修二と玲子さんを占っておしまいだ。


 もしこの経験値というのが同一人物や同じ物を何度も鑑定しても得られないとしたら、今後は積極的に能力の行使を行う必要があるのだろうか?


 考えたところで答えは無いし、今後は少しでも多く鑑定してみようかな。そもそもレベルアップしたとき、教えてくれるのかな? 謎だらけだ。


「答えは『はい』だけって、何があるんだ……」


 良くわからないけどそろそろバイトに行く時間だ。今日は土曜日のため、朝からお客さんが沢山来るはずだ。忙しそうだけど、頑張ろう!




   ◇




 朝8時のオープンから、店内は7割ほどの席が埋まってしまった。今朝のホールのシフトは、僕と加藤さんとギャルBこと綾香さんである。


 加藤さんは言わずもがな、熟練のスペシャリストである。そして綾香さんも頭の良い子でテキパキとお仕事をしてくれるギャルなのでした。これなら戦える!


「中野くん、3番テーブルにオーダーお願いね♪」


「はい、わかりました!」


「中野パイセン! 7番テーブル呼ばれてるからよろー!」


「はい、わかりました!」


「中野くん、ちょっとレジお願いね♪」


「はい、わかりました!」


「パイセン! 5番と9番が空いたから片付けよろー!」


「はい、わかりました!!」


 なんか、いつも以上に使われている気がする。気のせいかな?


 だがしかし、今日の僕は『はい』しか言ってはならないのである。これも神様のお導き……。でも加藤さんは年上の優しいお姉さんだし、命令されても嬉しいかもしれない。ギャルBの綾香さんは……、見た目はすごい綺麗なんだけど、言動との差が激しいです。


 今朝のレベルの件もあるし、ちょっと鑑定してみようかな? 鑑定するとしたら加藤さんと綾香さんのどっちにしようかな。やっぱり最初は年上の優しいお姉さんだよね! 加藤さん、君に決めた!!




加藤紅葉かとうもみじ


 22歳バイトリーダー独身彼氏なし。

 身長160cmくらいでボブカットが似合う優しいお姉さん。でも何故か彼氏なし。

 豊満な体を武器に、年下の男の子を甘やかしてドロドロにしてしまう年下キラー! でも何故か彼氏なし。

 彼女の毒牙にやられた純真な男の子は、性癖が歪んでしまうという怖い人です。でも何故か彼氏なし。

 気を付けて、彼女の食欲せいよくを満たすには、体1個じゃ足りないのだから……。


※今日の運勢※

 気になるあの子と仲良くなるチャンス!? いっぱいお願いしてみよう♪




「ひぃ!?」


「どうしたの中野くん? 大丈夫?」


「え、あ、ちょっと寒気がしただけです。すいませんでした」


「熱でもあるのかな? あんまり無理しちゃダメよ♪」


「あ、ありがとうございます……」


 加藤さんの闇を垣間見てしまった。やっぱり勝手に鑑定なんてするものじゃないな……。


 確かに加藤さんは頼れるお姉さんだし、魅力的だと思う。でも、年上の女性に甘やかされたいと思う自分ではあるが、加藤さんは何かが違うと感じていたのだ。


 その理由がやっと理解出来ました。でも何で彼氏なしなんだろう? それに気になるあの子って誰だろう? これは気にしたらダメなやつな気がするぞ……。


 ギャルBの綾香さんは……今度でいいや。スマン、もうライフはゼロです。





 その後も何故か沢山の頼まれ事を『はい』で頑張り、やっとお仕事終了です。


「おつかれさまでした! お先に失礼します」


「中野くんおつかれさま♪」


「パイセンおつー!」


 マスターのご厚意で賄いを頂き、逃げるように店を出た。ちょっと加藤さんに対して苦手意識が出来たかもしれない。


 もうすぐ13時だ、急いで向かおう。




   ◇◇




 バイト先から駅に向かい、駅の反対側へ抜けて更に歩くこと10分。聞いていたデカいタワーマンションが現れた。


 え? ホントにここで合ってるの? だって30階くらいある豪華なマンションだよ? 近くに他のタワーマンションもあるが、どこもデカすぎてビックリしてます。


 とりあえず目的のマンションに入ってみたが、豪華なホテルのロビーのような感じで、別世界でした。


 入った瞬間、入口の両隣に警備員さんが居て『おかしな真似をしてみろ、ぶっ殺すぞ』って雰囲気を感じ取りました。


 やばい、部屋番号は聞いているけど、どうやって行ったらいいのだろう? あまりキョロキョロしていると、警備員さんに締め出されちゃうかもしれない。


 よく見ると、ロビーの奥にホテルの受付のような場所を発見した!


「いらっしゃいませ。ご用件をお伺い致します」


 さすが高級タワーマンションだ。眼鏡の似合う綺麗なお姉さんがお出迎えしてくれました。加藤さんとは違った、安心感のあるお姉さんでした。


「えっと、1006号室の千葉くんと天王寺さんに会いに来ました。どうしたら良いでしょうか?」


「かしこまりました。千葉様に確認をさせて頂きますので、お名前と身分証明書をご提示頂けますでしょうか?」


 ええ!? まさか身元のチェックまであるのか……。さすが高級タワーマンション、レベルが違うな。


 とりあえず学生証でいいかな?


「中野薫と申します。こちらの学生証で良いですか?」


「拝見致します……はい、問題ございません。すぐに確認致しますので、ソファーにお座りになってお待ち下さい」


 はぁ、すごい緊張した。そもそも住む世界が違うなって感じました。


 片やボロいワンルームの狭い部屋、片や高級タワーマンションの広い豪華な部屋、なんだろう自分がちっぽけな存在に感じてしまう。


 確か玲子さんの家はお金持ちらしい。もしかしたら修二もお金持ちの家の子なのかもしれない。そんな二人と一緒にいる自分は、果たしてこの場に居て良い存在なのだろうか……?


 マイナス思考に陥っていたら、受付のお姉さんがやって来た。


「おまたせ致しました。確認が取れましたのでご案内致します」


 そう言って、大きなエレベーターまで案内してくれた。


「エレベーターの中にある読み取り機に、このカードをかざしてお使い下さい。では、どうぞいってらっしゃいませ」


 エレベーターの中に入りカードを読み取り機にかざし、10階を選択した。受付のお姉さんは、エレベーターのドアが閉まるまでお辞儀をしてくれていた。こんなちっぽけな自分に対しても仕事を全うする姿に感動を覚えました!


 10階にエレベーターが止まり、外に出てみる。中は高そうな絨毯が敷き詰められ、まさに高級ホテルのような感じだ。高級ホテルなんて行ったことないから想像だけど……。


 しばらく進むと目的地の1006号室があったのでチャイムを押した。


「おー、開いてるから入って来てくれ~」


 むむ? 相手を確認しないで開けるなんて不用心な、って思ったけど、これだけセキュリティがしっかりしてれば玄関ドアにカメラとかいっぱい付いてるんだろうな……。


「おじゃましま~す」


 そうして部屋に入ると、うちのワンルームの部屋くらいありそうな玄関でした。おかしくね??


 進んでリビングっぽいところに入ると、修二が居た。でもちょっとおかしい。すごいやつれてる。何があったのだろうか?


「すごい家だね。ビックリしちゃった。ここって玲子さんが借りてるの?」


「ここは俺の親父の持ち家なんだ。大学行くのに使わせてもらってんの」


 まさかの新事実!! 修二は玲子さんのヒモだと思ってたのに……。


「……ヒモじゃなかったのか……」


「おい! 酷すぎだろ~」


 動揺して本音が出てしまいました。修二は笑って許してくれた。やっぱりイケメンだ!


「ごめんごめん、あれ玲子さんは?」


「ちょっと出かけてるよ。後で美容室案内してやるんだって張り切ってたぜ?」


「そういえばそんな事言ってたね。それより修二、何かやつれてるように見えるよ?」


「……昨日、俺が隠してたエロ本が玲子に見つかったんだ……」


「……え!?」


 まじか……。玲子さんみたいな綺麗な彼女が居て、エロ本なんて隠してたのか。つまり、玲子さんの占いの結果は正しかったのか!


「夕飯食べてから風呂入ってさ、出てきたらリビングのテーブルの上にエロ本が置いてあって……めっちゃ笑顔な玲子が待機してたんだ」


「……ちなみに、どんなジャンル?」


「ギャル系……」


 ギャルか! ギャルなのか!? 確かに玲子さんとは違った魅力があるよね! ちょっとわかるかもしれない。時々、うちのバイト先のギャルとかエッチな目で見ちゃうとき、あるよね♪


「そりゃあ玲子さんも怒るよ! せめて金髪の外国人のやつだったら許して貰えたかもね……」


「いやいや! 玲子と同じような見た目のエロ本持ってるのもやばいだろ!!」


「はぁ、それでコッテリと絞られたんだ」


「そうなんだよ。コッテリと絞られた。まあそれはいいや。玲子が2時半に駅に来いって言ってたから、さっさと服を選ぼうぜ」


「はい! お願いします!!」


 あれ? 昨日の修二の占いだと自販機でお汁粉を買って当たりが出ただけだったよね。なんでエロ本発覚を回避する占い結果にならなかったんだろう?


 修二からしたらエロ本が見つかるよりもお汁粉の当たりの方が運が良い事になるって事か? そしてエロ本が見つかる事は悪い事じゃない……。


 待てよ? やつれた修二、コッテリと絞られた・・・・・・・・・という発言……つまり、そういう事か!? このリア獣どもめ!!






 内心で修二を羨ましく思っていたところ、修二の衣裳部屋のようなところに連れていかれた。


「とりあえず、この中で気になるやつとかあるか?」


 部屋の大きなクローゼットには、シャツやジャケット、コート、ジーンズやスキニーパンツなど、お店かと思うくらいいっぱいありました。


 正直なところ自分に何が似合うのか、どんな組み合わせをしたら良いのか、さっぱり分からない……。


「えっと、店員さんのお勧めでお願いします!!」


「店員ちゃうわ! まぁいいや、適当に選んでやるよ」


 もうお任せです。だってさ、占いの神様だって言ってたもん。すべて相手に委ねなさいって。つまり、僕のセンスは神様が認められない程やばいって事だろう?


「とりあえずこんな感じでどうだ?」


「おお? なんかスラッとして見える!」


 白いシャツに黒いスキニーパンツだろうか? なんか足がシュッとして見える。オシャレなスニーカーも履かせて貰いました。あとカッコイイ茶色いコート。よくわかんないけど。


「それ昔使ってたやつでさ、背が伸びて着れなくなったやつだからやるよ。昨日実家から送ってもらって、今朝届いたんだぜ」


「まじで! ……あの、店員さん、おいくらでしょうか?」


「金なんて取るか! そっちの段ボールに古着とかあるから、持って帰っていいぞ」


「ありがとう修二!!!」


 神がいた。占い神様とは違って金欠をカバーしてくれる実用的な神が!! いや、占いの神様もすごいですよ? ちょっと金運が上がらないだけで、すごいですよ? ……ごめんなさい調子こきました。


「まあ命の恩人だしな。これくらい安いもんだぜ! それに俺たち、友達だろ?」


「はい!」


 良い友達を持った。そもそもこの出会いがあるのも修二が生きているのも、全部占いの神様のお陰だ。占いの神様、この奇跡に感謝致します……。


「そろそろ良い時間だし、玲子のところ行こうぜ! 荷物は今度まとめて送ってやるから、明日必要な分だけ先に家に持っていこうぜ」


「はい!」


 僕はすべてを修二に委ね、『はい』しか言わない機械になりそうです。でもしょうがないよね、これが今日の運勢なのだから。




   ◇◇◇




「おーい玲子! 連れてきたぞ~」


「玲子さんこんにちは。今日はよろしくお願いします」


 駅前のロータリーにある喫茶店で、優雅にお茶している美女を発見! 歩道に面したテラス席に座ってました。遠くでも一目でわかる美しさ、すごく綺麗です。


「こんにちは。あら薫さん、似合ってますわよ」


「ありがとう玲子さん!」


 おお、玲子さんに褒められた! 今着ている服も修二のお下がりだが、明日着る本番用のものとは別のものだ。似たような感じでシャツとズボンとコートの3点セット。


「予約の時間までまだありますし、少しお話しましょう? 修二さん何か飲み物を買ってきてくださるかしら?」


「分かった。薫何飲む? 奢ってやるよ」


「ありがとう! ブレンド珈琲でお願いします!」


 また修二にご馳走になってしまった。僕は修二のヒモかもしれない……。


 修二が店内に買い物に行ったので今は玲子さんと二人きりだ。そうだ、昨日の占いについて聞いてみようかな!


「そういえば玲子さん、昨晩の事、修二に聞きましたよ?」


「薫さん、セクハラですわよ!!」


「どこがー!? 僕が聞いたのは修二のお宝が玲子さんに見つかってコッテリ絞られたってだけなんですけど……。玲子さんみたいな綺麗な人がいるのに馬鹿だな~って思っただけですよ?」


「え? あ、そう? ……ええ、そうですわ! 修二さんったら私という者がありながら、あんなものを! まぁ占いの神様のお陰で助かりましたわ」


 この反応を見る限り、昨晩はお楽しみだったようですね。羨ましい。僕も彼女欲しいです……。


「じゃあ修二が来たら今日の分も占いますね」


「よ、よろしくお願いしますわ!」


 ちょっと玲子さんの顔が赤くて可愛いです。どんな感じでコッテリと搾ったのか気になります!




   ◇◇◇◇




「修二ご馳走さまです。お礼じゃないけど、恒例の占いやるね? まずは修二から行きますよー」


「おう頼んだぜ!」


 修二を視界に収め、いつも通りに神に祈った。




【千葉修二】


※今日の運勢※

 浮気はだめニャン!




「浮気はだめニャン!」


「何言ってんだこいつ?」


「薫さんがやっても可愛くないですわ……」


「ひどい! 文章が短かったから、書くのめんどくさかったんだよー。さっきのが今日の運勢です……」


「あー、スマン! ……でも、語尾とか変わりすぎだろ~」


「どうしたのでしょうか……それよりも浮気ですの?」


「浮気なんてしないからっ!」


 ほんと、なんで急にニャンとかになるんだろう? あと玲子さんが浮気に反応してしまった。必死に玲子さんを宥めているけど、このままじゃヤンデレ度がアップしちゃうかもしれない。


「はいはい、時間ないから次は玲子さんやるよー」


「お願いしますわ!」


 イチャイチャする二人を見ていたら、なんか投げやりな気持ちになってきた。どうにでもな~れ! って感じで神に祈った。




【天王寺玲子】


ヤンデレ度10%(+7)


※今日の運勢※

 あなたがお世話になったカリスマ美容師を訪ねると良いでしょう。

 もし彼女に会いに行くのなら、中野薫を連れて行くこと。




「えええぇ」


「どうしたんですの薫さん!?」


「またアレな内容か?」


 また良く分からない内容だ。玲子さんの占いに僕の名前が入ってるし……。重要イベントなのだろうか?


「えっと、まず玲子さんのヤンデレ度が+7ポイント上昇して10%になりました。おめでとうございます!」


「ぶち殺しますわよ!?」


「ひぃ!」


 本当の事を言っただけなのに……。修二が爆笑しているが、ヤンデレ化が進んじゃったよ? 大丈夫だろうか……。


 あれか? 昨日エロ本見つかって嫉妬しちゃったとか? もしかしたらギャルに対抗意識があるのかもしれない。玲子さんのギャル姿とかちょっと見てみたいです。


「そんで占いの方はどうだったんだ?」


「とりあえずこんな感じ」


 そう言って、僕はメモ帳に書き写して玲子さんに渡した。


「カリスマ美容師……。思い当たるのは一人だけですわ。でも彼女なのでしょうか……?」


 ほほう、女性のカリスマ美容師ですか。気になりますね!


「それって今日予約してるところなのか?」


「違いますわ。カリスマ美容師のお店はここから8駅先の場所にありますの。しかも半年先まで予約が埋まってると言われているほどの人気店ですわ……」


「まあ予約しちゃったし、そっちはいいんじゃないか? そんな人気なカリスマ美容師に会ったってやってくれないだろ?」


「いえ、これは占いの神様からのお導きですわ。予約はキャンセルしてカリスマ美容師に会いに行きますわ。ついていらっしゃい薫さん!!」


 あれ? やっぱり玲子さんは信者になっちゃったの?


 それよりも今日は否定を禁止されて『はい』しか言えないんだった。僕も信者だな……。つまり返事はただ一つ……。


「はい、よろこんで!!」


 そうして僕は、カリスマ美容師に会いに行くことなった。


「おまえら面白いな!」


 そんな僕らの会話を聞いて修二が腹を抱えて笑っていた。修二はいいよね、ニャンとか適当な占いで。

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