写真

@luckycan

写真

―コウスケが死んだ―

つい一週間前まで生きていた彼が。僕はまだ現実を受け入れられずにいる。

あぁ今日は寒いな。雨の予報が雪に変わったらしい。鼻がつんとするのは寒さのせいか。


彼とは十年来の付き合いだ。大学生の頃ペットショップで出会った。僕は猫の方が好きだったが彼は犬の方が良いと言う。全く理解できなかった・・・が、今なら少しわかるような気がする。


その日コウスケとは初めて会ったが僕らは嘘のように気が合った。休みの日はランニングをしに行ったり、買い物に出かけたり、一緒に山に登ったこともある。コウスケといると時間があっという間に過ぎていく。彼といる時だけ僕は本当の僕でいられた気がした。


大学時代、僕は完璧な人間を演じていた。高校での失敗を繰り返したくはない。その一心だった。完璧な人間を演じることで大学の人気者となった。周りに人も集まるようになった。もう僕は一人にはならない、そう思っていたのに・・・


ちょうど一週間前病院から電話があった。コウスケが危ないと。僕は急いで病院へ向かった。でも遅かった。コウスケが目を開けることはなかった。


彼の笑顔が好きだった。寝顔もご飯を食べている姿も。携帯にはコウスケとの思い出がたくさん入っている。彼が一人で変顔をしている写真もある。懐かしいなぁ。彼との思い出を振り返る。もう会うことができない。そう思うと涙が止まらなかった。


外は賑やかだ。そういえば去年のクリスマスはコウスケとイルミネーションを見に行ったっけ。今年は一人で過ごすのか・・・同じ光なのに今はとても眩しく感じる。


病院から連絡が入った。一週間前と全く同じだ。信号は青に変わったのに足が重い。僕の心臓はすごいスピードで動いているのに、周りはスローモーションのように見える。あぁ僕はもう一度あの日を繰り返すのかもしれない。信号が点滅し始める。


横断歩道の向こうでコウスケの姿が見えた。コウスケ!僕は走った。コウスケが僕を呼んでいる。


気がつくと僕は病院にいた。外はもう真っ暗だった。今日はクリスマス。街の光が窓から見える。綺麗だ。「コウスケも見ているのかな」と僕が言うと隣から「ええ、きっと見ているわよ」と声がした。


「新年、明けましておめでとうございます」

この言葉をテレビで聞き始めて五日が経過した。今日は良い天気だ。確か気温も十度を超えると朝のニュースで言っていた。

「それじゃあコウスケ、行ってくるね。」僕は棚に飾ってある満面の笑みを浮かべるコウスケに声をかけ、家をあとにした。


病院に着くと看護師さんと一緒に妻が出て来た。「退院おめでとうございます」「ありがとうございます」と妻がほほえむ。それから僕たちは看護師さんにお礼を行って車へ乗り込んだ。心なしか車がいつもより重い気がした。


リビングに飾ってあるコウスケの写真の隣には青い首輪とリードが置いてある。彼が使っていたものだ。今日はその横にもう一枚写真を飾ることにした。

「コウスケ、見ているか?お前に弟ができたぞ。」一瞬だがコウスケの目がさらに細くなった気がした。


やがて季節は移り変わり春が訪れた。今日もコウスケはあの笑顔で僕たちを見ているのだろうな。満開の桜を眺めながら彼のことを思い出す。


風が吹き花びらが舞い上がった。ふと木の影から桜の花を頭に乗せたコウスケが見えた気がした。


見えた気が…した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

写真 @luckycan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る