第15話 実世界

 蒸し暑い朝(世間的には昼)、目覚めたときにはスエットを脱いでパンツ一枚になっていた。手探りでリモコンを探し、テレビをつける。お昼のニュースはやってない。


 ――今日は土曜日だったか…


 いや!その前に、オレ、異世界に行ってたよね?




 オレは傷を負った胸を鏡に映し、見た。


 薄っすら痕が残っている――あと、オレ自身もなんか薄っすらしている…透明人間になったんだっけ!?

(あやふやな記憶をたどる。)



 オレは、キャンバスに立て掛けてあった、未完の小作ださくに正拳突きを放った。



 ――バリッ!!



 突き抜けた――キャンバスをぶち破って。



 ……ポップアートの完成だ。



――そんなことを言っている場合でも、新たなアートを創作している場合でもない!!



「一体、どういうことだったんだ――?」





 振り返ると、セラピムが浮かんでいた。




「あっ!…」



「まだ、見えるのか」セラピムが言った。「オークにやられた衝撃のせいだな」


――オレは、異世界で起きたことを全部、思い出した。



「……すべてはここから始まったんだ。」


 物語の主人公ぽく言ってみたが、今のオレは目立たない冴えないただの半大人オジサン?…。しかも、話の終わりは全くもって見えてこない(だってまだ、一週間だし)。



「――何もしてなかったからな」


 セラピムがオレの心を読んでツッコミを入れる。



 オークの件、知ってたなら助けてくれっ!とか、色々言いたいことはあったが、また消えてしまう前に聞いておいたほうがいい事が他にもある。



「好きな色は?」


「赤」


「赤か――、意外だな」


 (どうでも良すぎるだろっ‼――なにを焦っているんだオレは)




「打ちどころが悪かったのか」


 ――堕天使に心配されてしまった。


「まぁ、いい。まず――」


 セラピムはオレの疑問の答えを語りはじめた。(だって心読まれてるから、、)


「――姿が薄くなってるのは、魂が異世界にも残っているからだ。普通は気づかないが、どうやら激しい衝撃を受けたせいで、オマエは両方の記憶が残るらしい。これはレアなケースだ。良かったな、取柄とりえができて。」


 (一言多いが、黙って聞こう…)


「あと、その胸のキズだが――それも、オマエにしか見えない。心深くに刻まれるような記憶は、実世界こちらから異世界むこう異世界むこうから実世界こちらへと引き継がれる。その傷跡も、異世界むこうで痛みが消えた頃にはなくなるだろう。じゃあな――」


 去ろうとするセラピムへ、オレは反射的に手をのばした


 

 セラピムは、その手を羽で払い、オレの頬をビンタした。

(――間違いなく、レデアブの真似だ。)



 ――そして、オレを見て、腹をかかえて爆笑する。



(悪魔めっ‼オレがどれだけ苦しんだと思ってるんだ!)

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