煉獄にて光あれと
つるよしの
序章 殺戮の夜
魂の殺人
朝のひかりの眩しさに、カーサが目を覚ましたとき、オルグは欲望を存分に満たした満足感から、深く寝入っていた。
……動かした体に激痛が走る。
「はあ、っ……」
見れば自分の体の至る所に、男の欲望の徴が残っていた。体液に血。おびただしい数の傷。
……そう、その一夜、カーサはオルグに責め立てられたのだった。
快楽は全くそこに無かった。カーサはあまりの辛さに屈服し、掴まれたままの黒髪を振り乱し、赦しを何度も請うたのだ。
しかし、それがさらにオルグの支配欲を刺激させたのだろう。最後に、彼はカーサの両手を縄で縛り付けると、彼女をこう詰った。
「さあさあ、感じろ。王族に叛した罪の重さを、全身で……!」
……そうだ、それまで以上に執拗なその責めに、たまらず、私は遂に意識を失ったのだ……。
それらを寝台の上でぼんやりと思い出し、改めて一夜のこの男の暴虐に記憶を遡らせたとき、カーサの中で激情がはじけ飛んだ。怒りとも哀しみともつかぬ、どす暗い感情が濁流となって彼女を襲った。
カーサは自分の手を拘束していた縄がたわんでいるのに気づくと、手を動かし、手首を縄から抜け出させた。そして外れた縄を掴むと、オルグに近づき、その首に縄を通し、勢いよく締め上げた。
「ひっっ……!」
オルグは目を覚まし、瞬時に状況を理解した。
彼は、想像もしない自らの危機に、怒りのあまり、起き上がってカーサの首に手を伸ばした。カーサの首に男のいかつい手がかけられた。だが、カーサは縄を締め付ける手を止めなかった。
激情の任せるままに、そのなにもかもを翻弄された一夜から想像できぬような力を絞り出し、彼女はしぶとく男の首を絞め続けた。
縄がオルグの首に強く食い込む。オルグの手もカーサの首を締め上げつつあったが、決着は、またたくまに着いた。オルグの首の骨が折れる音がすると同時に、彼は全裸のその体をあっけなく崩れ落とした。
だが、カーサの気力もそこまでであった。オルグの体が床に転がるのを見届けると、自らも再び意識を無くした。
ああ、これで私は殺される。
だが、この一夜の屈辱の借りは返した……。
ならいい、それでいい。
もう、私は、今夜、一度死んだのだ。
……だから、どうなっても、かまわな……い……。
カーサもオルグの横にゆっくりと崩れ落ちると、深淵に意識を沈ませた。
故郷の懐かしい夢が彼女を呼んでいた。
静けさを取り戻した後宮の一室には、朝のひかりと共に、小鳥のさえずりが満ちはじめていた。
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