第15話 淡路おのこ
しわを寄せて文字を読んでる子がいた。
???「うーん、読みづらいのぉ……」
何か石碑のようなものの前でしゃがみこんで見ていた様子だった。
未咲「何してるの?」
思わず声をかけてしまった。女の子の格好をしていたので最初はそう思った。
おのこ「あぁ、おなごか……おなごに用はない」
未咲「んなっ!」
ちょっと角のある言いかたをされて、ついむっとしてしまった。
おのこ「読んでおったのじゃ、この石碑に書かれた文章をな」
未咲「どう、面白い?」
おのこ「削れてしまって読みづらい部分もあるが、かなり興味深い。なんとか見ようとこちらも頑張っているところなのじゃが……」
未咲「そうなんだー……」
おのこ「そうじゃおぬし、ちょっと海に行ってみるか? いいものを見せたくなってきての!」
未咲「えっ? うん、いいけど……」
女の子のような、しかしたたずまいはちょっと凛々しく男の子のような子に連れられてわたしたちは海にやってきた。
未咲「何するの?」
おのこ「まぁ見ておれ。じきにわかるわい」
取り出したのは一本の矛。
おのこ「わしははるか昔神だったのじゃ。それが現代においてはこうして人のかたちをして現れることができたんじゃがの」
未咲「その矛はどうしたの?」
おのこ「自前じゃよ。さすがにひとつ島を生み出しただけあって作りかたは覚えとった」
未咲「へー……」
おのこ「あんまり興味なさそうじゃの……まぁいい、続けよう。若い体というのはじつに動きやすい。おかげでこれからすることもスムーズに行えそうじゃなっ」
未咲「それでそれで、これから何するの?」
おのこ「見ておれといっておろう。そうあせるな、若いの」
未咲「わたしにはきみのほうが幼く見えるけどなぁ」
おのこ「それを言うでない! まったく、最近のものは人の気にしていることをずけずけと言いよる……あのころに時間を遡らせたいものじゃ……」
その子はそういうと、持っていた矛を砂浜に向けてまわしはじめる。
おのこ「それ、こーろこーろ……」
未咲「こーろこーろ……?」
なんとなく繰り返してみたけど、これから何が起こるのかさっぱりわからない。
おのこ「うっ……!」
未咲「どうしたの?! 大変、誰かそばにいないかな……」
おのこ「心配するな、ただ……っ」
未咲「ただ?」
おのこ「こちらを見てくれるな、これは大変なことになるかもしれない……」
未咲「どうなるの? 気になってそばにいないとどうなっちゃうか……」
おのこ「だから心配するなと言っておろう……ぐっ……」
じっと何かに耐えている様子。下を向いているので想像できることがある。
未咲「おしっこしたいの? ずっと震えてるけど……」
おのこ「言うな小娘! まずい、これはほんとにまずいのじゃ……」
いつの間にか矛も落としていて、ほんとに我慢できなさそうだった。
おのこ「ぐぬぬ……もはやここまでじゃ……っ」
言ったそばから滴り落ちていく何かが見える。わたしにはそれがよくわかる。
おのこ「そうじゃ忘れておった……これは天から、あの頃の海に下ろさないとまったく意味がなかったのじゃ……わしとしたことが何をしておるのじゃぁ……」
自分のしたかったことができなかったらしくてむせび泣いている。同じ目線に立ちながらちょっと不思議な子だなって思った。
未咲「まぁまぁ、見せようとしてくれたことはわかったから……」
おのこ「くやしいっ、とにかくくやしいのじゃぁ……」
結局性別さえわからなかったけど、その子のことをひとしきりなぐさめてわたしは帰ることにした。ずっと大丈夫って言い続けてたし、いい子なんだと思う。
おのこ「できるならあの頃に戻してあの小娘に見せてやりたかった……いまとなってはその方法もわからなくなってしまったがの……」
二重に泣くはめになり、しばらく立ち直れなかった。
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