第13話 ヒマつぶしのつもりがエライことに‼ その3
翌日の早朝、土曜日。まだ、薄暗い時間帯。
安息日だからなのか、通りにはまだ誰もいない。
――そして、眠い。
しかしオレは、より眠そうなセルバに慣れない手つきで鞍をつけた。部屋の水道から汲んできた水でセルバの顔を洗い、少量のオリーブ油で鬣を斜めになでつけた。額にかかるほどの鬣たてがみがセルバの特徴だ。凛々しくなった。さあ出発だ。
オレは、勢いよくセルバの背中に飛び乗った!
すぐに振り落とされた――、
――?
――もう一度。
こんどは振り落とされたあと、蹴られそうになった、、。
――ラクダって、夜行性?
出発前からモチベーション下げてる場合ではない。オレは、鞍についていた荷物袋に残っていた短剣をちらつかせて言ってみた。
「オマエが今日の獲物でもいいんだぞ(笑顔で。もちろん冗談!)」
――愛の世界で無意味な殺生はどうなるか考えてみろ!
一瞬、セラピムの声が聞こえたような気がした――。この世界で最下層のオレは、一発で無期懲役クラスの寿命を授かることになる。
「冗談に決まってるだろっ!」
オレにできる最大の笑顔でセルバ(と、セラピム)に言い、手綱を持って歩きだした。
そして――まず、町を出るまえに、青い幹の巨木がある湖のほとりで革袋に水を貯める。
どういう原理か分からないが、ここの水源も海まで続く川をつくれるほどの水量はないのだろう。上空から見た限り、3つのうち2つは途中で川の水が途切れていた。一番右の一本だけが左に弧を描きながら荒れた小高い丘の間を縫って向こうまで伸びているようだった。その先がどうなっているのかは見えなかった。
大事な水源だからといって、堰き止めたりするのは宗教的(もしくは、この異世界的?)にまずいのかも知れない――ともかく、オレとセルバが目指すのは、一番右、その川が弧を描く更に右、ポツンと浮かんでいたオアシスのような緑地帯――ここからでは砂の山が邪魔をして見えない。――だからチャンスなのだ。
オレとセルバは川沿いを歩いていった。どのくらいの距離があるのか分からない。でも、まる一日ぐらい歩けば(本当はセルバに乗るつもりだったが、、)たどり着けるだろう。干し肉と固いパン、あと知恵の実も持ってきた。最初の冒険ならば、ちょうどいい距離だ。ボラムの町から外へ出たり、外から入ってくる人間は、大きな獣を板にのせて引っ張っていたあの大男(実際に、町の外から入ってきたところを見たわけではなかったが)の、他はいなかった。
珍しい珍獣を捕まえて帰ればそれなりの値で売れるだろうし、冒険ダンディー(今は韓流青年)の需要はそれなりにあるはず。
何より――、どうせ、ヒマなのだ。
川沿いの道は歩きやすく、太陽が上りきる頃にはすでに、オレたちは川が弧を描く地点に到達した。
セルバに水を飲ませ、オレは革袋に入るだけの水をつめる――そう遠くはないはず。オレは、周りを見渡す。
北へと延びていたはずの他の2本の川は、すでに跡すらなく、この川もずいぶん水量が減っていて、砂に変わろうとしている岩山が迫ってきている。
オレは川が伸びる先へと目を戻した――
わずかに緑が残る水辺へとやってきたのは、一人?の、オークだった、、。
オレ自身、のどを潤しながら、オークに会釈した。散々、珍獣の姿を想像しながらここまで来たし、それに、異世界だからという気分が抜けきっていなかったせいか、おぉ、仲間よ!みたいな感じで。
――もちろん仲間ではない。
こっちに向かってくる…
デカイのに!すごいスピードで‼
オークが腕を振り上げたあとの、はっきりとした記憶はない、、
――逃げないようにオレの腰紐にしっかり括り付けておいたセルバの手綱に引かれて直撃は免れたのだろう。オレは身体の正面からジワジワと出てくる生暖かいもの(それはどう考えても、血だ!)を感じつつ、べつの生き物になったセルバの全力疾走で町まで引きづられて後頭部と背中に致命傷ダメージを負い、そして、死ねないことが頭に浮かんだ瞬間、目を閉じた。
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