第一章  金が城学園高校相談係③


「なんだ? まるでアイドルが原宿にやってきたみたいな騒ぎだな……」


タイルを打つ音が徐々に大きくなる。騒ぎの元になっている存在が近づくにつれて、周囲を囲んでいた人々が声を失ったように言葉を発するのをやめた。


普通なら足音が聞こえるはずのない距離。だが、喧騒から一瞬にして静まり返った食堂は、床のタイルを打つ音だけが鼓膜に響いた。


食堂の中央辺り。足音が止まると、囲んでいた生徒たちが後退りするようにぶわぁっと円形に広がり、その足音の主がようやく寺島の視界に入った。


囲まれていたのは三人。百八十センチは超えたスラっと背の高い細身の男子生徒と、綺麗なボブカットに眼鏡を掛けた無表情の女子生徒。そしてその後方で一際眩い輝きを放つ、ロングヘアをミルクティーベージュに染めた美しい女子生徒。


天井の窓から差し込む柔らかな日差しが『純金』の中でも、彼女らだけが特別であることを象徴するように神々しく照らしていた。



「うそだろ……なんでここに瀬崎雅が……」



彼女らが放つ特別な光明に、相談係の腕を掴んでひとりの『純金』がその場を離れた。


「ねね寺島氏、あれ誰なの誰なの? すっごい注目されてるけどっ!」


興奮気味の雀が、寺島の箸を持つ手をぺちぺち叩く。


「あれは『K(カラット)』だろうな。雀も知ってるだろ?」


 寺島が箸を進めながら興味なしといった感じで答える。


「あぁー! 『K』かぁ! もちろん知ってる! 有名だよね!」


「そうなんだけど。つーかお前なぁ……、他人事みたいに言うなよ」


『K』とは、『純金』の中の高位5名を表す。


 そのランクは上から


K(カラット)24(twentyfour)

K22(twentytwo)

K18(eighteen)

K14(fourteen)

K10(ten)


金持ちの中の金持ちで、金が城高校の上層部を除外した教師と生徒全員の上位に君臨する選ばれた者達。彼らはいわば生きる伝説。


その名の通り『K』とは金の純度を表す単位になぞらえて付けられた名称だ。『K』は中でも特別な選定をクリアした者にしか称号を与えられない。


例外を除き、『K』には品格・高尚さ・佇まい・矜持などあらゆる資質が問われる。また容姿すら『K』として相応しいかの基準に入るため『K』は目を疑うような美男美女揃いが当然なのである。



――それほど『K』という存在は特別であるということ。



そんな彼らが2号館に足を運ぶことは滅多にないどころか、聞いたこともない。

寺島が不思議に思っていると『K』の相談係であろう細身の男と目が合った。


寺島は即座に目を逸らし、何事も無かったように唐揚げを口に運ぶ。

流石にここは人が多すぎる。



諸事情がある寺島にとって大人数の場で注目を浴びたくない。しかし、寺島の願いが遠ざかるのに比例して、一行の足音が自らの元へ向かってくるのは明瞭だった。


「食事中すまない、少し良いかな?」


 先頭に立つ背の高い男が寺島に話しかけた。


「えっと……どうされましたか?」


 不安的中だ。寺島が白々しく表情を作って視線を上げると、神々しい光を放つ三人組がテーブルの横で自然と見下ろす形を作っていた。


「ご覧のようにこの食堂が満席みたいでね……」


「そうみたいですね」


「……実は1号館の方も満席だったんだよ」


 察しが悪いと言いたげに男は少し語気を強める。

 男は端正な顔立ちで、背筋に針金の通ったような美しい立ち姿をしていた。近くで見ると案外筋肉の付きが良い。武道を嗜んでいるか、トレーニングをしているか、どちらにせよ学ランだけで目を付けられた寺島は無意識に貧乏ゆすりを開始していた。


「君はそこに座る眼鏡の女子生徒の相談係か? それとも何かの理由で『主』がいないのか?」


学ランを見れば分かるだろうに、わざと自分から言わせようとする男に対し、寺島は貧乏ゆすりを加速させる。


「彼女――飛鳥馬雀はただの友達です。残念ながら俺の『主』は病欠で当分学園には来ません。家にあなたがしているような金のバッジはありませんし、ブレザーも持ってませんよ」


「……ほう。《純金制度》による主従関係が結ばれていない二人か」


 男は寺島と雀を見て、興味深そうに顎の辺りを擦る。


「『純金』の生徒と『主』を別に持つ相談係が、共に学園内で時間を過ごす光景は珍しい」 


《純金制度》とは、『主』とその相談係が個別に結ぶ主従関係制度。相談係は『主』のよりよい学園生活に己の全てを捧げ、仕えるという制度の呼称だ。


『K』は例外的に相談係を複数名仕えさせることができる。『純金』でありながら相談係を務める者も存在する。


 物言いから、相手の男は相談係であり『純金』でもあるのが窺えた。

 襟元に『純金』を証明する金バッジと、Kの相談係であることを証明する希少な宝石で製作されたバッジがあることから間違いない。



真珠のような青に艶めく半透明の宝石――グランディディエライト。

K(カラット)18(eighteen)を証明するバッジだ。

後ろにいる可憐な女子生徒こそが『K』本人だろう。


「でも明日にはブレザーを購入しないといけませんね。あれは自分で買うには高いですけど、制服が違うだけで目を付けられては高校生活もまともに過ごせませんから」


嫌味たっぷりに返す寺島に、相談係の男は眉を一センチだけ上に動かした。


「私に対してそんな口の利き方をする相談係は初めてだ。君、名前は?」


「寺島将生、一応二年生です。すいません、まともな教育を受けていないもんでして」


「いいや、下位の『純金』に仕える相談係は無礼な者も多い。君も恥じることはない」


 そう言うと、相談係の男は自らも名乗った。


「三年生。瀬崎修一だ。K18である瀬崎雅さまの兄であり相談係。隣の野々宮遥香も同様に雅さまの相談係だ」


修一の隣に立つ無表情な相談係は一礼すると、また元の無表情に戻った。少し身体をそらして修一は後ろに佇む雅を一瞬だけ紹介するが、寺島が覗こうとするとその視線を遮るようにずいっと前へ一歩踏み出した。


席に座る寺島と直立した修一の距離が詰まる。


別に寺島自身もここで騒ぎを起こしたい訳では無いが、立ち去るにも今は食事中だ。



「えっと、え、えっと…………う、うぅ」



 向かいの席では、事態を飲み込めない雀が怯える表情であわあわ口を動かしているのが見ずとも分かる。極度の人見知りである雀にとって視線は敵だ。


しかも寺島は『K』の相談係に堂々と歯向かっている。

周囲の視線が痛いほど刺さった。



「寺島将生。私たちはその席を退いてもらいたい」



 察しの悪さに修一は遂に単刀直入に切り込んだ。


「君のような者のために、裏庭にはベンチが備え付けてあるだろう? そこへ行けば今も二人分の座る場所くらい空いているはずだ」


 修一は悪びれる様子もなく放言する。金が城学園高校では上位身分の『純金』内ですら格差がある。学園全体でも身分は上から順にK、純金、相談係と地位が定められている。



ゆえに、『K』の命令は絶対だ。



「ええ、いいですよ。退きましょう。食堂の席は生徒全員のものですから」

「では――」


「ですが、今は俺たちも食事中ですし、何よりここに座る友達が唐揚げ定食をまだ食べきれていません。ですから少しそこで立って待ってていただけますか?」


 遮るように言葉を挟んだ寺島は、軽く雀の方に視線を向けた。


 雀の唐揚げ定食はまだ半分以上残っている。今席を立てば雀と寺島はトレー片手に食堂の隅で立ち食いすることになる。


「い、いいよ寺島氏。ほら、雀は立っても食べられるし! 早くどこ? ね?」

「だめだ」


 焦る雀を他所に、寺島が起立すると、睨み合った二人の双眸は、食堂の雰囲気を一息に重苦しいものへ変えた。


「お言葉ですけど『K』は専用のカフェテリアがありますよね。わざわざ2号館の食堂に来て俺らの邪魔をしなくともそちらに行けば良いんじゃないですか? 1号館もあるでしょうし」


 1号館の食堂は2号館のそれよりも豪華な食事が用意されている。つまり2号館は『純金』内でも下位レベルの生徒が食事を楽しむ場所だ。


 寺島も後戻りできない状況になった。立ち食いうんぬんではなく、彼は傲慢極まりない長身の相談係に腹を立てた。


 相手の顔がいいからムカつくという要素は入っていない、と思われる。


「今日はどうしても雅さまが2号館の食堂で昼食をとりたいと申してね。庶民の味も知りたいとのことだ。相談係として私はその責務を全うしなければならないのだよ」


「相談係の責務がお嬢様のための席取りなんて笑っちゃいますね」


 寺島は重心を片足に乗せた休めの姿勢を取って、相手を小馬鹿にした。


「君は珍しい男だ。私に逆らった君の存在はこの学園を卒業するまでしっかり覚えておこう」


「光栄に思いますよ」


 睨み合う二人はお互い引く様子が全く見られず、言葉の応酬も激しさを増してゆく。それとは別に、修一の隣で棒立ちしているもう一人の相談係は、寺島と修一の言い争いには興味がないのか別の場所を見ていた。


食堂のほとんどすべての視線が寺島に向けられた。


「修一さんでしたっけ? 俺の方も覚えておきますよ。妹のことを『様』呼びするシスコンの相談係がいるってことを」


 何気なく相手を挑発するために放った寺島の言葉は、不気味なほどに静まった2号館の食堂を今度は一瞬にして凍り付かせた。


「あ、あいつ言っちまった……」


「やばいぜそれは……修一さんにそれは禁句中の禁句だぜ」


 現場から遠くのヒソヒソとした会話が寺島の耳に入る。


「寺島将生。君は何か大きな勘違いをしているようだ」


 修一がブレザーの胸ポケットからメモ用紙サイズの生徒手帳を取り出す。片手でスムーズにページをめくると、今時珍しい紙タイプの生徒手帳を寺島に手渡した。


「この金が城学園高校は、『純金』の我々が快適な学生生活を行うための、いわば『純金』のための学園高校だ。それに対し、君のようなただの相談係は『純金』の我らがより快適な学生生活を送るために存在する付き人のような存在。言っていることは分かると思うが、君の座っていた席も本来私たちのために用意されたもの」


 修一は『純金』でもあり相談係でもある。『主』に対しては従順に従うだろうが、他の相談係には威圧的に接することも暗黙の了解だ。


「…………だから何だって言うんですか? 彼女もあなたの言う『純金』ですよ?」


 寺島がもう一度雀の方を見やる。

 誘導されるように雀を見た修一は、それをふっと嗤って寺島に視線を戻した。


「生徒手帳をみなさい」

 言われるがまま視線を落とす。


 生徒手帳の開かれたページには、学園生活に関する規則が記されていた。



 第一章 第五条 学園内の全ての備品・施設は全て支援金により賄われていることから、使用に関しては支援金上位者より優先権を有する。



「…………」

 寺島は黙った。書かれた文言に、嘘偽りはない。


 入学した当初、寺島も生徒手帳には一度全て目を通していたし、そのような文言があることは分かり切って修一に反論していた。

まさか生徒規則を持ち出してまで、退席させようとするとは考えなかったのだ。


「残念ながら、それがこの金が城学園高校の規則だ。寺島将生」


 校則で規定された上下関係。

 さすが金がものをいう金が城学園高校なだけはある。


 学ランの相談係が『K』の相談係に対し、無謀にも歯向かうのを面白おかしく見ていた野次馬達は、あっけない終わりに「やめだやめだ」と食事に戻ろうとした。


 格下の相談係が『K』の相談係に金が城学園高校で勝てるはずがない。

 状況は詰みに思えた。



「――そうですね。でも、この規則には抜け穴があります」



「、なに……?」

「『支援金上位者が優先権を有する』という文言ですけど、今あなたが彼女より支援金上位者だという証明がありません」


 寺島の指摘が、ざわっと同心円状に波紋を広げた。


「え、ちょ、寺島氏っ! その彼女ってす、すずめのこと⁉ ま、まだ告白されてないのに、そんな急に言われても――」


「……違う。誰もガールフレンドって意味で言ってるわけじゃねーよ……」


「え、違うの? そうだよね、うん……ち、違うのか……おろろ……」


 どういうわけか残念そうに雀が頭をかくっと落とす。この場でそんな悠長な勘違いをするのは雀くらいだ。ややこしくなるので出来れば入ってこないでほしい。


「今この状況で彼女を紹介するわけないだろーが馬鹿っ」

寺島もちょっと恥ずかしくなった。


「確かに、君の言う通り個人の支出支援金が記された書類は存在するが、それは個人か支出元である『純金』の保護者が管理するもの。学園にも支援金上位者が知れる書類、データは生徒が触れる範囲では置かれていないな」


 一瞬緩んだ空気を修一は一つ咳払いをして、話を戻す。


「職員に尋ねれば、私の支出支援金はすぐにわかるだろう。けれどここは2号館の一階。職員室は1号館の三階だ。証明するには時間がかかりすぎるのも事実」


「なので、その言い分は通りません」


これで終わり。寺島が修一を言葉で突き放し、席に座ろうとした所で、 

「――そうですか。分かりました」

 川のせせらぎのように透き通る美声が寺島の鼓膜を打った。


 寺島と修一の諍い中、一切口を開かなかった女子生徒がここに来て初めて声を上げると、スカートから伸びる眩い美脚を踏み出し、修一の前に出た。


「雅さま、ここは私が……」


「大丈夫お兄さま。少し私からもお話したいだけですので」


 出てきたのは、瀬崎雅。K18の張本人。


 ロングのミルクティーベージュに包まれた小顔、ヘーゼル色の美しい瞳はオタク地味少女の飛鳥馬雀と対極と言っていいほど、金が城学園高校の醸し出す雰囲気と調和している。瀬崎といえば《戦慄の水曜日》以前から現在に至るまで、その名を常に世界中に轟かせてきた大富豪中の大富豪一家。世界の資産家の十本の指には入る。総資産は五百億ドル――日本円にして五兆円は超えるという噂だ。


「み、雅さまが喋ったぞ……!」

「お、俺らがあの声を聞くなんてっ!」


 瀬崎雅が二言発しただけで、食堂にいる男子生徒たちに目眩が襲って来たらしく、くらっと態勢を崩した。凄まじい破壊力。雅が放つ華々しすぎるオーラはいくら『純金』であろうとも耐えたいようだ。


「もう話は終わったと思うんですが……。さっきから言ってるみたいに、俺達は昼食が終わったらすぐ退きます。もうあと五分もかかりませんよ」


「まだ話は終わっていません」


「……なんですか? まだ何か問題でも?」


 兄妹揃って面倒くさい……と思いつつ、寺島は視線だけを上げる。


「あなたが仰る通り、ここに支援金を示す証拠はありません。それに、兄弟でも支援金は別で管理されているので、私名義の支援金と兄の名義の支援金では金額が異なります。父は入学前から私の相談係を兄に任せる気でいたので、兄の学園への支援金は少なくありませんが多くもありません」


「それなら話は――」


「ですが、『K』は全員、支援金上位者で構成されています」


 雅の一言に、寺島が口を閉ざした。


「この意味が分かりますか?」


 瀬崎修一は、『K』ではないが大富豪瀬崎家の一員だ。故に、修一の方が雀よりも支援金が上回っているとは、この場の誰もが当然のように思っている。それを寺島は『証明ができない』で乗り切った。支援金の出どころは家族で同じ。よって『K』を妹に持つ私の方が、席に座る眼鏡の彼女よりも支援金が多いという反論は、寺島も適当に躱すつもりだった。


だが、瀬崎雅本人が登場となれば、そう上手くはいかなくなる。

押し黙ったままの寺島を前に、雅が話を続ける。



「分からないのなら、教えて差し上げます」



 雅の強く美しい語調は、瀬崎家の自信を物語っていた。

「私、瀬崎雅はK18の称号を持っており、金が城学園高校の支援金は上から順にK24 K22 K18 K14 K10となっています。これは伝統でもあり、校則に記されていることです」


「…………」


「寺島将生、あなたが意地でも席を退く気が無いのであれば、あなたを退学にすることも可能です」


 雅の言葉に「う、嘘だろ……退学っ!」と生徒たちの喧騒が食堂を揺らした。

この学園を仕切るのは『純金』だ。


さらに『純金』の上位5名から構成される絶対的存在の『K』には誰もが逆らえない。下の者は上の者には逆らえないのが当たり前の世界だ。


「ここは弱肉強食の世界だ。この金が城高校において、教師すら『K』には逆らえない」


 雅のとなり、絶対に敵わない相手に下克上を挑んだ侍を見るような目で修一は寺島を見た。



 修一は憐れみと余裕の中にも、今までの人生で唯一自分に楯を突いた相手を称える気持ちがあったのだが――



「はっ、退学ねぇ……」


 そんな憐れみなんかいらないと顔を振って睨みを利かせた寺島に、一瞬、余裕に満ちた自分の心が怯んだのを修一は感じ取った。


「寺島氏、ここは一旦退こうよ! ほらもう見て? 時間が経つ間に席空いて来てるよ? もう雀たちが移動すればいいじゃない?」


「すぐ終わる。雀は唐揚げ食ってろ」


 寺島は重たそうにもう一度腰を上げて、雅の前に堂々と仁王立ちする。


「俺を退学にしたいなら勝手にすればいいと思うが、あんたには出来ない」


「……出来ない?」


「そうだ。あんたのお兄さまが言ったみたいに、金が城学園高校は『純金』の言うことが絶対だし、その上位クラスの『K』の言うことはさらに絶対だ」


「……ええ、その通りよ」


「そして特例により相談係ですら仕える『主』によって多くの『純金』よりも上になることがある。例えばK24はあんたらにとっても別格だろ?」


「ええ、そう。K24は他の『K』とは比べ物にならないほど特別な存在。もちろんその相談係もそうよ。……だけど、K24がここに居るわけでは無いじゃない。結局あなたは何が言いたいの……?」


 寺島の意気揚々とした語りに、流石の瀬崎雅も私がなにか見落としていたのかと原因の分からない不安が胸をよぎった。


 そんな雅の心を読み取ったように寺島が八重歯を覗かせる。


「要するにK24の相談係は、K18の張本人様よりもその相談係よりもこの学園では上位者になるってことですよ」


 K24――金が城学園の頂点。その正体は誰も知りえることなく、学園内外を問わず生きる伝説と化した人物。噂で拡散されているのはK24が女性であることだけ。闇に包まれたベールは相談係の存在すら明らかにされていない。


「そうね。そう、でも、あなた……。そんな……いえ、可能性は……」


 全てを悟った雅の表情から余裕が徐々に薄れてゆく。脳内にある可能性を提示しては、自分で削除するのを繰り返していた。

 まさか、そんなはずは……と。


「それはまずいんじゃないかなぁ~~、てらしましぃ~?」


 席で不器用なはにかみを浮かべて妙な汗をかく雀のことはほったらかしだ。

毎日学ランを着てまで隠してきた努力は無駄になるが仕方ない。


こうなれば、寺島はある程度の覚悟を決めていた。


「分かんないなら教えてやるよ――」


 食堂の空間に充満するのは、息を呑むのも許さない重たい沈黙。

 誰もが次の言葉に、寺島の言葉に、耳を傾けた。



「俺が、この寺島将生が、K24の相談係だ」

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