第3話 ふところが……でもおむつスキーしたいっ
人はときに、無理をしてでも達成したいことができてしまう。
今回のケースがそれだった。わたしは生活でお金がなくなっていくいっぽうで、ある思いを膨らませつづけていた。
未咲「久しぶりにスキー、してみたいなぁ……」
小さいころに親戚に誘われてしてみたけど、うまくできなくてそれからしばらく離れてたんだっけ。
未咲「どうせならもうちょっと楽しくなるように……そうだっ」
わたしはクローゼットの奥にしまってた、わたしにとっては "お宝" であるそれに手を伸ばした。
未咲「これこれっ。これさえあればちょっとは楽しめるかな……」
思い立ったが吉日。わたしは予定をたててその日に向けて準備をしていた。
♦
そして当日。期待に胸をふくらませて真っ白なスキー場に足を運んだ。
未咲「ここだっ」
ほんとに久しぶりだったので、こんなところにあるのかなって不安になった。
未咲「あの頃と何も変わってない……時間が止まってるみたい……」
ちょっと不思議な感覚だった。昔に帰ってきたような、そんな気がした。
未咲「玲香ちゃんと来てたっけ……もうちゃんと思い出しにくくねってるのがちょっとさみしいような……」
そう、わたしはもう変わったから。
未咲「いつか進くんと結ばれて、幸せな生活を手にしたいなぁ……」
切り裂かれる仲だったらどうしよう。そんな心配をしていてもしかたないけど。
未咲「そんなことないよね……わたしが選んだ人だもん……」
そう思うことで自信につなげようとした。
未咲「よしっ、すべろっと」
ロープウェイに乗って、わたしは頂上に行くことにした。
未咲「トイレに行きたくなったけど、その心配ないんだった……」
いつもと違う感じがして落ち着かない。やると決めたからそんなこと言ってられないけど。
未咲「いこっかな……」
ゆっくりと滑りだす。まだなんとかかろうじてすべることができた。
未咲「意外と覚えてるなぁ……ほとんど忘れてたと思ってたけど……」
教えてもらったようにすべると、その感覚がおもしろいように思い出せる。
未咲「きゃっ」
そんなにうまくいくはずなかった。
未咲「あはは……やっぱりだめか」
楽しいと思った。こんなことしばらくやってなかったから。
未咲「!」
接地面のところを意識すると、いっきにしたい欲がこみあげてきた。
脚が開いてしまい、それから閉じることはついになかった。
未咲「どうしよう……これ、もうやっちゃうかも……」
そう思うと止まらなくて、ついに音がしはじめた。
未咲「あっあっ……」
もう無理だとさとっていても、身体はなんとか我慢しようとする。
未咲「まだいけるよね……ここから立ち上がれば……」
あきらめに近いにもかかわらず、そんなことを言いだしてしまう。
しゅぃぃぃっ。
未咲「やっ、でちゃだめ……」
女性特有の高めの放尿音とともに漏れ出る声。自分でもびっくりするくらいなさけなくて泣きそうになった。
未咲「おとなになってまでこんな、ちょっとくらいしっかりしてきたかなって思ってたのに……」
子どものころはまだしかたないとして、これはだいぶ恥ずかしい。
未咲「わかってたのにやっちゃった……止められなかったのかな……」
自分に嫌気がさしそうになって、あわてて首を振る。
未咲「ううん、これは自分がやろうって決めたことだもん。何も間違ってないよね……」
そうだよね、って言い聞かすのに必死だった。やらなきゃよかった。
未咲「でも、やりたくなっちゃったんだからしょうがないよね……」
ひと段落したところで立ち上がる。裏腹にも青空が広がっている。
未咲「うん、これはこれでよかったんだろうけど……」
いまひとつ納得いかない感情だった。なじみのあった場所でやっちゃったことがなにかわたしの中で違ったことがあるのかもしれない。
未咲「別の場所にすればよかったかな……お金もつきちゃったし……」
これからはまた節制の日々だと自分をいましめる。終わったあとおむつを脱いでスカートの下は何も穿かないことにした。
未咲「これはわたし自身に課す罰だから……」
風邪ひくからやめなよって誰か止めにきそう。誰も来ないけど。
未咲「くしゅん!」
案の定風邪になっちゃったけど、幸いその翌日も休みだったうえ一日でなおったからよかった。
未咲「長引いてたらわたし、ほんとにばかみたいなことしてたってことになっちゃうしほんとによかった……安静にするにかぎるね、こういうときは……」
大事にならなくてよかったけど、気をつけようと思った。
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