第8話 これでもかというほどに見せつけられる貧富の差
TVの人「見てください! こちらの高級お肉!」
未咲「うわぁ……ねぇ進く~ん、チャンネル変えよーよー!」
TVの人「うわー、こちらもすごいです!」
進「んー……もうちょっと見てたいなぁ」
未咲「なにそれ……進くんはわたしとテレビどっちが大事なの?!」
進「こういうの食べられるようになるといいなぁ、って思いながら見るものなんじゃないかな、この手のものって……」
未咲「そうだけど、わたしはぜんぜん面白くない!」
進「ごめんごめん、好きなの見ていいよ」
未咲「わぁいっ、なに観よっかなぁ……」
ぽちぽちチャンネルボタンを押してると、しだいに何見ていいかわかんなくなる。
未咲「……どれ見たらいいの?」
進「さっきのでよかった気がするんだけど……」
未咲「やだやだっ、現実見えちゃうからわたし別のがよかったのに……」
進「……これじゃだめ?」
未咲「んっ?!」
一瞬、現実かどうかわからなくなる。
未咲「いいい、いまさっき何したの?!」
進「なにって、キスだけど……」
未咲「そ、そういうのはもうちょっと気分つくってやるものなんだよ? そんないきなりされても困るよ……」
進「ちょっとでもテレビの疎ましさから気を逸らせられたらって思ったんだけど」
未咲「うれしいんだけど……DVDとかないの? 進くんとなら何を観たって面白いかなって思ったけどそんなこと全然なくて笑っちゃうね……」
進「そうだね……こういうのはどう?」
未咲「『有名人お仕事ファイル』……面白いの?」
進「僕にとっては、ね。未咲ちゃんが気に入ってくれるかどうかはわからないけど、僕はこういうのを参考にしてやってきてたことはあるからいいかなって」
未咲「……もっと恋人らしいことがしたいなぁ」
進「そっか。これなんかどうかな?」
未咲「『熊に魅せられた少女』……?」
進「ちょっとメルヘンチックな内容になっちゃうけど、未咲ちゃんはこういうの好きかな?」
未咲「まぁ、どっちかというと好き、かな……」
進「よし、これにしよう」
いまいち腑に落ちない気もしちゃったけど、わたしはうなずいた。
進「面白いかい?」
未咲「もうっ、まだ序盤のほうだからぜんぜんわかんない……進くんだまってて」
進「ごめん……」
気がはやってしまって、夢中になってるところつい訊いてしまった。
未咲「……」
進「(だいぶ集中して観てるみたいだ)」
ときおりくすっとするくらいには楽しんでくれてて、選んだかいがあった。
進「どうだった?」
未咲「うん、おもしろかった」
進「それはよかった」
うっとりしてるところを見ると、この作品が伝えたかったことをしっかり読みとってくれているよう。
未咲「最後のほうの、熊さんと別れなきゃいけなくなった女の子の表情がなんともいえなくてわたし、ちょっと泣きそうになっちゃった……」
進「うっすら涙が見えるね……拭いてもいいかい?」
未咲「ありがとう進くん、もう乾いちゃった……」
進「また余計なこと言っちゃったかな?」
未咲「ううん、お気づかいありがとね」
安心できる場所を見つけられたような気がしたこともちょっとあったのかもしれない。わたしはここまでよくやってきたのかも。
未咲「観終わったら肩こっちゃった……進くん、ちょっと揉んでくれない?」
進「えっ? ……いいけど」
なにか言いたげにしてる感じはしたけど、おとなしく従っているように見えた。
進「こんな感じかい?」
未咲「んー、もうちょっと右かな……」
進「……ここ?」
未咲「もうちょっと左~」
進「……どうすればいいのかな?」
未咲「どっちもだよ~」
進「(これはとんでもない女性と付き合ってしまったかもしれないね……)」
もてあそばれそうな想像さえ容易につきそうで、いまから戦々恐々としている。
未咲「そういえば進くんはモデル時代どれだけ稼いだの? ごめんね、夢をのぞきみるようなことしちゃって」
進「そんなにだったかな……ほとんど事務所が持っていって、僕のところにはそんなに……僕の場合、そこまで有名にもならなかったからしかたないんだけどね」
未咲「そうなんだ……そういうものなんだね……」
どちらにせよ現実が見えてしまう。これが大人になるってことか……。
進「確実な道があるといいけど、いまの僕には見えてないね」
未咲「この先大丈夫かなぁ、わたしたち……」
進「高望みは最初からしないほうがいいだろうね。うまくいかないかもしれないだろうし、焦りの原因にもなるだろうから」
未咲「そうだね。ゆっくりいこう」
進「きょうはもう寝よう。またあした考えよう」
未咲「うん、おやすみー」
あくびが出たところで、寝る準備に入った。
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