第17話 異世界2週目 (月曜日)

 暗闇から徐々に光が差し、異世界の朝がやってきた。"実世界"の一日は短いようで長い、凝縮された一日だった――Uberの配達しかやってないけど…


 光が差し込む窓を眺めて、韓流アイドル顔の("異世界こっち")のオレは心で言ってみた。


 ――"実世界"の、足の裏で踏みつけられてコロコロされているような劣等感のシーツを振り払うように。



 …実際のシーツは包帯と共に、流し・・にブチこまれている――自分で吐いたゲロだ。自分で片付けよう、、(自分で蒔いた種だ、みたいに言ってみたものの、やはりキツイ…)。

 胸のキズの痛みと熱はずいぶん収まっていた。一日半で。やはり古代(異世界)の薬は効果すごいらしい(←薄識バカのイメージ。ただ――、"病は気から")、オレは純粋な睡魔におそわれて再び目を閉じた――まぁただ単に、ねむかった。



 差し込む激しい日差し。


 オレはあまりの眩しさに、窓と反対に寝返りをうち、身を縮める――ゴワゴワの布を、腕と身体のあいだに感じた…。オレの服は窓辺に干してあった。オレは、目をこらして見た――部屋の片隅には、レデアブ(宮本沙羅アイドル)が下着姿のまま膝をかかえて眠っていた。


 …まだいる。


 ――とっくに帰っていて、もう出会えない気がしていたレデアブが。


 

 オレは、(パンチを受けないように)そっと、レデアブをベットに寝かし、窓にかかった自分の服と、オレにかけてくれていたレデアブの服を重ねてかけた――俺自身は全裸だった。いや、上半身だけに包帯が巻かれている、なかなかの変態姿だった――。


 慌てて洗体用の布切れを腰に巻き、シーツを流しで洗って窓から外に出るように干し、ついでに使用済みの包帯も洗い、窓から外に出るように干した。


 ――なかなか起きないのね?、、。


 若さのせいか――



 やがて、オレも再びウトウトしかけたとき、


「あ、おはよう――」


 平たい日本人顔のレデアブアイドルが目を覚まし、言った。


「やっと目覚めたのね」


 …キミがね。


「具合はどう?」


 そういうセリフは、ベット脇から言うのでは、と、思ったが――



「おかげさまで。」


(こればっかりは、本当にレデアブのおかげだった。)


「そう、良かった」





 オレは、暖炉で沸かしたお湯でコーヒーを入れた。輸送時間が短いためか、"異世界こっち"の豆でれるコーヒーは美味しい。


「――ふぅ」


 それ以外の、レデアブの感想はとくになかった。




 爽やかで気だるい(――オレの場合、気だるいというより身体がかなり重い、、)時間が流れ、レデアブは窓のほうを見て、やっと口を開いた。



「包帯とかシーツとか、自分で洗ったの?」


「ああ。自分で汚したやつだし――それより、あの包帯とか薬とか、結構お金使わせたでしょう。ありがとう」


(何も言わない、、)


「まず、せめてその分だけでも返さないと。どうやるのか分からないけど」


 ――オレは、自分のカードを探した。


「あ…、そういえば――カードが、、」


 ……オークにガッツリ正面をけずられて、そのあとのセルバの全力疾走で、、。あそこに落としたまま、、。どうすれば――



「これ?」


 レデアブがオレのカードを手にもっていた。


「え、どうして?――てっきり落としたんだと、、」オレはそう言って手を伸ばした――その瞬間、


 レデアブはオレのカードを(マジシャンばりに)窓から飛ばした。



 慌てて窓の外をのぞく――。


 ゆらゆらと地面に落ちていくオレのカード。


 恋の世界だとしても、日本以外で財布カードを落とすとスラれても仕方ない。


 ――振り返って、レアデブを見ると、笑っている、、?


 やっぱり、サイコな人だった…!?



「試したことなかった?」


 そう言うレデアブの手には、オレのカードが、、?


 ――実は、マジシャン?



 レデアブはもう一度、オレのカードを窓の外に飛ばす――しばらくすると、オレの目の前、ベットの上にカードが現れた。


 ――ああ、(異世界ここでは)そういう仕組みなんだ、、。だとしても、伝え方が雑すぎませんか…オレ、病み上がり、って言うか、まだ病み上がってないんだけどな…。――まぁいい。


 オレは自分のカードを、レデアブが首から下げていたカードに重ねようとした。(カナが親方からチャージを受けていたときはこんな感じだった。)


 レデアブは手でさえぎる。


「あ、いや、お金――」


「いらない」


「でも――」


「いらない」


「そう…、、」


(で、無言――)



「どうして助けてくれたの」


「痛そうだったから」


「確かにぃっ‼」


(チャラ男っぽく言ってみた。)


 ――笑わない。韓流顔とキャラが合ってなかったか、、?


「じゃあ――、代わりに」


 オレは、ノートを開きレデアブを見つめながら、描いた――。"実世界"でのレデアブの姿を。


 それを受け取ったレデアブは、言った。



「似てない」


 ――だよね。(何か反応があると思ったのだが、、)


「じゃあ――」


 今度は、アガベ(リュウゼンカツラ)を描いてみた。あまり綺麗な植物ではないが、数十年に一度花を咲かせる(――スピリチュアル?なモノにはまっていた一時期、芸術系・・・の大学でよく書いていた。)


「魔除けにでも」


(※ いつか咲かせたい花が自分のなかにある、というインチキ占い師ばりの大まかな予想に、植物の名前と説明を聞かれたあとの、その見た目とのギャップ――を、予想しての"魔除けにでも"。)


 レアデブはその絵をじっと見て、言った。


「――気持ち悪い。」


 そのあとの質問はなし、、。



 ――オレは力尽きた。女子へのプレゼントは難しい――、ベットに崩れ落ちて眠る。



 レデアブもまた、部屋の片隅に行き、膝をかかえて、ジェソクを見守った。

 

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