第10話 ロコおばあちゃん

 海辺に伸びるふたつの影。うみとロコが話をしていた。


 うみ「なぁ、ロコ」

 ロコ「なーに、うみちゃん?」

 うみ「ロコがおばあちゃんになったらどんな感じになるんだろうな……」

 ロコ「えっ? そういうことあんまり考えてなかったなぁ……」

 うみ「あたし思うんだけど、やさしい高齢者になってるんじゃないかって」

 ロコ「えへへ、だといいなぁ……」


 赤い夕陽にぴったりな表情を見せてくれて、この話をしてよかったと思った。


 ロコ「うみちゃんや……」

 うみ「えっ、もう予行演習すんの? それはちょっと早く……」

 ロコ「早くないよ……時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだよ?」

 うみ「そうだけど……ていうか『うみちゃんや』ってちょっと違和感だな」

 ロコ「えー、どこがだめだったのー?」

 うみ「んや、ロコがそれでいいんならいいんだけど」

 ロコ「うみちゃん」

 うみ「なんだよ、ロコ」

 ロコ「大好きだよ」

 うみ「突然そんなこと言われてもなぁ……もっといろいろあるもんかと思ったけど、ここまでくるともうなんかこんなものなのかもな、案外」

 ロコ「そうかも……んっ」


 身体を縮こませるロコ。察するに余りあるくらいに余裕がなさそうだった。


 うみ「大丈夫かロコ? ごめん、やっぱ外だから冷えて……」

 ロコ「ううん、いいの……わたし、うみちゃんときょうはこうしてたいって思ったから……」

 うみ「わかった、我慢できないって思ったらいつでもしていいからな?」

 ロコ「もう……そんなのわかってるよ……」


 うみちゃんにずっと見られて、わたしはどうにかなっちゃいそうだった。


 ロコ「いいからあっち向いてて……恥ずかしいから……」

 うみ「ごめん……」


 なんとか見ないようにしたけど、そうもいかなかった。


 うみ「すまんロコ、やっぱり見せてくれ」

 ロコ「えっ? えっ? うみちゃん、わたしもう限界なの……手ぎゅってしてくれるのはうれしいんだけど、それでおしっこしたくなくなるわけじゃないし……」


 むしろどんどんしたくなってくる。うみちゃんの体温を感じているうちにわたしの気持ちは高まっていき、とどまることを知らなかった。


 ロコ「あったかい……うみちゃんの手、あったかいよぉ……」


 安心感を覚えたのか、ロコの隙間からもあたたかいものが噴き出している。


 うみ「気持ちいいか……?」

 ロコ「もう、うみちゃん……おもらしなんて最近してなかったからなんて言っていいかわかんない……」

 うみ「あたしにはそう見えるぞ」


 そう言って笑いかける。つられて笑ってくれたらと思ったけど、思ったほど笑ってはくれなかった。


 ロコ「年をとったら子どもにかえるっていうよね……わたし、いまからちゃんとそのあたりのこともわかっておいたほうがいいのかな、ってちょっと思って……」

 うみ「そうかもな。んじゃ、あたしも」


 重ねるように音をさせていく。恥じらいはそこにはない。


 うみ「なんか、やってしまうとそれほどたいしたことでもないっていうか、ふだんのあたしたちが気にしすぎなだけなんだよな」


 場所を選ぶ必要はもちろんあるけど、ここならできると思ってした。さすがに誰かにこれを真似されると困るけど。


 うみ「あたしたち、ちょっとヘンなのかもなっ」


 笑うと勢いが増して恥ずかしい。平静を装いたいけど、そうもいかない。


 うみ「見んなよ、えっち……まぁあたしが始めちゃったんだけどさ」

 ロコ「うみちゃんったら大胆~」

 うみ「ちょっ、めくんなって! 誰がそこまでしていいって言ったよ?!」

 ロコ「わたしのも見たでしょ~?」

 うみ「そうだけどさぁ……だめだ、ロコにはかなわん」


 ところ少し変わってここは岬。ひとりの青年が立っていた。


 未咲「んーっ、ひさびさに来たけどなんにも変わってない……」


 そう見えているだけで、時間はもちろん経っている。


 玲香「未咲」

 未咲「あっ、玲香ちゃん」

 玲香「これを届けにきたの。近所のみやげ屋さんで買ったんだけど」

 未咲「わぁー、おいしそう……」


 素朴な和菓子だった。わたしは最近そういうものを好きになり始めている。


 未咲「いくらしたの?」

 玲香「えっ、それ訊くの? 言わないわよ、自分で調べなさい」

 未咲「それは止めないんだ……」

 玲香「とにかくありがたく受け取っておきなさい。これから少なくなるのよ」

 未咲「そうだね、ありがとう」


 いまあることに感謝を。そう言いたいらしい。

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