第35話(今作最終話) 出合い
ある日、わたしがなんとなく街を歩いていると。
未咲「『出合いがしら注意』……あっ、こっちの字だ……」
よく見ると、ふだん見かける「出会い」の字とは少し違うことに気づく。
未咲「こっちで書くこともあるんだ……知らなかった……」
ほんとになんとなくだったので、そのことに気づけたのかもしれない。
未咲「えっと、何考えようとしてたんだっけ……あっそうだ」
玲香ちゃんとの出会い。とってもあったかい子だった。
未咲「おでこあわせてもらったとき、こんなにもあったかかったんだって……」
ちがう人の熱を感じるはじめての瞬間。表面は冷えていた気がするけど、内側から感じるなにかにそのときわたしは気づこうとしていた。
未咲「熱が出てるようでぜんぜんそんなことなくて、だけど冷たくて……」
うまく言おうとして、それができているかどうかはわからない。だけど、わたしはそう感じた。いろいろ経験してきたいまだからこそこんなふうに言っているのかもしれない。
未咲「空気だけじゃ伝わらない気持ち……玲香ちゃんと一緒にいることができたから気づけたのかも……」
そんな玲香ちゃんがいま困ってる。なんとかしてあげたいけど、どうしていいかわからない。
未咲「せめてあの頃のこと、ちょっとでも思い出してくれたらいいんだけど……」
それには時間がかかるのかな。わたしにはよくわからない。
未咲「どれだけやればいいんだろう……何かできないかな……」
いろいろ考えていると、下半身がむずっとした。
未咲「なんでわたしってこうなんだろ……いつまでたってもヘンな感じ……」
それはもう、こらえきれなくなってきていることを知らせてくれたようで……。
未咲「いいよね……やっちゃったあとにゆっくり考えたらそれでいいよね……っ」
これまでにないスピードでかけあがっていく、感じたことのない尿意。
未咲「あぁっ……」
間に合わない。そう思うと同時に聞いたことのないような音がした。
未咲「はっ、はっ……」
目が大きく見開かれているのが自分でもよくわかった。これまでのやわらかい感じじゃなくて、もっと奥深くからしぼりだされるような……。
未咲「あぁんっ……!」
頭に響くくらいの声が出てくるとは思わず、それに合わせて出てくるものにも同じくらいの驚きを感じてしまう。
未咲「やだ、やだぁっ……もうこんなこと、外でしていい歳じゃないのにっ……」
恥じらいをいっぱい覚えてきたから、もうあとに戻ることはできない。
未咲「いっちゃう、いっちゃう……こんなにはげしく出ちゃったら、もう……」
必死に出ないように我慢するけど、それも長くは続かない。激しく身を震わせる。
未咲「寒くない、寒くないもんっ……」
これは昔、わたしが口癖でよく言ってたこと。ここで出るとは思わなかった。
未咲「まだ出る……やだぁぁぁっ!」
どれだけ溜まってるんだろう……玲香ちゃんのことを思うだけでこんなにも……。
未咲「はぁ、はぁ……あぁぁんっ!」
声を出すと余計にその気分になるってわかってたけど、自然と出てしまった。
未咲「終わった……? もう終わったよね……」
そう思って歩こうとしたそのとき……。
未咲「やっぱりだめ……まだ、終わってない……」
顔が青ざめる感じがした。そのまま流れるようにわたしはしゃがむ姿勢をとる。
未咲「ここにトイレはないけど、座ったらなんだか落ち着いてきた……」
もうここでする。そう言いたかったみたい。
未咲「おしっこするときってなんでこんなにえっちなんだろう……脚も自然と開いちゃうし……」
出しやすいようにおなかを撫でてみる。すると、すぐに効果はあった。
未咲「はぁっ……」
しゅぃぃぃっ……いつも聞いている音だけど、なぜか違う響きにも聞こえてくる。
未咲「玲香ちゃんにも聞かせたい……頭に浴びせてあったかくしたいな……」
変態のことばすら浮かばなかった。純粋にそうしたいと思っただけで。
未咲「どうしても冷えちゃうよね……そのせいなのかな……」
やっぱりどうしていいのかわからない。だからこうやっておしっこするしかない。
未咲「待っててね玲香ちゃん……きっといい考えが浮かぶと思うから……」
言ってみても、不安しか残らない。もじもじしてた頃がなつかしい。
未咲「わたしっていったい、どんな子だったっけ……」
暗い影が見えてくる。落ちていく感覚ってこんな感じなのかな……。
未咲「こういう時期があってその先があるってわかってるつもりだったけど、そんなことなかったみたい……」
人生って難しい。こんな形で知ることになるなんて。
未咲「ふつうに過ごせてた頃ってもう来ないのかな……そんなことないよね……」
ただ過ごす時間の長さが変わっただけ。そう思いたいけど……。
未咲「やっぱり心配……いつか見れるといいな、玲香ちゃんのすてきな演奏……」
きっとあのときと同じくらい練習を積んでると思う。すぐにでも見たい。
未咲「まだ待たないと……おしっこは我慢できなかったけど……」
しずくがほとんど落ちなくなるくらいの時間が経過していた。わたしはようやく立ち上がる。
未咲「よっと……はぁ、あんな声もう出ないだろうなぁ……」
弱気になってもしょうがない気がしたけど、いまはしかたない気もした。
未咲「だって玲香ちゃんが待たせすぎなんだもん……こんなことになっちゃったし……って、人のせいにするのはヘンだよね……早く帰ろっと……」
おしっこを出しきったと思ったけど、あれこれ考えてる間にまた溜まってた。
未咲「んぅっ?!」
しぃぃっ……最後のひとしぼりといった感じだった。
未咲「ふぅ……立ち上がるのも楽じゃないよね……」
今だけだとは思いつつ、そんなことを言ってみたりした。
未咲「うん、今度こそしっかり帰れそう……やぁぁぁっ」
まだだった……どうしてかな、わたしきょう調子悪いのかな……。
未咲「早く歩きたい……こんなところずっといたくないよぉっ……」
それがしばらく続き、気づけば夜の7時をまわっていた。
未咲「ばかみたい……なんかいろいろどうでもよくなってきた……」
こんなこと言う日が来るなんて……前のわたしだったら絶対言ってない。
未咲「もういいや……玲香ちゃんの演奏なんて全然楽しみじゃない……」
またさらに黒い影が見えた気がしたわたしだった。
♦
次の朝、わたしはそんなことけろっと忘れたように目覚めることになった。
未咲「あれ、わたしきのう何考えてたんだっけ……?」
それでいいと思った。なんにせよ苦しい時間は終わった気がしたから。
あいすくーる! - Sea Side - 01♨ @illustlator_msr
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