第14話 ヒマつぶしのつもりがエライことに‼ その4

 暗がりのなか、微かに目をあける――


 ランプの灯りに照らされているのは、我が"家畜小屋"。



 ――誰かに抱え起こされている。


 頭を支えられ、頬にはやわらかい女子の胸の感触。生きていたんだ。(――やはり、異世界ここで…。)そして、また意識を失う――




 次にまぶたを開けたとき、眩しい日差しを感じて顔をそむけた――女子は、窓からの日差しを布で覆い隠し、オレの額に手を当てる。


「――」(なにも言わない)


 女子は、新たに水に湿らせた布をオレの額に乗せ、しばらくして木の杯で、液体(この状況だと薬以外ないはず、、)をゆっくり飲ませてくれる。


「…誰?」


「私は、レデアブ」


 オレは眼をしっかりと開き、どうやら介抱してくれているらしき、その人を見た。



 そこにはベット脇に腰かけた、平べったい顔の日本人?女子がいた――。


「誰、ですか…?」


「レデアブ」


「――そう。」


 、、中東系の名前の割には身近に感じる・・・・・・"容姿"…。きっと"実世界"では患者のために自分の生活を捧げる看護師で、こちらに来るときも自分の"見た目"のことなど気にしなかったのだろう――でも、なんでそんな実世界リアルの天使がこっちに?お手本にしろということか?


 ――意識がはっきりしてきたオレは、胸の痛みと高熱をふたたびガチで感じとり、吐き気を催した。そして――


 ――ウッ、オエッ、、


 シーツの上に吐いてしまった。


 冒険の高揚感で大してなにも口にしていなかったので、オレの口からでたのは干し肉の欠片かけらと知恵の実、それに今、口にした薬?、ぐらいだったが――、シーツは、とても悲惨な状態だった。

 それでも気にすることなく、レデアブは(水道水ではない、きれいな)水をつかってオレの口をすすいでくれ、シーツを流し・・に置くと、震えるオレの上に自分の服をかぶせてくれた。


 その後も下着姿のまま、オークにやられた胸の傷の包帯を、何度も新しいものに取り換えてくれた。



「レデアブ」


 ――彼女の反応はない。


「ありがとう」(そう。まずはお礼だろ!)



 レデアブは軽く、首をよこにふった。



「セルバ、――いや、一緒にいたラクダは?」


「あなたに結んであった手綱をほどいたら、走り去った。町の外れ」


(――しゃべった。)


ほっとした。


「――そう。でも、セルバのおかげで助かったんだ。」


 心のどこかに、あの薄情者めっ!と思う自分もいたが、もともと身から出たサビ、、巻き込んで悪かったなセルバ。大けがをして気弱になっているオレは今までになく慈悲深く?なっていた。


(この女子までも、特殊な殺人鬼に思えてしまっていた。)


ほっとした。



「でも――、それならどうしてオレの家が?」



「これ――」


 レデアブが取り出したのは、オレのノートだった。


「ああ。ここ、来たばっかりだから――」


 そこには汚い日本語で、"オレん家、三階右"、と、バカッぽい図解入りで書いていた。


――まあいい。おそらく、もう、身の安全は確保できたし。気取っている場合でもその気になる相手タイプでもない。(←失礼な!恩知らずがっ‼)


「そう」


 レデアブは、ほかには何も言わず、オレの額に当てた布を桶のなかの水で冷やしている。前掛けのようなブラは、背中に紐で結んであった。その紐に隠れるようにしてタトゥの文字が入っている。読めないが、数字と文字の組み合わせだということは分かった。


 どこかの場所を示しているように見えた。――宝の地図か?


 なぜそんな風に思ったのかはどうでも良く、とにかく、ただ、痛み・・から気をそらしたかった。


 オレは少し、身を起こしてそのタトゥの方に手を伸ばした。



 ――ピシャッ!バシッ‼




 ――手をはらわれ、ビンタされた⁉



 あ、いや、そんなつもりじゃ…




「ごめんなさい‼」


 オレが言い訳をするまえに、レデアブのほうが謝った。


(……触れても良いってこと?)

 

 オレは何も言わず、再び、手をのばした。



 ――パンっ‼ボコツッ、、


 今度は、グーでなぐられた。



 そして三度目は、何もしていないのにもう一発なぐられた――。鼻血が…



 それでもレデアブは、帰る、とは言わず、オレの介抱を無表情、無感情で続けてくれて、異世界での週6生活、最初の――、最後の夜がふけていった。

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