第14話 窮鼠(蛙)と風呂に入る
あるときあたしは瑞穂を誘って温泉に入ることにした。
うみ「疲れてるだろ? 温泉に入ればとれるんじゃないかって」
瑞穂「非常に不本意ですが入らせていただきます」
うみ「なにが不満なんだ?」
瑞穂「うみさんには到底はかれないことです」
うみ「ほんと心開くまでに時間かかるなぁ、お前は……」
瑞穂「相手が相手ですからね」
うみ「はぁ……ほんと疲れる」
瑞穂「なんでうみさんが疲れてるんですか……いきますよ」
うみ「うん……疲れとろうか、おたがいのな」
このときのうみさんはちょっと弱々しく見えました。しかしそれはとんだ思い過ごしだったようです……。
うみ「よぅし、準備完了! いくぞ瑞穂!」
瑞穂「ちょっとうみさん! 隠さないなんてどうかしてますよ!」
うみ「こういうの恥ずかしがる歳でもなかろうに……どれ、瑞穂の裸は……」
瑞穂「うぅぅ~~~~っ……! そこまで見たければ見ればいいです……!」
どうにもならないと判断したのか、おとなしく見せてくれた。
うみ「おーいいんじゃないの。隠す必要なんにもないじゃん」
瑞穂「ぐすっ、んふぅ~~~~~っ……誰かに裸姿を見せるなんて何歳になっても恥ずかしいものは恥ずかしいんです……」
うみ「泣かれてもな……大丈夫だって、裸のお前も十分きれいなんだから」
瑞穂「褒められてもしかたありません……いまのわたしは喩えるなら猫にねらいをつけられた鼠の気分なんですから……!」
うみ「『窮鼠猫を噛む』ね……正確には『蛇ににらまれた蛙』だけど……ほう、下の毛ちゃんと剃ってんのな……そういうの面倒って思わないの?」
瑞穂「思わないです! あのときの気持ちを忘れたくないので!」
うみ「そっかー、懸命だなー……」
正直こう見てると、子どもと来たかのように思えてしかたない。
うみ「ところで瑞穂」
瑞穂「なんですか、うみさん?」
うみ「あたしってそんなに猫っぽいか?」
瑞穂「こんな話したあとにそういうこと訊きます?!」
あっ、ちゃんと意味わかってたっぽくて安心した。瑞穂も大人だったんだな。
うみ「はぁーっ、気持ちいい……」
瑞穂「ずっとこうしてたいですー……」
うみ「さすがにちゃんとあがれよ? のぼせるからな」
瑞穂「そんなのわかってますよー……ばたんきゅー……」
うみ「言わんこっちゃない……」
さすがに早いと思った。もうちょっとつかれていいはずなんだけどな……。
うみ(温泉苦手なのか、瑞穂……?)
あたしが強いのか、ちょっとわからない。考えてるとあたしまでそうなりかけた。
うみ「はよあがろっと……瑞穂、びっくりするなよ……」
あまり反応がないので、そのまま抱えてあがることにした。
うみ「はぁ、拭いてあげないとな……」
着替えまでちゃんとさせて、あたしはひと仕事終えた気分になる。
うみ「牛乳でも飲もうか……」
自販機で買おうとして、お金がないことに気づく。
うみ「うわ、全然ねぇや……あたしこんな金欠だってか……?」
思えば最近いろいろ使いすぎたかもしれない。考え直さないと。
うみ「まいっか、瑞穂からくすねて後日かえそ……」
思いかけてやめた。さすがにやめる方向にさっさと頭まわれよあたし。
うみ「あー、水おいし……」
けっきょく隣にあった水飲み器にお世話になった。これでいい。
うみ「瑞穂にも飲ませてやらないとな……」
コップに汲んで瑞穂のところに帰っていき、口に運んでやる。
瑞穂「ぷはっ」
うみ「おっ、ちゃんと飲んでくれたみたいだな。どうだ、元気か?」
瑞穂「んくっ、んくっ……はぁーっ、おかげさまでこのとおりですけど?」
うみ「相変わらずだなぁまったく……元気そうでよかったけどさ」
瑞穂「だいいちうみさんが長すぎるんです……あやうく死にかけましたよ……」
うみ「大げさなんだって……早くあがらなかったことは謝るよ、ごめんな?」
瑞穂「わたしの身体の小ささを侮ってもらっては困ります」
うみ「あつかいづれぇ……なんだかんだでお前のこと好きだけど」
瑞穂「……つられませんからね?」
うーん……難しい。
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