第17話 逆ナンパって何ですか?

 電車に揺られること約30分、そこから歩いて5分の場所に『カリスマ美容室ビューティ田中』があった。


 店の外観は白と黒のオシャレな店舗になっているが、名前がちょっと合ってない気がする。別に田中さんが悪い訳じゃないよ?


 窓から店内を覗いてみると、座席は女性客で埋まっていた。


「本当にここなんですか? カリスマ美容室ビューティ田中ですよ?」


「ここで合ってますわ。カリスマ美容師のビューティ田中という方が、伝説的な腕を持ってますの。とりあえず面識はありますのでお話してみますわ」


「ま、ダメ元で行ってみようぜ!」


 修二と玲子さんを先頭に、陰キャな僕は後ろからコソコソと付いていきます。


 カランカランとドアベルの音が響き渡り、若いお兄ちゃんが駆け付けて来ました。


 店内はシャンプーや整髪料など、色々な匂いが混ざって独特な匂いがする。いつも行っている床屋とは違うなぁ。よく考えたら美容室って初めてだ。ドキドキ……。


「いらっしゃいませ。ご予約の方でしょうか?」


「違いますわ、店長さんに会いに来ましたの。天王寺玲子が会いに来たと伝えてもらえるかしら?」


「か、かしこまりました。少々お待ちください」


 さすが玲子お嬢様です。お嬢様オーラに若いお兄ちゃんがビビってます。店長ってカリスマ美容師さんかな? そんな人にアポなしで会いに行くなんて、小市民な僕じゃ絶対に無理です。そもそもこんなオシャレな美容室に一人で来れません。


 しばらくすると、若いお兄ちゃんが戻ってきました。


「奥のお部屋で店長がお待ちです。ご案内致します」


 一見チャラいお兄ちゃんだけど、さすが人気店だけあって対応が丁寧だ。しっかりと教育されてるんだなぁ。


 美男美女の後ろに隠れてコソコソと付いて行きます。若いお兄ちゃん店員さんと目が合って、こいつも一緒かよって視線を感じましたが、逆の立場だったら僕も同じ視線を送っちゃうと思いますので軽くお辞儀しておきました。


 お店の裏方へ進み、事務所っぽいところへ案内されました。若いお兄ちゃんがドアをコンコンして店長さんと会話しています。ここが店長さんのお部屋ですか。


「店長、お客様をお連れしました」


「は~い、どうぞ入って貰って~」


「では私はここで失礼します。どうぞお入りください」


 中から聞こえて来たのは、女性にしては少し太めの声でした。ボーイッシュな女性かな? ワクワクします。


 あと、お兄ちゃん店員さん、良い働きでした。


「あ~ら玲子ちゃん、ひさしぶり~」


「こんにちは店長さん、急にごめんなさいね?」


「……っ!!」


 やばい、声を上げそうになってしまった。だって、どこからどうみたって……男性です。彼女って言ってなかったっけ?


 部屋の奥にある立派な社長席のようなところに座っているから身長とかは分からないが、短髪で顎髭があって女性には見えません。彼女って言ってたけど……オネエさんってことか!!


「どうしたの玲子ちゃん、急に来るなんてビックリしちゃったわ~」


「店長さんにお願いがあって来ましたの。ちょっと彼のプロデュースをお願い出来ないかしら?」


「あら~、そこのイケメンさんならあたしが手を加えるまでもないわね。十分じゃな~い?」


「……いえ、修二さんではなく、こちらの薫さんですわ……」


「あら? 居たのね~」


 ひどい!! 確かに二人の後ろでコソコソと隠れてたけど、視界に入ってなかったなんて……。


「こっちの彼が薫さんですわ。明日大事なデートがあって、是非とも店長さんにプロデュースして欲しいのですわ」


「な、中野薫です。よろしくお願いします」


「……」


 店長さんの視線をヒシヒシと感じます。まるで人を殺せるような鋭い視線ですね。ビビって目を逸らしそうになるけど、逸らしたら負けな気がするから耐えます!!


「ダメね」


「……っ!」


 店長さんのドスの効いた声が響き渡った。こわいよー。


「あら、どうしてですの?」


 さすが玲子お嬢様、まったくのノーダメージ!!


 店長さんは大きく溜息を吐き、少し俯きながら話し出した。




「あたしね、今スランプなの。まったく情熱が湧いて来ないのよ……。なんでかしら、何をやっても上手くいかないのよね……」


――店長さんの顔が、苦しそうに見えた。




「別に腕が落ちたとかそういう訳じゃないのよ? 前はお客様の魅力を引き出すことに全力で当たれた。でも今は……そんな情熱が湧いて来ないのよ」


――店長さんの顔が寂しそうに見えた。




「だから今は若い子の育成を頑張っているの。技術的な事とかなら、いくらでも教えて上げられるからね」


――店長さんの顔が悔しそうに見えた。




「だからごめんなさいね。昔みたいにプロデュースは出来ないの。カットだったらうちの子がやってあげるわ」


――だからだろうか、そんな店長さんの苦悩を、救ってあげたいと、強く思ってしまった。




「ふふ、店長さんともあろうお方でもスランプに陥るのですわね。薫さん、どうにかならないかしら?」


「うぇっ!?」


 玲子さんが無茶振りをしてきた。でも何故だろう、店長さんのスランプを脱却させる事は、僕にしか出来ないと思った。




――世間からカリスマ美容師と認められるまで、どれ程の苦労があったのだろうか?


――苦労の先、やっと掴んだ栄誉は、情熱を失わせてしまったのだろうか?


――この店長さんの苦しそうな顔、寂しそうな顔、悔しそうな顔が脳裏をチラつく。




 もう一度、この店長さんの情熱を取り戻してあげたい。今度は消えない、太陽のような情熱を!


 店長さんが情熱を取り戻せるというのならば、僕はこの身を捧げよう。


 どうか神様、お導き下さい……。




田中龍之介たなかりゅうのすけ


 通称ビューティー田中、本名は田中龍之介43歳。

 身長180cmくらいで細マッチョなイケメンさん。でも心は女の子。

 天才的なシザーテクニックを持ち、お客の魅力を150%引き出すカリスマ性を持っている。でも心は女の子。

 2年前にバイト君(ショタっ子)に振られ、心に傷を負ってしまいスランプに陥っている。


※今日の運勢※

 運命の出会いがあるでしょう!

 その人の言葉が、あなたの心の傷を癒してくれます。

 そして、あなた色に染めて上げましょう♪




 おい! 何が情熱が無くなっただよ! 単にバイトの子に振られただけじゃねーか!! しかもショタっ子!!!


 どうしよう……この店長の情熱を取り戻して上げたいとか思ったけど、何か違う気がしてきた……。雰囲気に当てられて『僕はこの身を捧げよう』なんて考えちゃったけど、ないわー。


 ……はぁ、でもやるしかないな。だって、玲子さんに頼まれちゃったから。そして今日の僕は『はい』しか言えないのでした!


 よし、気合を入れてやるか!





「龍之介さん、僕を……」


「龍之介言うな! ぶっ殺すぞ!!」


 初手からミスってしまいました。もうだめかもしれない……。


「あ、えっと、店長さん、僕をプロデュースしてください!」


「おい! さっきまでの話聞いてなかったのか?」


 やばいです、店長さんが既にオネエ言葉じゃなくなっちゃいました。でもやるしかない! もうどうにでもな~れ♪


「僕は、彼女が……葉月ちゃんが好きなんです!」


「……」


「先日、初めてデートに誘いました。今までずっと見てるだけだった彼女に、勇気を出して誘いました」


「……」


「彼女は魅力的で、こんな僕じゃ断られるかもしれない。……そう何度も思いました」


「……」


「でも、胸が痛いんです。彼女の事を思うと、キュッと胸が痛くなる。もうどうしようもないくらい、痛くなるんです」


「……」


「このまま見ているだけじゃ嫌だ、一緒に居たい、一緒に手を繋ぎたい、そういった感情が、溢れて来たんです!」


「……」


「だから僕はデートに誘いました。断られるかもしれない恐怖に負けないで、一歩前へ足を踏み出しました! そんな経験、店長さんにも……あったでしょう?」


「……っ!!!」


「明日、デートに行くんです。ここからがスタートなんです! だから店長さん、僕に勇気を下さい!」


「………………」




 店長さんはずっと黙って聞いてくれていた。途中、目を閉じて物思いに耽っているようにも感じた。ショタっ子の事を思い出したのだろうか?


 もう言いたい事は全部言ったけど、どうしたら良いのだろうか? チラっと周りを見ても、修二と玲子さんもずっと黙ったままだ……。


 少しの間、沈黙が部屋を支配した。




「そんなに彼女の事が好きなのか?」


「はい!」


「もし俺がプロデュースして、失敗したらどうすんだ?」


「店長さんを信じています。店長さんに……すべてを委ねます!!」


「……はぁ。じゃあ丸坊主にしても文句は無いな?」


「はい! よろこんで!!」


「……なっ!?」


 店長さんがビックリしています。


 さすがに丸坊主にして良いかって聞かれてノータイムで返事があるとは思わなかったようだ。


 でもしょうがないのです。今日の僕は占いの神様の忠実な下僕、『はい』しか言えないのです。……大丈夫だよね? 丸坊主にされないよね?


 もう後には引けない! 一歩前に進み、覚悟を決めて店長さんの目を鋭く見つめ、言ってやった。


「僕を……プロデュースしてください! 僕を……店長さんの色に……店長さんの色に染めて下さい!!!」


「ああぁぁ~ん!!」


──トゥンクトゥンク!──


 どこからか、聞こえちゃいけない恋の音がした気がする。


「か、薫きゅん!」


 あれ? ちょっと寒気がしてきた。そういえば今日の鑑定は5回目だったっけ。それのせいだよね? そうだと信じてるよ? あと薫きゅんって何ですか?


「なにかしら……!? 胸が熱いわ! 薫きゅんを見ていると、胸がキュンキュンするの! もう薫きゅんをいじりたくてたまらない! あぁん! 心がキュンキュンするんじゃー!!」


「やったな」


「やりましたわね」


「ちょっと二人とも何を呑気な、これやばいんじゃない!?」


 店長さんが立ち上がり、こっちに向かって歩いて来ます。めっちゃ速足です。あとすごく目がギラギラしてます。たすけて~。


「さぁ薫きゅん行くわよ! あたしが最高にカッコイイ男の子にしてあげるわ!!」


 店長さんに腕を組まれ、作業フロアに連れて行かれます。え、何で腕組むの? 店長さんちょっといい匂いがするのが辛いです……。


 僕は修二と玲子さんに助けを求める視線を送ります。届け! 僕の思い!!


「俺らここで待ってるぜ? 頑張ってな!」


「ごゆっくりどうぞ~ですわ」


 そうして僕は、店長さんに連れて行かれてしまった。


 どうやら店長さんのスランプについては有名らしく、僕が店長さんと一緒に作業フロアに来た時、店員さんはもちろん、お客さん達も驚いていた。


 店長さん専用という、他とは違う一際豪華な座席に案内された。見た感じこの席はしばらく使われて無かったようです。


「薫きゅんの髪質とボリュームを考えると、全体的にふんわりと流す感じがいいわね! 見える! 見えるわ!! ああん!! 思い出してきた! この感覚よ!!」


 店長さんは一人だけハイテンションで、ひたすら独り言を言っています。でも周りの店員さん達はすごい笑顔で、お客さん達もソワソワしながらこっちを気にしています。


「ねえ薫きゅん! 眉毛もいじっていい? 髪型だけじゃだめなの、眉毛も必要なの!」


「もうすべて店長さんに委ねます! 思ったところは全部やっちゃってください!」


「あ~ん、いいわ薫きゅん! あたしがカッコよくしてあげるわ~!!」


 そうして僕は、わしゃわしゃと頭を洗われ、チョキチョキとカットされ、シュシュっと眉毛を整えられ、ふわふわっとワックスを付けられた。


「完成よ薫きゅん!」


「……これが……僕?」


 サラっと流した髪とキリっと整った眉毛で随分と印象が変わった。農民から中級貴族にランクアップした感じです。これなら葉月ちゃんもビックリしてくれるかな?


「いいわ~カッコイイわ!! これなら彼女だってイチコロよ!! 頑張ってね♪」


「ありがとうございます店長さん。でも家でセット出来るかな……」


「後でワックスの付け方とか伝授してあげるわ! あと、これを維持するなら毎月通って頂戴! 薫きゅんならいつでも予約入れてあげるわ。はい、これあたしの連絡先ね♪」


「……ありがとうございます」


 カリスマ美容師の連絡先をゲットしたぞ! でもこれ個人宛な気がするんですが?


「おおー! 薫いいじゃん! すげーいいじゃん!!!」


「見違えましたわ!! カッコイイですわ薫さん!!!」


 どうやら店内の様子を察して二人が来てくれました。確かに他のお客さんとか店員さんも、出来栄えに声を上げてたからね。うん、盛り上がっていました。


「ありがとう二人とも、全部店長さんのお陰です!」


 みんなに褒められて嬉しい! 周りの店員さんやお客さんもみんな笑顔です。


「店長さんありがとうございます! これで明日、頑張れそうです!」


「応援してるわ! 彼女が出来たら連れてきて頂戴、あたしが最高に可愛くしてあげるわ! あとね、あたしもやる気がみなぎって来たの。昔の感覚を思い出したのよ! ……そうだわ! 薫きゅんに逢わせてくれたお礼に、玲子ちゃん久しぶりに整えてあげるわね!」


「あらいいんですの? 嬉しいですわ!」


「じゃあ俺らはちょっと外行って来るな。終わったら連絡くれ」


「分かりましたわ」


 どうやら修二とお外で待つ事になりそうです。入口でお金を払います。八千円は高いと思ったけど、この結果を見たら安いのかもしれない。いや、絶対に安いぞ! さすがカリスマ美容師!!


「悪いな薫、ちょっと珈琲飲みたくなってさ。玲子は2時間くらい掛かるだろうから、どっか喫茶店で休憩してようぜ」


「おっけー!」


 お店を出て二人で駅の方へ向かい、駅前の喫茶店に入ることにした。でもやたらと視線を感じる。修二がイケメンだからかと思ったけど、視線を辿ってみると僕とも目が合うんだよね。もしかしてカリスマ効果か! とか思ったり。


 喫茶店に入ってみたけどほぼ満席だったが、運よく4人掛けのテーブル席に座ることが出来た。ラッキー!


 とりあえず珈琲を飲んで、しばしの休憩をすることにした。


「んじゃお疲れ~! 最初はどうなるかと思ったけど、結果的には大成功だな!」


「お疲れ様! 全部玲子さんのお陰だよ。なんとかなってよかった~」


 ここの珈琲はイマイチだなー。やっぱりマスターの珈琲の方がおいしいや。チェーン店だし、こんなものかな?


「でも良く攻略できたな。どうやったんだ?」


「攻略って言わないでよ! 鑑定使ってみたんだ。そうしたら神様のアドバイスが書いてあったんだよ」


「なるほどな~。まあカリスマ美容師と言えども、スランプに陥るもんなんだなー」


 ふふふ、修二は分かってないね! よし、修二が珈琲飲むタイミングでネタ晴らししちゃおう!


 ……いまだ!


「あの店長、2年前にバイト君のショタっ子に告白して振られてからスランプに陥ったらしいよ?」


「ブハッ! ゴホッゴホッ……何てこと言うんだ! あー汚しちゃったじゃねーか」


「ごめんごめん」


「もうあの店長の事、そういう目でしか見れなくなったじゃねーか!」 


 そう言って修二は笑って許してくれた。



 

   ◇




「あの~、席がいっぱいで相席お願いしてもいいですか?」


「ごめんなさ~い。おねがいします~」


 しばらく雑談をしていたら、二人組の女性が声を掛けてきた。


 軽く店内を見渡すが、確かに満席のようだ。4人掛けテーブルに修二と二人きりだし、全然良いと思います。


「どうぞ~」


「あ、おいっ!」


「ありがとうございます。お隣失礼しますね」


「ありがとうございます~」


 あ、修二に確認するの忘れてた。でも満席だし、しょうがないよね?


 僕の隣には、眼鏡を掛けた背の高いキャリアウーマンのような綺麗な女性が座った。修二の隣には背が低めでポワポワとした、お胸の大きな女性です。うう……自然と目がお胸に吸い寄せられてしまいます。


「お会計した後に満席で困ってました。ありがとうございます」


「お二人ともカッコイイですね~おいくつなんですか~?」


「えっ? あ、20歳です。修二も同じだよね?」


「おう……」


「ええーわか~い。わたしたちおばさんだー」


「はぁ……良いわね若いって」


「い、いやお二人ともおばさんは無いんじゃないですか? すごくお綺麗ですよ!」


「ええーありがと~」


「ふふ、ありがとう」


 なんか雰囲気が怪しくなってきたよ? 修二は隣に座ったお姉さんにグイグイと質問責めに合っている。


 僕はこんなところで知らないお姉さんと話した経験なんてないから、緊張する……。もしや、これが逆ナンパなのか!?





 お姉さんに囲まれてからしばらく、僕は緊張しながら事情聴取をされた。学校の事とか彼女が居るのかとか、僕の個人情報をどんどん吸い出されていったのだった。くっ、童貞の僕にはこんな美人なお姉さんの相手は無理です。誰か助けてー!


 そろそろヤバいと思ったが、通路側をお姉さんに塞がれてしまい、逃げられない! どうする……。




――ピリリリリッ♪ピリリリリッ♪――




 修二のスマホに着信あり! 救世主が来たか!!!


「もしもし……あーわかった。すぐ行くよ」


 きっと玲子さんだ!


「じゃあ俺ら予定あるんで行きます」


「えーかえっちゃうの~?」


「すいません。人を待たせちゃってて」


「良かったら今度ご飯行こう? これ私の連絡先。待ってるから」


「あ、どうも……」


 やばい、初めて向こうから誘われた……これがカリスマ美容師の力か……! でもすぐに連絡先は破棄です。僕には葉月ちゃんが居ますので!!


 なんとか店内から出たが、修二に怒られてしまった。


「おいどうすんだよ? 玲子にバレたら大変なんだぞ!?」


「いや、あんなの断れないでしょ。それにバレないって大丈夫大丈夫」


「お前は玲子の事を分かってないからそんな事が言えるんだ……」


 修二が俯いてしまった。玲子さんだし、大丈夫でしょ!




   ◇◇




 『カリスマ美容室ビューティ田中』に戻ると、玲子さんが大変身を遂げていた。


 プラチナブロンドの長髪は光を反射し、天使の輪が出来ている。髪型は大きく変わっていないけれど、毛先までスラッと光沢を放っている。きっと触ったらサラサラしてて気持ちが良いと思います。


「玲子さんすごい綺麗です!!!!」


「……玲子、綺麗だ!」


「ふふ、ありがとですわ♪」


 こんな驚いている修二を見たのは初めてかもしれない。海外の有名女優さんに引けを取らない美しさだと思います。さすがカリスマ美容師!!


 玲子さんもいつも以上に綺麗になって嬉しいのか、修二とベッタリしてます。腕まで組んじゃってますよ。このまま夜の街に消えて行きそうな雰囲気です。いいなぁ……。


「……修二さん? 知らない女の匂いがしますわ!」


「ひぃ!」


「ひぃ!」


 やばい、底冷えするような声だった。こっちまで悲鳴を上げてしまった。


 あれか、さっきの隣に座った女性か!! あのお胸の大きなお姉さんに抱き着かれていたから匂いが移ったのか!


「薫さん、ちょっと用事が出来ましたのでこれで失礼しますわ。明日は頑張って下さいね。行きますわよ、修二さん?」


「はい! ……薫、頑張れよ……」


「修二も頑張ってね……」


 連れ去られる修二を見送り、僕は店長さんにワックス指導を受けた。ワックスも試供品で一個貰ったから、明日は頑張ってみよう。


 それにしても濃い一日だった。でも明日が本番だ。みんなが応援してくれたからここまで来れた。


 でも明日だけは、全部自分の力でやらなければならない。


 不安もあるけど、楽しもうと思う。


 どうか明日が、良い一日でありますように……。

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